愛情 (私達の出会い)

東雲三日月

第1話

ーー愛情ーー


「キ・モ・イ」


 これは、彼と最初に会った時、私が彼に向けて発した三文字の言葉。



 私が彼と出会うことになったきっかけは、携帯電話のゲームでした。


 そのゲームをしていなかったら彼と知り合うことはなかったでしょう。


 出会うことになったゲームは、赤ちゃんのハムスターを大人になるまで育てていくという、所謂育成ゲームでした。



 先ず私について説明しようと思います。


 私は一般常識がない人間でした。


 しっかり高校を卒業し、専門学校に行ったのに、途中で色々なことが嫌になり辞めてしまったのです。


 そして、その時出会い系サイトにハマっていた私は、当時知り合った人と会う行為を繰り返ししてきました。


 そこで出会う人は皆自分に対して優しく接してくれるので、私はそれにハマったのでしょう、これはホストグラブにハマる女の子と一緒のような感じです。


 そこでは、皆が話を聞いてくれて自分の存在を固定してくれる、そこでは皆が私の駄目なところを駄目と言わずに良いと言ってくれたので、ここが私の居場所なんだと人生で初めて思えたこともハマる原因でした。


 お陰でここから抜け出せなくなった私は、何時しか家が可笑しいと思うようになっていき、家を出て家出少女となったのです。


 そんな私は、そのせいでここからどん底の人生へと転落していくことになり、気づけば借金まみれの状態に陥っていました。


 でも、こんな状況にもかかわらず、「死んでしまおう!  自分なんてどうなっても良い」そう思っていてので、何も怖くなかったのです。


 ところがある日のこと、自分が借りている部屋に、借金の取り立てがきました。


 逃げずに捕まればどうなるかだいたい分かっていたので、その事もあってか、自分の事がどうでも良くなっていたのにもかかわらず、逃げたのです。


 ところが、逃げたにも関わらず運悪く私は捕まりました。


 それも、優しい大人の人に……。


 そしてあろうことか警察に連絡されてしまい、私は保護されることになったのです。


 家出少女だったので、警察の人に説教され、家に自分の居場所なんかないのに帰ることになりました。


 その後、親から出禁にされた私は、家で内職をして日々過ごすことになったのですが、親から家の傍なら許可がおり、働ける事になった私は、美容師の仕事がしたくて、一度辞めてしまった専門学校に通信教育で入り直して、仕事をしながら通うことになったのです。


 

 ところが、相当病んでたのでしょうか、寂しさが埋められずにいた私は、誰かに優しくしてもらいたい欲求がおさえられなくなりました。


 だからといって、もう出会い系で安易に会うのは良くないと分かっていたので、その選択はありませんでしたが、あんまりにも寂しくてこのゲームにたどり着いたのです。


 このゲームはゲーム内で組み合わさった二人のペアでハムスターに協力して食事を与え育てていくというものだったので、遊び方は誰でも出来る簡単なもので、このゲームでは、ペアになった二人で十文字程度のやり取りが出来る仕組みになっていました。


 それも、ハムスターが生きてる間だけでしたが、会話が出来ることで、何だか出会い系のような感じのゲームだったのですが、それが良かったのだと思います。


 この中で少し話せるだけで、寂しさを紛らわせることができると……。


 でも、私は簡単なゲームであるにもかかわらず、お世話をするのを途中から面倒くさくなり毎度放棄してしまっていたので、残念なことに、私は最後までハムスターを育てることが出来ずにいました。


 二人のペアで育てるので、相手の人がお世話をし続けてくれていればハムスターを死なせずに育てることが出来たのですが、私がペアになった人は私と同じように途中から放棄してしまっていたようです。


 その為、何度かペアになって遊んでみたものの、結局自分のせいでもあるのですが、早い段階で育てられなくて終わってしまうのがつまらないと感じた私は、「もうこのゲームやめよう!」と固く決意しました。


ところが、そう決意しながらそのアプリをアインストールしようとした時でした、私の手がアインストールするのを拒み、最後にもう一度だけ遊んでからにしようと思ったのです。


「これが最後!」


 そう思って始めた私は、これが最後になるからということで、「しっかりお世話する」そう自分に誓ってからゲームを開始することにしたのですが、最初の意気込みだけで、結局私にはお世話するのが面倒になっていき、何時も通りサボり気味になっていったのでした。


 そんなある日のことでした。


「大分日にちもすぎたし、どうせハムスターは死んでいるだろうからこのゲームはもういい加減アインストールしよう!」


 そう思い、アインストールしようとしたときのこと、またアインストールしようとしているのに私の手が拒んだのです。


「最後にハムスターが死んでいることをしっかり確認してからアインストールすることにしよう!」


 一々ゲームオーバーになってることなんて分かりきっているのに、わざわざ確かめることにした私は、その後直ぐにゲームのサイトを開いて見ました。


「えっつ?  どうゆうこと!?」


 私が久しぶりにそのゲームを起動すると、何時もなら必ずハムスターが死んでしまいゲームオーバーになっているはずなのに、生きていたのです。


 最初は驚きで自分の目を疑いました。


 でも、赤ちゃんだったハムスターが大人に成長していたのです。


 私とペアになったきちんと相手の人がきちんとお世話をしてくれていた様子。


 その後、私はこのゲームの中で相手の人からaddressの交換をしようといわれたので、躊躇うことなくaddressの交換をして、今度はメールでのやり取りが開始することになったのです。


 ところが、私はメールのやり取りを始めたにもかかわらず、既読も返信もかなりのんびりで……。


 こんなんじゃ相手も嫌になってメールが嫌になってしまうんじゃないかと心の何処か片隅で思いながら返信する私は、もし、相手がそれで嫌になってメールのやり取りが終わってしまっても仕方ないよね!なんてことも思いながらやっていました。


 でもそんな私の遅い返信に嫌にならずメールのやり取りが続いていたので、お互いの人隣がわかった頃、私は彼と会う約束をしたのです。


 それなのに、私が最初に口にしたのは「キ・モ・イ」の三文字。


 初対面の人に対して発する言葉ではありませんが、私はそのたった三文字の言葉を目の前にいる彼に対して言い放つと、直様その場を立ち去ったのです。


 走って逃げた先で、自分が放った言葉に後悔する自分がいました。


 ヨタヨタと歩きながら、酷い女だと··········。


「もう、帰ったのかな?」


 そう思いながら、気付けば元の場所に戻っていた。


 下に向いたままの頭をゆっくり持ち上げる。


 すると、ベンチに座る彼の姿が··········。


 まだ帰ってはいなかった。


 こんな酷い言葉を言われたのに!


 私は居てくれたことが嬉しかった。


 傍に駆け寄り、彼の隣に座ると謝った。


 外見だけを見て口にした言葉··········。


 どんな人を想像していたのだろうか!?


 あんなに沢山会話してきたのに。


 凄く良い人だって分かっていたのに!


 そこに座っていた彼は、私を怒らず、反省する私と一緒にカラオケデートしてくれました。


 こんな出会いでしたが、彼は今の私の旦那です。


 毎日優しく接してくれる彼。


 何をしても怒らないで見守ってくれる彼


 でも、本当にダメな時は指摘してくれる彼。


 私は日々沢山の愛情を貰いながら幸せに暮らしてます。


 何時も幸せをありがとう。


 これからもずっと一緒にいてね。










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愛情 (私達の出会い) 東雲三日月 @taikorin

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