第2話 おっさん、少女を助ける?

 ……イテテ。


 な、何が起きた?


 突然、穴?に落ちたと思ったら……空中にいて、何かに包丁を刺してしまったが。


 人ではないと思うが……。


「……なんだこれ?」


 振り向くと、そこには黒い物体がいる。

 ……いや、現実逃避しているだけで、本当はわかっている。


「……これ、ドラゴンってやつだよな?」


 あれ? 俺って、これに包丁を突き刺してしまったのか?


 「だとしたら、悪いことしてしまったか?」


 俺が混乱していると……そのドラゴンが消えていく。

 同時に、何かが俺の体の中に入ってくる。

そして、その側には何やら白銀に輝く宝石が落ちている。


「へっ? き、消えた? 幻とかじゃないような……とりあえず、これでも拾っておくか」


「あ、あの!」


「うん?」


 声のする方を見ると、そこには頭から耳の生えた女の子?がいた。

 しかも、尻尾には何かついてる。

ボロい布切れのようなものを着て、全体的に薄汚れている。


「あ、ありがとうございます!」


「えっと……何かしたかな?」


 声を聞く限りは、女の子で合ってそうだ。

 ただ、痩せすぎたし、身体中が汚れてしまっている。


「た、助けてくれましたっ!」


「助けた? ……すまん、話がよく見えないんだが。落ち着いて、ゆっくりと説明してくれるか?」


「は、はいっ!」


 その後、おどおどしながらも、少女が必死に説明をする。

 よくわからない点が多かったが……要約すると、こんな感じか。

 村に襲ってきたドラゴンが生贄を用意しろと言ったので、自分が差し出された。

 そして、そのドラゴンを空から降ってきた俺が倒したらしい。

 だから、この子はお礼を言いたいと。


「なるほど……俺の包丁が刺さったことで死んだのか」


「は、はい」


 ひとまず、悪い奴で良かった。

 もし良いドラゴンだったら、可哀想だしな。


「それで、これからどうしたらいいだろう?」


「ふえっ? ……どうしたらいいの?」


 二人で顔を見合わせて、首を傾げる。

 それが、なんだか無性におかしい。


「ははっ!」


「わわっ!?」


「ああ、すまんすまん。なんか、この状況がおかしくてな」


 なにせ、さっきまで絶望の淵にいて、気がついたら変なところにいるし。


「えへへ、ほんとです。こうして生きてるのが夢みたい……」


「おっ、笑ったな。うんうん、やっぱり子供は笑顔でいないとな」


「…………」


「どうした?」


「い、いえ!」


「そうか? ……とりあえず、君は帰りたいか?」


「か、帰りたくないです! で、でも、奴隷の首輪があるから帰らないと」


「どういうことだ?」


 確かに、少女の首には何かがある。


「えっと……これは魔力を持っていない獣人を縛り付ける首輪で……ひぐっ……」


「大丈夫だ、落ち着いて……ゆっくりでいい」


 魔力やら獣人やらわからないことだらけだが、ひとまず胸糞悪いことだけはわかる。


「あ、あい……これをしていると、村にいる人達に生きていることがバレちゃうんです。だから、帰らないと……叱られちゃう。きっと、私の反応が消えないから、そのうち人が来ちゃうよぉ」


 ……なるほど、首輪がついてる限り居場所がわかるってことか。

 何ともふざけた首輪だな。


「それは外せないのか?」


「む、無理です! 特殊な魔法で封じられていて、それを破るだけの力がないと……」


「そうなのか?」


 俺には、そんな感じには見えないが……というか、魔法ね。


「あっ……!」


「ん? どうした?」


「た、たしか、聞いたことあります。ドラゴンを倒した人は、すっごく強くなるって……だから、村の若い人の何人かは立ち向かったんです」


「ふむ……」


 前の世界でも、そう言った話は読んだことがある。

 ドラゴンスレイヤーという物語だ。

 ドラゴンを倒した者は、そのドラゴンの力を授かるってやつだ。


「だから、もしかしたらおじさんも……」


「お、おじさん?」


「だ、ダメですか?」


「いや……良いさ」


 うん……アラフォーは立派なおじさんである。

 ただわかって欲しい……この微妙な心境を。

 認めたくないものだな……すでに、このセリフがおっさんだな。


「とりあえず、試してみてもいいか?」


「は、はい……お願いします」


「よし」


 俺は少女に近づき、その首輪に触れる。

 ……よくわからないが、感覚的に行けそうな気がする。

 少女自身に傷がつかないように、首輪部分だけに力を——込める!


「ふんっ!」


「ふえっ!? ……とれた……わぁーい! とれたとれた!」


 少女が元気そうに飛び跳ねる。

 ふぅ……どうやら成功したみたいだ。

 俺が握った箇所が壊れて、少女を首輪から解放したようだ。


「おいおい、はしゃぎすぎ……」


「……はれ?」


「おっと……危ない危ない」


 倒れそうになった少女を、咄嗟に受け止める。


「ご、ごめんなさい……お腹すいてて」


「いや、無理もない」


 見てるこっちが辛くなるくらいに、やせ細っている。

 きっと、まともな食事をしていないのだろう。

 腹を空かせる気持ちは、誰よりも知ってるつもりだ。


「とりあえず、飯にでもするか」


「ふぇ? で、でも、食べ物がないです」


「ふむ……この近くに、川なんかはあるか?」


「えっと……確か、あっちの方に……ごめんなさい、正確なことはわからないです」


「いや、謝ることはない……ん?」


 少女が指差した方向に意識を集中させると……何やら、音が聞こえる。


「……これは、川の音?」


「 聞こえるんですか?」


「ああ……気のせいじゃなければ」


 なんだ? 耳が良くなったか?

 ……うん、確かに川の音が聞こえるな。


「じゃ、じゃあ、行って——ふぁ!?」


「すまん、嫌なら下ろすが……」


「い、いえ……」


「悪いな、俺が抱えた方が早いからな。うし、行くか」


 ふらつく少女を抱きかかえ、俺は川の音がする方へ歩いていくのだった。

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