おっさん、冒険者兼料理人になる

第17話 おっさん、ようやく都市に着く

 夜が明けて、馬車が軽快に街道を走る。


 幸いと言って良いのか、魔物や魔獣に出会うことなく順調に進み……。


 この世界に来て、ようやく人の住む都市が見えてきた。


「ふぁ……すごいです!」


「ああ、そうだな」


 視界の先には、大きな城壁が見える。

 あれが、目的地である辺境都市レガリアという場所だろう。


「あんな大きなの初めて見ました!」


「まあ、俺もだな」


 馬車に乗ってる間、ソラはずっと楽しそうだ。

 村から一歩も出たことがないので、見たことない景色や物が珍しいのだろう。

 かくゆう俺も、大人気なくワクワクしてたっけ。


「ソーマ殿」


「ええ、わかっています。ソラ、俺の側を離れるなよ?」


「う、うん!」


 相談の結果、ソラには都市での危険性を教えておいた。

 獣人の立場や、奴隷について……何も知らないで危険な目に合うよりはマシだ。

 ただ、できればのびのびと過ごして欲しいとは思っている。

 それを守るのも、大人……お父さんの役目だろう。





 そして、大きな門の近くに到着する。


 改めて近くで見ると、その大きさは圧巻の一言だ。


 高さ十メートルを超える壁で、中々お目にかかれるものじゃない。


「すごいですね……この壁が都市全体を囲んでいると……」


「まあ、空から襲ってくる魔物もいるのでな。ハーピーやワイバーン、それこそドラゴンなんかもいる」


「ああ、そうですよね」


 すると、先行していたミレーユさんが戻ってくる。

 彼女には、とある確認をしてもらう必要があった。


「クレア、ドラゴン出現の報告は来てなさそうです。門の兵士達は普段通りですし、都市の中も平穏そのものでしたよ」


「なるほど。それでは、ドラゴンが出現したこと自体が伝わっていないと思っていいな。ソラの話からすると、現れてから一日も経ってないと聞く。おそらく、助けを呼ぶか迷っている間にソーマ殿が倒してしまったのだろう」


「ええ、その可能性が高いです」


 そう、これが確認してもらったことだ。

 これ次第で、俺の動きというか扱いが変わってくる。


「そして、ソーマ殿は村人に黙っていてくれるように頼んだと?」


「ええ、そうですね」


「命の恩人の頼みだし、しばらくは黙っていてくれるだろう。ただ。そのうちドラゴンが現れたことや、誰かが倒したなどの噂は出ると思うが……誰かと言う点は、ある程度誤魔化せるだろう」


「まあ、仕方ないですよね。ただ、知られるにしても少し時間が欲しいです」


 まだ、この世界のことを知らなさすぎる。

 ソラのこともあるし、その状態で騒動になるのは困る。


「ああ、わかってる。というわけで、ここからは私の指示に従って欲しい……こればかりは、私を信用してくれと言うしかないが」


「大丈夫ですよ、これでも人を見る目はあるつもりですから」


「そ、そうか……」


「ふふ、照れてますね?」


「ぐぐ……そ、それより、ギルドに報告をしておいてくれ」


「はいはい、わかりましたよ」


 ミレーユさんが走り去った後、馬車が門へと近づいていく。

 すると、ソラが俺の服の端を掴む。

 その顔はさっきまでと違い、恐怖に染まっている。

 おそらく、人がたくさんいる都市に入るのが怖いのだろう。


「お、お父さん……」


「平気だ。最悪、何かあれば出ていけば良い」


「う、うん」


「安心して良い。私がそんなことはさせない」


「心強いですね」


 馬車が門に着くと、兵士達が駆け寄ってくる。

 ちなみに俺たちは、迷宮都市に出稼ぎにこようとして迷子になっていた設定だ。


「こんにちは。ミレーユさんから聞きましたが、そちらが出稼ぎに来て道に迷っていた方ですね?」


「ああ、そうだ。代金は私が支払うので頼む」


「わかりました。それでは、料金をお願いします」


「ああ、これで頼む」


 クレアさんが、懐から硬貨を数枚手渡す。

 確か事前に説明は受けた。

 上から白銀貨、金貨、銀貨、鋼貨、銅貨、鉄貨、石貨の7種類。

 銀貨数枚あれば、平民四人家族が生活できるとか。

 ということは、銀貨一枚は日本円にして十万くらいの価値があるってことかな。

 そして十進数ということを考えれば、その他の価値も大体わかる。


「はい、確かに。ようこそ、迷宮都市レガリアへ。我々兵士がいますが、基本的には自己責任になりますのでお気をつけて」


「ええ、わかりました」


 どうやら、この世界には迷宮……いわゆるダンジョンというものがあるらしい。


 ここは迷宮を中心に作れられた都市で、冒険者や商人達が多い都市だとか。


 いざこざもあるので、ある程度は自分の身は自分で守る必要があると。


 何はともあれ、ようやく俺は人の住む場所に足を踏み入れるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る