眼を腐らせたいゾンビ

苦贅幸成

第1話

 私はしがないゾンビCだ。

 人間だった頃の名前は知能の低下と共に忘れた。


 今日も無意味に歩き回る。

 足を踏み出すたび、頭蓋骨の中で腐った脳みそが波を打つ。

 青黒い肌は死臭を漂わせている。

 だが、二つの眼はまだ腐っていない。

 残念なことに。


 昔いた会社の上司の眼が理想的だ。

 血走っていて、青みがかった、仕事に人生を捧げた人間の眼。

 あれはかっこいい。


 それと、最近出会ったゾンビBの眼も完璧に腐っていた。

 眼球全体が黒く、熟れたバナナのように柔らかそうだった。

 その代わり、肌はあまり腐っていなかった。


 一カ月前、初対面で「友達になろう」と言ってきた変な奴だ。

 人間に戻るのが夢だと言っていた。

 もっと腐りたい私とは逆だ。


 そのとき以来会っていないが、次に会ったら眼を腐らせる方法を聞こう。

 そう思いつつ、今日も無意味に歩き終えてねぐらで眠る。

 次に会うときまでに忘れてなければいいのだが。

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