第25話 おっさん、黙々と依頼をこなす
その後、業者が来たので荷物を引き渡す。
これで、俺の依頼は終わりなはず。
「では、これにて依頼完了でよろしいでしょうか?」
「ええ、色々とありがとうございました」
「いえいえ、もし何かあれば冒険者ギルドに依頼を出してください」
本来、自分の上下一個違いまでしか依頼は受けられない。
だが、指名依頼となると話は別らしい。
その場合は、引き受ける事が可能となる。
「あらまぁ、良いのですか? ランクが上がっても、依頼料は対して出せませんが……」
「無論、それを優先できるという約束はできません。しかし、無下に断ることもないと約束しましょう」
どうやら、この系の仕事は人気がない。
なにせ実入りが少ないし、冒険者らしくないとか。
だったら、仕事を奪う心配もないだろう。
「ふふ、お優しい方もいるのですね。あっ、もちろん何人かは知ってるのですが……」
「いえいえ、職業柄荒くれ者が多いことは事実ですから。それでは、失礼いたします」
「あっ! ちょっと待ってください!」
そう言い、部屋の中に戻っていく。
そして、何かを抱えてすぐに戻ってくる。
その手には、包みに入った何かがあった。
「これ、良かったらどうぞ」
「いえ、依頼料は頂いてますので」
「庭を手伝ってくれたお礼ですよ」
「……では、ありがたく」
ここで断るのもアレなので、大人しく受け取る。
そして今度こそ、家を後にするのだった。
依頼を終えた俺は、都市の真ん中である十字路に向かう。
「ふむ、中々に賑わっているな」
ここは中央広場ともいうらしく、噴水と時計台がある。
子供達が駆け回り、大人達が談笑している。
近くにはベンチや屋台もあり、まさしく憩いの場といったところだ。
「さて、俺もあやかるとしますか。まだ十時半くらいだが、食べてしまおう」
人が少ない場所を探し、そこのベンチに座る。
そして、頂いた包みを開けてみると……。
「これは……バゲットか」
硬めのパンからは、肉がはみ出ている。
それに見たことある野菜がちらほら。
「とりあえず食べるか……おっ、美味いな」
噛んだ時にサクッとなる食感。
シャキシャキ感のあるレタス。
何やら味の濃い肉。
そしてトマトが良いアクセントになっている。
「こういうシンプルなのが一番美味かったりするから、本当に料理は奥が深いよなぁ」
どんな豪華なご飯でも、一杯の味噌汁と米に敵わない時もある。
その時々に合わせた食べ物こそが、その人にとって一番のご馳走だ。
「あとは、気持ちがこもってるから美味いんだろうな」
俺が作業している間に、わざわざ作って用意してくれたってことだ。
料理人としては、忘れてはいけないことだと思う。
食べ終えて休憩をしたら、次の仕事を始める。
指定された場所に行くと、説明と袋を渡される。
どうやら、決められた区域のゴミを拾う作業のようだ。
指定された大きな袋5枚分のゴミを拾ったら、それを係の人に渡す。
「さてさて、ちゃちゃっとやるとするか」
路地裏などにあるゴミをトングを使って拾っていく。
どこの世界でも、ポイ捨てというのはなくならないらしい。
「でも、助かったな。この都市が衛生管理がある程度出来てて」
このゴミ拾いしかり、街の清掃の依頼があるってことはそういうことだろう。
汚くなると病気などの原因にもなる。
わかってやっているのかはわからないが、とても良いことだ。
まあ、ただ汚いのが嫌って可能性もあるけど。
「……よし、こんなもんかな」
黙々と作業を続けると、いつのまにか依頼分の袋が溜まっていた。
それを係りの人に持っていくと……。
「も、もう終わったのか?」
「ええ、大した量ではないので」
「ふむ……やる気がある冒険者も珍しいな。だいたい、くっちゃべってるか、ダラダラと作業をするんだが」
「仕事に良いも悪いもないですから。それに、誰かがやらなければならない仕事です」
「……ハハッ! ソーマとか言ったな……覚えておくよ」
「ありがとうございます。それでは、これで失礼します」
きちんと挨拶をし、次の仕事に取り掛かる。
さあ、ソラに早く会うためにも頑張るとするか。
……やれやれ、俺の方が子離れできなそうだ。
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