人生ゲーム

ザイン

第1話 不思議なアプリ

「おはようございます」


亀梨一也(かめなしかずや)28歳。彼は大手銀行の支店に勤める会社員。同じ部署の人達に挨拶をし自分の席につきPC(パソコン)を起動する。


「…………今日は中森製造か」


一通り通知を確認し、席を立つ。部署のある部屋から10m先にある自販機で缶コーヒーを買い。営業に向かう前の一服を済ませる。


「亀梨先輩!おはようございます!!」


「赤西。おはよう」


「自分もいいですか?」


「…………もう、出るぞ」


「え〜。すぐ飲みますから!!」


亀梨の後輩赤西は炭酸飲料に手を伸ばす。


「……………」


「どうしました先輩?」


「…………別に、さっさと行くぞ」


「はい!」


運転を赤西に任せ、助手席から景色を眺める亀梨。


「今日の営業…………上手くいきますかね?」


「心配ないだろ。先方も前向きに検討してたし、万が一断られても策はある」


「えっ!そうなんですか?」


「…………赤西。こういう詰めの時はいつ不測の事態が起きても対処出来るように、複数の策を用意しておけ」


「わかりました!」


営業先の中森製造に到着し、社長室を訪れる。


「社長本日はよろしくお願い致します。」


「なに亀梨君。こちらは融資をお願いしている身だ。こちらこそ御手柔らかに頼むよ」


「では早速本題に取り掛かります……………」



「…………はい。中森製造との契約取り付けました。……………わかりました。社に戻り報告書を提出します。」


車に戻ると上司に取り引きの報告をする亀梨。


「今日はこれで終わりですか?」


「あぁ。あとは報告書の提出だ」


「俺がやりましょうか?」


「…………そうだな。頼むよ」


「この後どうされます先輩は?」


「…………特に決めてないな。」


「まずは昼飯にしましょう!」


「・・・・・そうだな」


特に食べたいものがあるわけでは無かった亀梨は、赤西の希望でカフェで昼食を取ることになる。


(またここか・・・・・)


ここ最近、赤西がお伺いを立て特に希望が無いと、必ずと言っていい程このカフェになる。


理由は明白だった。


「いらっしゃいませ~。あっ!いつもありがとう御座います!!」


元気に案内をする女性、ここの看板娘だ。


「2人だけど空いてる?」


「丁度あと1席だったよ!どうぞ~」


案内された席に座る亀梨と赤西。


「ご注文お決まりになりましたら・・・・・」


「水月ちゃん。俺いつもので!先輩は?」


「・・・・・・俺も」


「アイスコーヒーとホットコーヒー。日替わりサンドと『セーマ』特製サンドですね?」


「そうそう!よろしくね!!」


「かしこまりました!」


水月と呼ばれた女性は席を離れる。


中身の無い会話に適当に相槌を打つ亀梨。赤西は赤西でそれを気にも留めない。これはあくまで自分の本当の目的を包み隠し、先輩に対して失礼のないよう出来る限りの配慮をした結果の言動だからだ。


亀梨としても赤西の本当の目的はわかっており、いつもの暑苦しいノリや気を遣われた沈黙よりはマシなので気に留めず付き合う。


「お待たせしました!」


赤西が話題に困ったタイミングで注文の商品が届く。そのベストなタイミングに感謝するように日替わりサンドに食らいつく赤西を、亀梨は気にすることなく自分のペースで頬張った。


赤西と別れた夕暮れ時。何気なく確認したスマートフォンに通知が来ていた。


(オススメのアプリか・・・・・)


通知を確認すると、いつもの如く沢山のゲームが紹介されていた。暇つぶしでオセロをインストールして以来ちょくちょく紹介されるゲーム達。


CMで売り出している物から、ひと昔前に流行した物


(これ・・・・・赤西がやたら勧めてきたヤツだな)


特に興味が沸かず閉じようとした時。ある1つのアプリに目が留まる。


(『REAL LIFE』・・・・・本当の人生?)


昔見た1~10の書かれたルーレットが表紙のそのアプリを亀梨はインストールした。


家に帰りベットに寝転ぶ亀梨はさっきインストールしたアプリを開く。


「プレイヤーは4人。1~10のルーレットを回し駒を進め億万長者を目指すゲームです・・・・・って人生ゲームかよ!?・・・・・英語表記にしとけば釣られると思ったのか?」


内容は昔遊んだボードゲームに瓜二つだ。


(・・・・・・所持金は3万円。一着には・・・・・1億円ね)


下らないと思いアプリを閉じようとするが


「あれ?閉じない」


どの操作をしても『REAL LIFE』と名のついたアプリは消えず、再起動を試みるも自動的に現時点で開いているユーザーネームの画面に戻ってしまう。


「・・・・・・スマホが使えないのは不便だしな」


仕方なく『タートル』と入力し、次の画面に切り替わる。既に3人のユーザーが揃っていた。


「俺以外が『アクア』、『メイプル』、『バイソン』ね」


全ユーザーが確認を終え、懐かしいマップが表示される。


(俺は最後か)


ルーレットが回りゲームが始まるとある違和感に気がつく亀梨。


(なんだこのマスごとに書いてある数字・・・・・スポーツ選手のマスに止まった『バイソン』に7。タレントのマスに止まった『アクア』に1。先生マスに止まった『メイプル』に3?)


遂に自分の番になる画面の中央にPUSHと書かれた赤い丸が表示され、そのボタンを押す亀梨。


「・・・・・5で、ビジネスマンマスで0?」


強制的に駒が移動し給料日マスに辿り着く。


(『バイソン』がルーレット回して10万、『アクア』もルーレット回して2万5千、『メイプル』が20万で俺が30万か・・・・・)


「一番平凡な職業の俺が1番貰えるのな」


思わず皮肉った亀梨。すると画面は見慣れない画面に移り変わる。


「次回開催をお楽しみに・・・・・ってどういうことだ?」


疑問に思うもそれ以降次の画面に切り替わらない『REAL LIFE』。しかしゲーム自体は終了出来たので特に詮索することも無くその日は瞳を閉じ1日を終えた。


結局それ以来『REAL LIFE』を開いても【次回開催をお楽しみに】から変化せず、次にアクセス出来たのは1週間後であった。

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