第15話 おっさん、変わらぬ気持ち

料理をしている間に色々聞いたが、この世界では内臓系は食べないらしい。


なんでも魔素?とやらが溜まっていて、それを食べると身体に異常をきたすとか。


前の世界でも腹を壊すということはあったが、それとも違いそうだ。


なので俺も、食べるのは遠慮することにした……うまいんだけどなぁ。




そんな会話をしつつ、良い感じに野菜が煮込まれてきたら、肉を焼き始める。

無論、焼く前に全ての肉には軽く塩をしてある。


「まずは脂の少ないヒレ肉を焼いて……」


その端の方で、解体する際に余った肉を焼く。

余った肉に軽く焼き色がついたら、野菜スープの中に入れる。


「食べる順番があるのか?」


「そうですね、気になります」


「いえ、決まりがあるわけじゃないですよ。ただ、食べる順番によって味が変わるので」


「お父さん、どういうこと?」


「そうだなぁ……先に油っぽいものを食べると、腹に溜まりやすいし味が舌に残る。すると、次に食べる肉が美味しく食べられなくなる可能性があるんだ」


自分の店でも、コース料理を出すときはそうしていた、

料理とは仕込みと調理含め、順番が一番大事だと個人的には思っている。


「へぇ〜!」


「初めて聞いたが、言われてみると……」


「ええ、そうですね。確かにそんな気がします」


焼いている俺の両脇で、美女が覗き込んでくる。

ソラはともかく……この二人はまずい、俺はそもそも女性が得意じゃない。

意識すると、変な汗をかきそうだ。


「さて、ひっくり返したら……仕上げに、スープの方に塩をひとつまみ入れて……完成だ。ソラ、スープをよそってくれるか?」


「うんっ!」


ソラが用意した小皿に、スープをよそっていく。


「片面は少しでいい……よし、こっちもいいだろう」


「私がお手伝いします」


「では、私は飲み物を用意しよう」


それぞれ動き、ひとまず準備が整う。

3人はテーブルに、俺は火の前で食べることにする。


「本当にそこでいいのか?」


「ええ、食べながらも焼くので。というか、やらせてください」


「ふふ、不思議な感覚だな。殿方に料理をして頂くとは」


「そうですね。それに本人がやりたいというのも……」


「わたし、座ってていいの?」


「ソラは座って食べなさい。俺がやってるのは行儀の悪いことだからな。さあ、まずはスープから飲んでください。そうすることで身体が整いますので」


俺の言葉に、三人が渋々ながらも頷き……スープを飲む。


「むっ……これは……いつもより柔らかくて美味い」


「え、ええ……素材の味がするというか、コクがあるというか……」


「あったかくて美味しい!」


「それなら良かったです」


俺もスープを飲み……ひとまず満足する。

味こそ薄いが、しっかりと素材の味が活きている。

そして最後に肉を加えたことで、より深みが増している。

じんわりと、腹が温かくなる感じ……こうなったら肉を食べていい合図だ。

すぐ食べれるように、ロース肉を焼いておく。

ちなみに、ロース肉は固くならないように、弱火でじっくりと焼く。


「では、肉をどうぞ……うん、さっぱりして美味いな」


「うむ……いい焼き加減だ。ヒレ肉は、硬くなりやすいと言われているのに」


「いつも私達でやると硬いですもんね」


「そうですね。まあ、お肉全体に言えることですが」


だからこそ、俺はこうして火の前にいるわけだし。

自分の店でも、オープンキッチンの店で、お客様の前で肉を焼いてたものだ。

……やはり自分が作った料理を、こうして目の前で食べてもらうのは良い。


「はぐはぐ……ッ〜!?」


「ソラ、落ち着いて食べなさい。大丈夫だ、誰も取らないし量はある」


「ひゃ、ひゃい!」


「ふふ、ほら水を飲むといい」


「コクコク……あ、ありがとうございました!」


「気にするな」


そんな光景に頬を緩ませつつ、焼けた肉を皿に追加していく。

そしたらすぐに、バラ肉を焼き始める。

バラ肉は中火で、カリカリに焼くくらいが良い。


「次はロース肉です。少し醤油を垂らすと良いですね」


「ふむ……確かに美味い。旨味の強いロース肉に、醤油の味が負けてないと言ったところか」


「何より、厚さがちょうど良くて食べやすいですね」


「これも美味しい!」


俺も次の肉を焼きつつ、ロース肉を口に含む。

すると野性味のある味と、肉本来の旨味が口の中でとろける。


「……うまっ」


やばい、これは酒が欲しくなってきた。

次々と口に放り込んでいく。

そしてバラ肉も焼けたので、みんなに配る。

それには味噌を添えてある。


「……なるほど、ソーマ殿が言っていたことがわかった。これが、食べる順番というやつか」


「え、ええ……確かに脂身がより感じられますね。何より、味噌との相性がいいです」



「はぐはぐ……」


どうやら、わかってもらえたらしい。

ソラに至っては、もはや無心で食べている。


「どれ、俺も……っ!」


噛んだ瞬間に、口の中で肉汁が弾ける!

味噌が油の中に溶けて、噛むほどに美味さが増していく。


「うめぇ……!」


「ふふ、ソーマ殿。随分と美味そうに食べるな?」


「あっ、すみません。すぐに次を用意しますので……」


「違う違う、そういう意味ではない。見てると、嬉しくなってな。まあ、こっちも食べたくなるような顔をしていたのは確かだが」


「それは言えてますね」


「お父さん、美味しそうに食べてた!」


「はは、参ったな……」


すると、三人が笑う。


そうだ、これが美味しい料理の良いところだ。


初対面だろうが、どんなに人種が違くても、一緒に美味しいご飯を食べれば笑顔になる。


……結局、俺にはこれしかないか。


異世界であろうと、俺は料理人として生きていこう。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る