管理執行局
立花零
CES 管理執行局
管理執行局(Control Executioning Service,CES)は、複合都市〈レイヤードネスト〉を管理する人工知能〈CASTLE〉直属の治安維持組織です。
CESは一年の期間で傭兵と契約し、レイヤードネスト内の治安維持任務を依頼いたします。内容はテロリスト集団の撃滅、企業間紛争への介入、災害現場への派遣など多岐に渡ります。また、任期満了後は、ご自身の意志によってのみ契約更新が可能です。
我々は常にCASTLEからの指令に基づいており、任務への不当な介入や作為的な要請を受ける心配はありません。また、我々からの依頼に限り、任務遂行のためにやむを得ないとされた損害は一切不問となっております。
レイヤードネストは、人類存続のための「ゆりかご」として何よりも重要な役割を果たしています。この都市を次の世代へと繋ぐために、我々はあなたの力を必要としています。
駅の構内を、5機の人型兵器が歩いていた。高い機動力を持ち、市街戦闘において無類の強さを誇る兵器、ウォーカー・ブレード。装甲パーツも、腕部に保持する武装も不揃いな5機は、それらがテロリストの保有する機体であることを示していた。
頭部を赤く塗装したリーダー格の機体が、両腕のグレネード・ランチャーを同時に発射。その砲弾が壁に着弾し、生み出した巨大な爆発が空洞を作る。うずくまっていた駅の利用者たちは、衝撃波と破片に襲われて動かなくなった。逃げようとしたものは、別の機体が撃った20ミリ機関砲で殺害される。
構内全体が揺れる。テロリストの攻撃ではない。誰もが周囲を見回す。
一瞬の静寂。次の瞬間、新たなウォーカー・ブレードが壁面を突き破って出現する。それは四脚型の機体であり、緑色のカラーリングはカマキリのようにも見えた。新たな一機はテロリストと向かい合い、逃げ惑う利用客の盾となるよう立ち塞がった。
〈こちらは管理執行局だ。貴様らを掃除しろという依頼を受けた〉
四脚型は左腕を胸の前に移動させ、手首から肘にかけて伸びる装備を起動させた。一見すると小型の盾のように見える。正面のカバーが開くと、中に収められていた無数の球体が露わとなった。投擲型爆雷である。
〈死ね〉
左腕の一閃。外側へ腕を開き、爆雷を遠心力で加速させる。解き放たれたそれはテロリストの機体に接触。そして爆発。周囲の酸素を取り込んで燃焼し、敵機をバラバラに解体しながら吹き飛ばす。
至る所から煙が立ち上る中、緑色の機体は地面を滑るように移動。敵機の残骸を乗り越え、やがて壁の穴から姿を消す。
その機体の左肩には、銀色の幾何学模様が刻まれ、その上にCESと記されていた。
再開発中の都市部。複雑に入り組んだ足場が、音を立てて崩れ落ちる。足場の最上部から黒い二脚型ウォーカー・ブレードが侵入し、〈ストーム社〉の工事現場を強襲した。
その機体には〈アルヴァス・インダストリアル〉の所属機であることを示すエンブレムが描かれていた。ストーム社と敵対する巨大企業であり、レイヤードネスト内の人口を支えている企業だ。
作業員たちが逃走する中、黒い機体WM-200〈ヤコブ〉は両腕の携行機関砲で工事用の物資を破壊する。その砲弾がひときわ大きいコンテナに達したとき、工事の封鎖を飛び越えて別の二脚型ウォーカー・ブレードが現れる。
新たな青い機体SA-77〈ルーン〉は騎士のような出で立ちで、長い銃剣が
敵対する企業同士の機体が、市街地戦闘を開始した。
ルーンが推進器を使って接近し、銃剣を振りかぶる。辛うじて避けたヤコブが右の機関砲を発砲するが、砲弾はルーンが肩から展開した
姿勢を変えたルーンがリヴォルヴァー・カノンを向ける。一方のヤコブが回避行動を取ろうとしたその時、筒状の物体が何者かによって工事現場の壁越しに投げ込まれた。その筒は両者の間に転がり、突如爆発を引き起こした。
しかし、単なる爆発ではない。
両機体の視界が塞がれる。その直後、灰色の二脚型機体が音もなく飛来した。その左腕には、大型の
初めに
〈お前は......仲間か?礼を言う。助かったぞ〉
ルーンに乗るパイロットが、灰色の機体へ感謝を伝える。しかし灰色の機体は何も言葉を返さず、ただルーンへ向き直るだけだった。そして、
その瞬間、ルーンのパイロットは灰色の機体の左肩に意識を集中させた。「
〈やめろ、俺は任務を任されただけだ〉
一転して、パイロットは逃げる隙を伺い始める。リヴォルヴァー・カノンを投棄し、左肩に残った防盾も切り離す。
〈頼む、見逃してくれ。俺だって好きでやってるわけじゃないんだ。命令されてやっただけなんだ〉
〈そうか。奇遇だな〉
灰色の機体のパイロットが、初めて口を開いた。冷たい声で同情するようなそぶりを見せる。
〈俺も命令されたんだ〉
灰色の機体がルーンへ飛び掛かる。回避できなかった青い機体に、深々と杭を突き下ろす。ルーンは首の付け根から胴体を貫かれ、コクピットを潰された。パイロットは痛みを感じる暇もなく絶命し、制御を失った四肢パーツが垂れ下がる。まるで、出来の悪い操り人形のように。
〈任務完了。帰投する〉
パイロットが相変わらずの冷たい声で告げた。ずるりと引き抜いた杭には、微かに赤い液体が纏わりついている。
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