第20話 おっさん、冒険者登録をする

 その後、ギルド内に戻ると……周りから視線を浴びる。


「ん? なんだ?」


「な、なにかな?」


 俺がクレアさん達に視線を向けると……。


「はぁ、気にしないで良い」


「ええ、そうですね。多分、ギルドの奥に入ったから気になってるんだと思います。あそこに入るイコール、ギルドマスターに会うということですから」


「奥に行けることなど、ほとんどない。本来なら、B級以上でないとな。それに、ソーマ殿は顔が知られてないから気になるのだろう」


「あっ、なるほど」


 色々な意味で、物珍しいってことか。

 あんまり目立ちたくはないが、こればっかりは仕方ない。


「お、お父さん……」


「ん? ……ありゃ、眠くなっちゃったか」


「う、うん……」


 ソラの頭がゆらゆら揺れている。

 まあ、こんなところに来るのは初めてだし疲れるわな。

 俺自身も、ステータス効果がなければどうだったか。


「えっと、どうしたら良いですかね? この後の予定とか……」


「もうすぐ日が暮れる。なので、ギルド登録したら宿に案内する予定だ」


「まだ時間はかかりますから、私が預かりますね。二階には座るスペースがあるので、そちらで待ってます」


「ミレーユさん、すみません」


「いえいえ、これくらい良いですよ。ソラちゃん、行こうか?」


「ん……」


 ミレーユさんに手を引かれ、ソラが二階へと上がっていく。

 ……やはり、女性が引き取った方が良いのだろうか?

 八歳ということは、これから思春期に入っていく。

 いや、責任は取るつもりではあるが……悩ましいところだ。


「……ーマ殿……ソーマ殿!」


「あっ……すみません、少しぼーっとしてました」


「いや、構わん。お主も疲れてるだろうし。ここではあれなので、端の方で待ってるとしよう」


「ええ、そうですね」


 その後、端っこの方に行き、呼ばれるのを待つことにする。


「そういえば、さっきはどうしたのだ?」


「いえ、ソラのことを考えてました。正直言って、独り身が長かったので。これから、男の俺が育てるにはどうしたら良いかと」


「むっ? ……そうなのか?」


「ええ。お恥ずかしい話、十年くらい女性とお付き合いしてないですね」


「ほ、ほう? ……私よりはマシだと思うが」


「はい?」


 すると、クレアさんは何やらモジモジしている。


「……笑わないでくれよ?」


「ええ、約束します」


 そして、俺の耳元に近づき……。


「実は、男性とお付き合いしたことがないのだ……良い歳して恥ずかしい話だが」


「そうなんですね。別に恥ずかしいことじゃありませんよ」


 この世界の基準は知らないが、二十二歳なんかまだまだ若い。

 最近の若者も恋愛離れしているし、珍しいことじゃないし。


「ほ、ほんとか? 」


「ええ、これから良い人が現れますよ」


 うんうん、こんな美人さんが独り身では勿体無い。

 それに意外と面倒見も良いし、良い母になりそうだ。


「う、うむ、そうかもしれないな」


「ええ、きっと」


「ふふ、楽しみにしてよう」


 そう言って微笑む姿は、とても美しい。

 こんな女性に惚れられる男性は幸せ者だな。

 そして、そのタイミングで……。


「あっ、呼ばれましたね」


「では、行ってくると良い。悪いが、私は一度出る。宿に行って、部屋を空いてるか確認してくるのでな」


「すみません、俺達の分ですよね」


「気にするでない。それくらいはさせてくれないと割に合わない」


 そう言い、颯爽と歩いていく。

 ふむ、カッコいい女性でもあるな。

 それを見送り、俺は受付に行く。

 すると、いくつかあるうちの一つから手招きをされる。


「こんにちは、ソーマさん」


「こんにちは」


 そこにいたのは、童顔で可愛らしい感じの女性だった。

 茶色の髪をサイドテールにして、背筋を正して座っている。


「私、受付のアリスっていいます。以後、ソーマさんの担当となりますのでよろしくお願いしますね」


「えっと……? 担当とかあるんですか?」


「本当はないんですけど、今回はギルドマスターに頼まれたので。私、こう見えて優秀なんですよ?」


 そう言い、ウインクをしてくる。

 なるほど、中々愉快な女性らしい。


「わかりました。それでは、以後お願いします」


「固いですよ。でも、不真面目よりは良いですね。それでは、冒険者の説明をしていきます」


 そして、簡単な説明を受ける

 冒険者ギルドとは、国とは別の組織である。

 よほどのことがない限りは、国には干渉しないし、されない。

 だが、それぞれの国で、関係性は多少は異なるとのこと。

 ちなみにアシュタルト王国とは、持ちつ持たれつの良好な関係を築いているらしい。


 次にランクだ。

 上から順に、SS,S,A,B,C,D,E,F,G,Hの10段階。

 H~Gがルーキークラス。

 F~Eがブロンズクラス。

 D~Cがシルバークラス。

 B~Aがゴールドクラス。

 Sがマスタークラス。

 SSがレジェンドクラス。

 このように、呼ばれるとのこと。


 ちなみに、シルバーになれば一人前と言われるらしい。

 SSは形式上あるだけだそう。

 冒険者ギルドを作ったと言われる、勇者ワタルのみ。


「自分が受けられる依頼は同じランクか、その上下のみとなります。同じランクならポイントが二、上なら三、下なら一がもらえます。そして、ポイントが十溜まったら試験を受けることができます」


「なるほど」


 そうすれば、上のランクが下のランクの仕事を奪わないってことか。

 下の方も、早く上がりたいなら方法はあると。


「ただし、依頼を三回失敗したら降格になります。一番下なら……冒険者自体を剥奪です。あとは大きな犯罪などもした場合も、剥奪となりますのでお気をつけてくださいね」


「大きな犯罪ですか?」


「別に大したことじゃないですよ。盗みや性犯罪、殺人などをしなければ平気かと。冒険者なので、多少の諍いは仕方ありませんから」


「それなら平気そうです」


 どうやら、前の世界と似たような感じか。

 人としていけないラインを超えなければ良いと。


「以上ですが、質問はございますか?」


「いえ、ひとまず大丈夫です。色々とありがとうございました」


「いえいえ。では手続きをするので、血を貰ってもよろしいですか?」


「えっと、血が必要なのですか?」


「ええ、そうですね。ご存知ないですか?」


 どうやら常識らしい。

 やっぱり、設定しておいて良かった。

 

「すみません、田舎者でして」


「いえいえ。大丈夫ですよ。冒険者カードという物があります。それを、他人が使用できないように、自分の血の情報を入れるのです。他の人が持っても、何も映りません。ただのカードです。そして、身分証にもなります。さらに、倒した魔物が記録されます」


 なるほど!と思った。

 凄い便利なカードだ。

 それなら、不正もできないし。


「ご丁寧に、ありがとうございます。では、どうすれば?」


「手を出してもらっていいですか?すぐ、終わりますよー」


 俺は、大人しく手を出す。

 すると、その下にカードを置かれる。

 大きさは、クレジットカードより少し大きいくらいか。

 そして針で刺されると、血が垂れて……カードに触れると光る!


「はい、これで完成です。これから、よろしくお願いします」


「え?もう終わり……?いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 俺はカードを眺める。


 そこには、名前、年齢、種族とHという文字が刻まれていた。


 これで正式に、俺は冒険者になれたようだ。


 よし! ソラを養うためと、店を出すために頑張るとするか!

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