勇者シャインと剣士シリアス③
目を覚ます。
外は明るく日は登りきっている。
そして部屋は少しだけ片付いていて、見事に巻き戻る場所が更新されているのを理解した。
『ブレーヴ、生きてる?』
「ああ、生きてる。僕の勇者特性は勝手に働くらしい」
『そうみたいだね。都合がいいのか悪いのかはわからないけど……』
「もっと都合が良ければよかったんだけど」
軍服に着替えてからシャインを帯剣する。
これで準備は完了だ。
夕暮れ時にはすでにシリアスは死に魔軍の侵攻が始まっているのだから、とにかく必要なのは速度。
僕は足を使って移動するよりエヴリルを動かした方がいいと思うけど、どうかな。
『賛成。エヴリルの転移魔法を使えばある程度短縮出来ると思う』
「それに転移先で死んだとしても巻き戻れるから無駄もない。噛み合ってるね」
『……うん。凄い力だよ』
シャインは気丈に言う。
僕はそれを気がつかない振りをする。
僕たちは互いを傷つけ合うと決めたんだ。
そうしなければ世界を救えないから、人類が滅ぶとわかっているから。
「エヴリルにコンタクトを取る手段は?」
『ある。指笛をトントン、トントーンのリズムで吹く。それが私達の緊急事態を知らせる合図だった』
「言い訳は……未来視で見た、で行こうか」
寮から出て言われた通り指笛を鳴らせば、焦りを隠そうともせずドレスが少し着崩れた状態でエヴリルは飛んできた。
「なっ……なぜお前がそれを……?」
「詳しい話は後だ。僕を南側──魔軍の領地へと送ってほしい」
「魔軍の領地へ? なぜだ、理由が……いや待て。確か勇者特性は」
「『未来視』さ。視えたんだ、シリアスの行方が」
「…………!!」
エヴリルは全てに納得したのか、強く頷いて両手に魔法陣を展開した。
「わ、わかった。うまく行くか?」
「……ああ、任せてくれよ、僕は失敗しない」
「…………頼りになる。本当に」
嘘だ。
これから何度もこの会話をするだろうし、その度に君を騙すことになる。
それでも最終的に嘘を真にするんだ。そのために幾度となく死んで死んで繰り返して、僕は生き続ける。
「シリアスを頼む、勇者シャイン」
「────うん。任せてくれたまえ」
(シリアスは元々、王家の出身なんだ)
いきなりとんでもないワードが飛んできたな。
エヴリルの手でショートカットを果たした僕にシャインが言った言葉は、思わず声を出してしまいそうになるくらいには衝撃的だった。
(魔軍の侵攻で滅んだけど……南の方にある場所だったって。物心ついた時には関係なかったって言ってたけどね)
ふーん、王家……
僕らとは差がありすぎるね。
田舎の村出身だぜ、僕らは。
(それはそれ、これはこれ。それが何を意味するかって話だけど……)
つまり、
剣士シリアスがこの世界で勇者として名乗りを上げたのも、その力を持っていることを悟って誰も立ち上がらない現状を変えるため。
君が歩んだ歴史では、君が先に有名になったから剣士として一員に加わったと。
(そういうこと。やっぱりブレーヴ、頭いいね)
無駄に考えて生きてきたから、こじつけるのがうまいだけさ。
(それが役に立ってるんだからいいの! もうちょっと自分を誇ってね)
もう誇ってねの命令形だもんな。
シャインはなかなか僕の評価を覆そうとしてくるけど、それは変わることはないよ。
世界中の誰に褒められるより、僕はたった一人唯一の君と話している時の方が幸せだから。
(…………ぐう……! く、くそっ! 私だって色々あったのに全然勝てない……っ)
何やら楽しそうだ。
君が幸せそうにして暮れてる姿を見たいけど、それは望みすぎかな。
すでに魔軍領地へと侵入しているため互いに声は出さず音も発さず、ゆっくりと歩みを進めている。
どうせいくらでも死ねるからバーっと突っ込んでもいいけど、それじゃあ得られる情報が少ない。
せっかく何回でもやり直せるんだから敵の全てを知っておきたい。
配置、陣地、数に警戒体制。
シリアスはどこまで行ったのか、どこで死んだのか。
そこらへんにいる雑魚を狩るために行っているわけがなく、狙いは魔軍幹部だと思うんだけど、どうかな?
(私もそう思う。あの子ならうまくいけば
へぇ……
四人の中で一番デタラメって言ってたけど、どんな感じなの?
(シリアスの勇者特性は最終的に覚醒して一段階上になるんだけど、今の状態だと『剣で触れた部分を確実に斬り裂く』ってところかな)
え?
色々気になるけどそれってずるくない?
要するにどんな鈍を扱っても必ず斬った部分が傷になる上にダメージになるんだろ、つまり……
(そう。近距離で剣を通せる距離ならあの子は無敵なの)
う、うわぁ……
相性最悪じゃない?
あんな遠距離から馬鹿でかい腕召喚してへんな光線撃ってくる相手は。
(うん……だからウォーダンとエヴリルで防いで、私とシリアスで倒したんだよね)
なるほど。
彼女はあくまでその剣にしか力が宿らないのか。
身体能力を強化するとかいうデタラメな力と才能に溢れる君が主導となって敵を倒す必要があったのは否定できない。
(覚醒したら本当にずるだからね。まあそれでも魔王には勝てなかったんだけど)
能力とは関係ない場所で勝たなくちゃいけないのが最後に控えてる。
それがわかってるだけ大分マシだと僕は思うよ。
(……そうだね。ブレーヴには強くなってもらわないと)
そうだ。
そうやって僕の尻を叩いてくれればいい。
そうすれば僕はどれだけ醜く死んでも足掻き続けるし心は折れない。
君の目の前で無様を晒せば晒すほど、僕の死が積み重なれば重なるほどに成長していく。
(…………うん。頑張ってね?)
ああ、頑張るさ。
で、覚醒ってのは何?
勇者特性が強くなる、って認識でいいかな。
(そうだね、大体そういう認識で合ってると思う。シリアスは最終的になんでも斬れる斬撃をブンブン遠くに飛ばしてたから、そういう力になると思うよ)
えぇ…………
なんでもありじゃないか。
(それだけで倒せない相手ばっかりだったからね。いい、ブレーヴ。魔物は斬っただけじゃ死なないし、ぐちゃぐちゃになっただけじゃ死なない奴がいるの)
いやな話だ。
でもそれは嘘じゃない。
僕の能力も覚醒してくれたら最高なんだけどな……
もしくは、覚醒してこれ?
だとしたら救いようがない。
(だから、私が責任を持って殺してあげる。安心して死んで、繰り返して、いいよ……っ)
……無理して言わなくていい。
君の気持ちはわかってる。
無理に慣れないでほしい。
ゆっくりと、この旅が続けばいやでも慣れるさ。
(…………ごめん)
ん、いいんだ。
君が僕を心配してくれているだけで嬉しいから。
そして歩き続けることおよそ五分ほど。
魔軍の陣地らしき場所を、山の上から発見した。
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