第6話 おっさん、話し合いをする
そしてあっという間に、四本あった魚が胃袋に消える。
でも、まだまだ食えそうだ。
「どうだ? ソラは足りたか?」
「は、はいっ! お腹いっぱいです!」
「そうか、なら良かったよ。遠慮はいらないからな」
「た、食べ過ぎて苦しいくらいです」
「ははっ! それはいいことだ!」
「えへへ……はいっ」
美味しい物を食べて、お腹いっぱいになるということは、とっても幸せなことだ。
それだけで、生きる活力になったりする。
「さて……問題はここからだな」
「えっと……どうしよう?」
「とりあえず、お腹は膨れたみたいだし……まずは、わかることを教えてくれるか?」
「す、すみません。あの村から出たことなくて……ただ、商人って人は北から来たって言ってました。ドラゴンがいたのは村から南側で、ドラゴンはその先の山を越えて来たって」
「なるほど……少なくとも、北に行けば何かがあるってことか」
「そ、そうだと思います」
「じゃあ、とりあえず行くか。その村とやらにはいかない方が良さそうだし」
この少女を見る限り、とてもじゃないが帰せない。
俺が引き取るか、安全な場所まで連れて行かないとな。
その覚悟がないなら、助けてはいけないと個人的には思うし。
「うん? ……何かくるな」
「えっ?……あっ……」
向こうから、何かが来る音がする。
これは……馬が駆けてくる音だ。
そう理解した瞬間、馬が駆けてくる姿を確認する。
「いたぞ!」
「なんであの獣人は生きてるんだ!?」
……なるほど、あれが村の奴らか。
「あっ、あっ、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「いいか、ここを動くなよ」
「ふえっ?」
俺はソラを庇うように、二人の男の前に立つ。
「き、貴様はなんだ!?」
「人に聞くときは、自分から名乗るのが礼儀だと思うのですが?」
「な、なんだと!?」
「落ち着け……我々は村の者だ。 ドラゴンに生贄に捧げた娘の様子を確かめにきたら、ドラゴンも娘もいなかった。故に、探していたら……煙が上がっている場所を見つけた」
怒鳴ってきた若い方は話が通じなそうだが、もう一人の方は話が通じそうだ。
さて。どうするか……その時、俺の服の端をソラが掴む。
……ならば、俺のやることは決まってる。
「ドラゴンなら、俺が倒したから平気です」
「……なんだと?」
「う、嘘だ!」
「お前は黙ってろ……本当か?」
その言葉に、若い男は黙り込む。
「ええ、本当です。どう倒したかはわからないが、倒したことは間違いないかと」
「なに? ……証拠はあるか?」
「あそこにいないことが証拠だと思いますが……あっ、これがありましたね」
ポケットの中から、先ほどの白銀色の宝石を取り出す。
「そ、それは、白銀の魔石……本当にドラゴンを倒したのか?」
「ええ、そう言っています。俺が倒したらドラゴンは消えて、その場にこれが残っていたということです」
「確かに見る影もなかったし、辺りも確認はしたが……つまり、村の恩人ということか……感謝する」
「いや、たまたまなので気にしないでください」
「何か、報酬を与えたいところだ。よければ、村に来てくれるか?」
その言葉を聞いた時、ソラの握る力が強くなる。
……勝手に連れ出しても良いが、この子のために後顧の憂いは消しておいた方がいいか。
あとで、文句を言われたり追ってこられても困るし。
「それはやめておきます。それより、報酬があるなら……この子を、俺が引き取る事を許可してほしい」
「ふぇ?」
「なに? ……そんなことで良いのか?」
「ええ、それで構わないです」
すると、それまで冷静だった男の表情が強張る。
どうやら、俺の発言に驚いているようだ。
「自分が何をしたかわかってるのか? ドラゴンを倒すのがどういうことなのか……」
「いえ、わかってはいません。しかし、貴方の反応から大体はわかります。その代わり、もう二度とこの子に関わらないでくれると助かります」
「……わかった、いいだろう。そんなので済むなら安いものだ」
「じゃあ、帰ってもらえますかね? この子が、ずっと怯えているので」
「ああ、そうしよう」
「い、良いんですか!?」
「いいんだよ。そもそも、人が減ってる。その上で足手まといなどいても仕方ない。何より、ドラゴンを倒した相手だぞ? 逆らう方がまずそうだ」
「あと、俺がドラゴンを倒したことは黙っていてくれると助かります。できれば、静かに過ごしたいので」
「わかった……では、帰るぞ」
「は、はい」
そして、二人の男は去っていく。
「平気か?」
「ひゃ、ひゃい!」
「うん? どうした?」
「え、えっと……良かったんですか? その、わたしを引き取って……」
「ああ、もちろんだ。あそこに戻るよりは良いと思ったんだが……というか、お父さんだしな」
「い、いえ! あそこには戻りたくないです!」
「なら良かった。俺が責任を持って安心できる場所に連れて行く。さて、そろそろここを去るとしよう」
「……信じても良いの?」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いいえ! あ、ありがとうございました!」
「気にしないで良い。それじゃ、行くとしよう」
俺が手を差し出すと、ソラが恐る恐る手を握る。
どうやら、あのやり取りで少しは信用されたらしい。
うんうん、交渉した甲斐があったというものだ。
……ただ、こっからどうして良いのかはさっぱりだが。
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