第18話 おっさん、自分の強さを知る

 ……ふむ、活気がありそうなところだな。


 最初に都市の中に入った印象はそんな感じだった。


 馬車も通れるほどに広い道。


 綺麗に密集した西洋風の建物。


 そこに出入りする人々の顔からも、活気があるのが察せられる。


「す、すごい……人がたくさんいます……! それに、すっごく綺麗です!」


「そうか?」


 それに関しては、少々疑問である。

 確かに人は少なくないが、日本の商店街や繁華街よりはマシである。

 少なくとも、避けながら歩く必要はなさそうだし。

 それに汚いとは思わないが、そこまでは綺麗だとも思わない。

 まあ……それは俺が、日本という綺麗な国で育ったからか。


「そうだな、二人には基準がないのでわからないか。一応言うと、ここの人口は多い方だ。ただ都市自体が広いので、そこまで密集するようなことはない。綺麗さでいうと、流石に王都や港町に比べると劣るが悪くはないと思う」


「なるほど……この都市の中は、どんな構造になっているのですか?」


「まずは、都市全体は大きな十字路によって、四つの区域に分かれている。北西には迷宮があり、周りには冒険者ギルドや宿屋、その他に武器屋や防具屋がある。北東には一般住民のや住処がある。南東には領主の館や商人達、いわゆる富裕層が住んでいる。南西は日曜製品や洋服屋、装飾品、食事処や生活用品が栄える商業地区となっている」


「ふむふむ……」


「わぁ……覚えられないや」


「まあ、おいおい説明していこう」


 そんな会話をしつつ、道を進んでいくと……。


「あっ……」


「うむ、獣人族だな」


 通りには、頭や耳から尻尾の生えた方々が歩いている。

 人間に近い顔の者、獣に近い顔の者など様々だ。

 あくまでもイメージだが、犬や猫のような感じに近い。

 首輪をつけてる者もいるし、そうでない者もいる。


「獣人は大まかに二つに分かれる。ネコ科かイヌ科の二つだ。あとは、それぞれの間にも種族がある。ネコ科の百獣族とか、イヌ科の狼族とか」


「なるほど。ということは、ソラはイヌ科の獣人族ってことか」


「ああ、そうだと思う。ただ、髪が白いのは見たことない。ただ、それが種族によるのか……まあ、どちらにしろ気をつけてくれ」


 ソラの髪の色は珍しいが、それが環境によるストレスかもしれないってことか。

 確かに、前の世界でも似たようなことはあったな。


「わかりました。ソラ、何かあればすぐに言えよ?」


「う、うん」


 ソラは恐いのか、俺の脚にしがみつきながら歩く。

 こればっかりは、徐々に慣れていくしかない。


「それで、まずは何処に行くのですか?」


「ああ、まずは冒険者ギルドに向かう。そこでお主の力を確かめつつ、登録をしてもらう。冒険者カードは、身分証明書にもなるのでな。それがあれば、以降は入場料を払う必要もない」


 冒険者……年甲斐もなく、少しワクワクしてる自分がいる。

 男である以上、一度はそういうものに憧れる。


「そういえば、迷宮があるとか。それって、どんなところですか?」


「その名の通り迷宮だな。見た目はただの小さい洞窟だが、中はとてつもない広さの地下迷路になっている。そして、入るたびに道が変わるようになっている。その代わり、5階降りるたびに中継地点がある」


「なるほど……一度そこまで行けば、次からは一階からやる必要がないってことですね」


「ああ、そういうことだ。そして、迷宮には財宝やレアな魔獣などもいる。なので、一攫千金を狙って冒険者達が挑んでいくわけだ」


 その後も歩き、とある建物の前でクレアさんが立ち止まる。


 看板には、冒険者ギルドと書いてある。


 見た目は大きく、一軒家二個分以上の幅はありそうだ。


「ここが冒険者ギルドだ。さあ、行くとしよう」


「ソラ、ほら」


 ずっとしがみついてるのもアレなので、手を差し出す。

 すると、恐る恐る手を握る。

 そのまま、俺はクレアさんと共に扉を開け……建物の中に入る。


「……ここが冒険者ギルドか」


「ひ、人がたくさんいます」


 中中は広いスペースがあり、椅子なしの丸いテーブルがいくつか置いてある。

 そして、そこでは人々が話し合っている。

 左を見れば階段があり、右側の壁には何やら紙が貼ってある。


「ああ、そうだろ? ここは迷宮があるので冒険者が多いんだ。右の壁に貼ってるのが依頼書だ。あれを受付に持っていくことで依頼を受けることができる」


「なるほど」


 どうでもいいが、何やら視線が痛いな。

 さっきから、人々が俺のことをチラチラ見てくる。

 俺がクレアさんに聞こうとした時、奥からミレーユさんの姿が見えた。


「クレア! ソーマさん! こっちこっち!」


「わかった! ソーマ殿、悪いが私を信用してくれるか? とある人物にだけは、ソーマ殿のことを知らせないといけない」


「ええ、わかりました」


 クレアさんを信用もしているが、そもそも俺に選択肢はない。

 この世界のことは何もわからないし。

 俺はおとなしく、クレアさんの後をついていくのだった。





 ミレーユさんと合流すると、奥にある受付らしき場所を通り過ぎる。


 そして働いてる受付の方々から見られつつ、そのまま奥に行き……とある豪華な扉の前に到着する。


「ハウゼンさん、クレアと例の人を連れてきました」


「ああ、入ってくれ」


「失礼します」


「し、失礼しましゅ!」


 耐えろ……ここは突っ込んではいけない。

 苦笑するのを堪えつつ中に入ると、偉丈夫が立っていた。

 身長は180を超える俺と同じくらいで、ボディービルダーみたいな体格をしている。

 年齢は、おそらく五十前後。


「ふむ、そいつが例の男か……なるほど、ただ者ではない。ようこそ、冒険者ギルドへ。俺がギルドマスターのハウゼンだ」


「初めまして、ハウゼン殿。私の名前はソーマと申します。ほら、ソラも挨拶しなさい」


「ソ、ソラっていいます! よろしくお願いします!」


「うむ、元気で良い。さて、一応事情は聞かせて貰った。ただ、そのための確認をしたい。早速で悪いが、この水晶に触れてくれるか?」


 ……確かにテーブルの上には占いで使いそうな水晶がある。

 クレアさんは信用しているが、この人はわからない。

 何かの罠の可能性もあるか?


「ハウゼン殿、ソーマ殿が警戒してしまったではないか」


「ハハッ! すまんすまん!」


「い、いえ」


「当然のことかと。まずは、私が見本を見せよう」


 クレアさんが水晶に触れると、空中に文字が浮かび上がる。


 ——————


 クレア-アラドール


 種族 人族


 年齢 二十二歳


 体力 D+ 魔力 C+


 知力 C+ 筋力 D+


 速力 D+ 技力 D+


 称号 姫騎士


 ————


「これが強さを表す水晶だ。上から順に、S+,S,A+,A,B+,B,C+,C,D+,D,E+,Eの12段階になっている」


「なるほど」


 つまり、数字こそないがステータスのようなものか。


「普通の一般人がE~E+。街の一般兵士などがD。戦いを生業にできるのがD+。一人前と言われるのがC。一人前の壁を越えたのが、C+。ベテランと言われるのがB。一流と言われるのがB+~A。超一流と言われるのがA+。人外と言われるのがS。前人未到と言われるのS+といった感じだ。いわゆる英雄や勇者と呼ばれるクラスでも、AからA+がほとんどだ」


「ありがとうございます。この称号とは?」


「これは……何かを成し遂げたり、周りから言われるうちにつくものだ。私は……戦う女性が珍しいので、こう呼ばれている」


「さて、そういうわけだ。お主がこれに触れれば証明できるという話だ。そして、中身はワシの胸の内にだけにすると約束しよう」


「……わかりました」


 とりあえず、罠ではないようなので水晶に触れると……。


 ——————


 土方 相馬


 種族 人族


 年齢 三十五歳


 体力 A+ 魔力 C+


 筋力 A 速力 B+


 技力 B+ 精神力 B


 称号 竜殺し 迷い人


 —————


 ……あれ? 先程の説明を考えると……これってかなり強いんじゃないのか?

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