第10話 おっさん、獲物を見つける

 その後雑談をしつつ、馬車を走らせていると……段々と日が暮れてくる。


「おっと、そろそろ野営の準備をするか」


「暗くなる前にやった方が良いですね」


「ああ、その通りだ……よし、あそこにある大きな木の近くにしよう」


 そして、大きな木の近くで馬車が止まる。

 するとタイミングよく、ソラが目を覚ます。


「はぇ?」


「ソラ、おはよう。よく寝ていたな?」


「はわっ!? ご、ごめんなさい!」


「何を謝る必要がある?」


「だ、だって、わたしだけ寝て……ずっと膝の上で……」


「別に良いんだよ、今日は疲れていただろうし。それにソラは軽いし、なんてこともない」


「うぅー……」


「はいはい、よしよし」


 その背中を優しくさする。

 優しくされることに慣れていないから、こういう時にどうして良いのかわからないのだろう。

 俺自身も、昔はそうだった。


「ふふ、優しい殿方だな?」


「いえいえ、普通ですよ」


「獣人の立場はあまり良くないのだが……」


「えっと?」


「それについても、今日のうちに伝えておこう。ひとまず、野営の準備をしてからだ。私は、ミレーユの様子を見てくる」


「俺にできることはありますか?」


「そうだな、燃えそうな草木を集めてくれると助かる」


「わかりました。ソラ、俺達も手伝うぞ」


「は、はい!」


 俺とソラは馬車から降りて、近くにある森の方に向かっていく。


「奥には行かないようにしよう。あんまり離れると、クレアさん達が襲われたら助けに行けないからな」


「は、はい!」


「大丈夫だ、何か出てきても……お父さんがいる」


「お父さん……えへへ」


 自分で言って恥ずかしくなるが……これも、この子のためだ。

 三十五歳、土方相馬……自他共に認めるお父さんになったようです。

 まだ独身なのに……いや、自分が決めたことだから良いんだけど。




 その後、順調に草木を集めていると……。


「お父さん、また川の音が聞こえるよ」


「ん? 川の流れが聞こえる?」


 注意して耳を澄ませると……確かに聞こえる。


「そういえば、飲み水が減っていたな。それじゃあ、ついでに水を汲むとしよう」


「はい、そうしましょう」


「っと、その前に……ソラ」


「え、えっと? なんでしょう?」


「敬語を使う必要はない。もっと、普通の言葉でいい」


「で、でも……怒ら」


「俺は怒らないから平気だ。まあ、無理にとは言わない。ただ、伝えておく」


 俺がそういうと……静かにコクリと頷く。

 時間はかかるが、地道にやっていくしかないな。

 そして、数分ほど歩き……発見する。


「おっ、川というよりは泉だな」


「綺麗……大きなお風呂みたいです!」


「まあ、そう見えなくもないか?」


 すると、なにかの気配を感じる。

 すると、泉で水を飲んでいる大きな生き物と視線が合う。

 大きさこそ体長一メートルを軽く超えるが、その姿は見知った生き物に近い。


「 ……あれは、イノシシか? 姿形はそっくりだが、大きさが桁違いだな」


「ブルルッ」


 相手も俺達に気づき、威嚇をしてくる。

 どうやら、敵認定されたようだ。


「お、大きいです……」


「ソラ、俺の後ろから動くなよ?」


「は、はい」


 さて、どうしたものか。

 このまま引いてくれれば……いや、逆か。

 クレアさんは、基本的に魔物は二足歩行だと言っていた。

 あれはどう見ても、四足歩行なので……食べられる魔獣ってことじゃないか?

 だったら、倒して今晩の夕食にしてしまえばいい。

 というより、俺に料理をさせてくれ。


「ブルルッ!」


「き、きました!」


「平気だ。今の俺なら……ふんっ!」


 突っ込んできたイノシシ?の角を両手で掴む!

 そして、引き下がることなく受け取める。


「ブルルッ!?」


「おっと、中々の力だな……だが!」


 そのままの状態から、イノシシを横にぶん投げて木に叩きつける!


「ブルァ!? ……ガ、ガ……」


「……気絶したか」


「お、お父さんすごい!」


「ふふ、そうだろ? これでも、前の世界ではラグビー部の体当たりにも負けたことないからな」


 なにせ高校の時に、ラグビー部に勧誘されたくらいだ。

 そもそも、剣道だって当たりが強いスポーツだったし。

 なので、受け止めることには慣れている。


「らぐびー?」


「すまんすまん、わからないよな。まあ、体当たりには慣れてるってことだ」


「……えいっ!」


「うおっ? ど、どうした?」


 急に、ソラが俺に飛びついてきた。

 というより、体当たりに近い。

 無論、ビクともしないが。


「た、体当たりしま……体当たりしたの! お父さん、びくともしないね!」


「……ああ、そうだろ? お父さんは強いからな」


「うんっ!」


 そう言い、満面の笑みを浮かべる。

 敬語も取れたし、また一つ信頼を得たらしい。

 見ず知らずの他人ならともかく、子供がむやみに敬語を使うものではない。

 この調子で、慣れていってくれたら良い。


「さて……じゃあ、水を汲んでくれるか? 俺はこいつを担いで行く」


「うん! でも、持てるかなぁ?」


「まあ、任せておけ」


 ソラが水を汲んでいるのを視界に入れつつ、イノシシを背中に背負い込む。


 そして俺たちは、クレアさん達の元に戻るのだった。





~本日二話更新~

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