ダンジョンで魔王から逃走中のパーティに召喚されて異世界転生しました

サワキシュウ

第1話 歓迎されてない異世界転生

 異世界転生したい。

 期末テストの一限目が始まる前に、隣の席の友人がそんなことを言っていた。

 確かに異世界転生は現実逃避としては、主流であることは疑いようが無い。しかし、異世界に行ったところで楽しい思いができる保証なんてものは無い。ひょっとしたらテストなんかより辛いことが待っているかもしれないんだ。

 そうなんだ、異世界転生なんてしたってしょうがない。

 そう友人に忠告しようとした時、僕の目の前が突然真っ白になった。




 呆然と立ち尽くす僕の前には、ゆるやかな笑みを浮かべて、ローブを羽織った金髪の色白美人が座っている。

 そしてその横には、僕と同じように呆然と立ち尽くす赤毛の少女。こちらは顔に似合わない無骨な甲冑姿で、手には抜身の剣が握られている。

 今いる場所は、まわりはレンガのような壁があるが窓はなく、ところどころに松明が灯っている地下道のような場所だった。


 ふと、足元を見た。

 ゴツゴツとした石畳に赤い字でなにやら紋様が書かれている。それは僕を中心として円状になっていて、まるで円形の紋様の中心に僕を置いたみたいになっている。

 模様は何が書いているかはさっぱりわからないが、見た瞬間に頭に浮かんだ単語は『魔法陣』だった。

「どうやら成功したみたいよぉ」

 ローブを着た色白美人が微笑みながら言った。

 しかし、横の赤毛少女はものすごい剣幕で口を開く。

「どこがよ! とんでもなく弱そうなのが出てきたじゃないの! 私たちにいま必要なのはあの魔王を倒す勇者なのよ。分かっているの、エレノア!?」

「そう喚かなくても、分かっているわよぉ、アリサ」

 色白の美人は鬱陶しそうに応える。

「でもね、私の術式は完璧に成功したのよ。だから、こうやって召喚された者は、魔王を倒せる勇者のはずなのよぉ」

 赤毛の少女――アリサは、キッと僕を睨みつけた。

「本当なの? だってこの見てくれよ? それに魔力も闘気も一切感じないし、ゴブリン以下にしか見えないわよ?」


 おそらくは僕のことを言っているのは一目瞭然だった。だが何故にこんな場所でこんな風に悪態を吐かれないといけないのか。そりゃ初対面で女子にモテる風貌ではない自覚はあるけれど、ゴブリン以下はあんまりだと思う。

「確かに見てくれはアレだけど、術式が選んだのだから間違い無いわぁ」

 色白の美人――エレノアが言う。のんびりとした口調とは裏腹に、この人も案外口が悪いらしい。

 突如、ズゥウンという音とともに足元に衝撃が走った。

「ヤバい! 近づいてきてる。ちょっとアンタ、なにか特別な力とか無いの?」

 アリサが言った。アンタというのは僕のことだろう。それから、彼女たちの言っていることと、今の状況を鑑みると、僕はどうやら勇者として異世界転生されたっぽい。そして、なにか分からないもの――恐らくは良いものではないものが近づいているらしい。


「と、特別な力って言われても……」

 なんとか言葉を絞り出して、僕は自分の体に意識を向けた。なにか転生する前と違うところは無いかと、手のひらを見たり身体中を触ってみたが何も感じない。

「わ、わからない。何? 特別な力って?」

「こっちが聞いてるのよ!!」

 僕の問いに、赤毛のアリサがキレ気味に返してきた。

「さっきから言っているように、アンタはエレノアの召喚術で『勇者』として召喚されたの! だから、あの魔王を倒す力があるはずなのよ!」

「そんなこと言われても……」

 金切り声で喚くアリサから僕は目線を外し、助け舟を求めるようにエレノアを見やる。

「本当に僕が『勇者』として召喚されたの?」

 問われたエレノアは手櫛で髪をすきながら応える。

「本当よぉ。これでも私は最上級の高位召喚士なの。私は望むモノを何でも召喚できるのよ。だから、あなたは『勇者』の召喚に応じてここに居るのだから『勇者』に違いないわぁ」

「呑気に話してる場合じゃないわよ、エレノア!」


 その瞬間、僕の後ろの方で爆発のような破砕音が響いた。

 見ると、数メートル後ろの壁が粉々に吹き飛んでいて、バラバラと落ちる瓦礫の中を、大きな角が生えた人型の何かが歩いて来ている。それと目が合った瞬間に身体中から汗が吹き出した。直感した、これが彼女たちの言う魔王なのだと。

「逃げるわよ! アンタもこっちに来なさい!」

 僕はアリサに手を引かれ、引っ張られるままに駆け出した。


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