はちみつとよるいろ 〜転生貴族令嬢は、黒髪少女と作家を目指す〜

明里 和樹

貴族令嬢に転生した現代人が、傍から見れば黒髪少女と百合百合してるだけのお話。

第1話 蜂蜜色の少女の独白

「っく……ぐすっ…………」


 人気ひとけの無い図書館の一角いっかく、柔らかなオレンジ色の夕日が射し込む窓辺で、白を基調とした丈の短い上着とロングスカートの制服に身を包んだ金髪の小柄な令嬢が、何事かあったのかポロポロと涙を流し、嗚咽おえつらしてたたずんでいた。


 すると、彼女のそばに寄り添うように立っていた黒髪の華奢きゃしゃな令嬢が、そっと、壊れ物にでも触れるかのように、涙に濡れる頬に優しく手を伸ばす。


 その突然の行動に、泣いている少女はビクリ、と身体を震わせたあと、まるで愛しい者にでも触れるかのように、おずおずと自らの手を彼女の手に重ね、うつむいていた顔を上げると────




 ────はいどうも。ただいま絶賛ボロ泣き中の身ではございますが、皆様はじめまして♪



 わたくしの名前はユリティーエ。スペンサー伯爵家が一子でございます。親しい方にはユーリ、ユリィといった愛称で呼ばれる、蜂蜜色の金髪とオレンジ色の瞳をした、家族曰く(黙っていれば)小柄で可愛らしい女の子です。この伝統と歴史ある王立女学園の二年生で、十三歳の貴族令嬢であります。



 ところでなぜ今、わたくしがこんな人気のない場所で泣いているのかというと、これにはヒマラヤ山脈よりも高く、マナリア海溝よりも深~い事情があるのです。


 ええ、懸命なお方ならこの時点でお察していることかと存じますが、ここは、あえてご説明いたしましょう。



 皆様は“生まれ変わり”というものを信じられますでしょうか? ええそうです。漫画や映画といったフィクションなどではお馴染みの、例のあれです。


 転生ものの小説などをたしなまれる方でも、実際に存在するのか? と問われると何とも言えない、例のアレです。



 ……ここだけのお話なのですが、…………実はですね……、わたくし…………、なんと……! ……なんとー…………!(某ゴチになる番組風言い回し)






 ────前世の! 記憶が! あるのです!












 絶望しました!!




“…………え、転生したのに嬉しくないの?” “前世の記憶あるんでしょ? 知識チートで内政無双し放題じゃん!” “前世の価値観で行動してイケメンに「おもしれー女」って言われてモテモテになるんですよね、わかります”


 …………ええ、そう思われた方々かたがたのお気持ちもよ〜くわかります。……大変よくはわかるのですが…………ここは、あえて言いましょう!


 甘い! 甘すぎる! 十万石ま○じゅう! よりも、甘々です!(あくまで個人の感想です)


 ……あ、ご存知でない方に説明いたしますと、十○石まんじゅうというのは埼玉県の銘菓でしてですね。気になる方は検索すれば画像とか一部地域で有名なCMとか出てくると思いますので、お調べになってみてはいかがでしょうか? 知識が増えて損はないですしね(役に立つとは言っていない)。


 ……ええと、何の話でしたっけ? すみませんね、わたくしよく話が脱線するもので。姉にもよく注意されるのですが。でも話が脱線する先生の授業とかって楽しくないですか?

 ……あっ、すいません、いい加減話を進めますので石を投げないでください……。メンタルよわよわなのでディスらないでくださいぃ…………。陰キャなので優しく保護してくださいぃぃ………………(涙目)。


 ……んん、では、お話を進めさせていただきます(キリッ)。


 生まれ変わりのお話でしたね。なぜ、皆様が大好きで愛して止まない(あくまで個人の見解です)、あの、誰も彼もが夢見る“異世界転生”をしたにも関わらず、これっぽっちも喜んでいないのか……?



 そんな皆様の疑問にお応えするためにも少しだけ、わたくしの身の上話をさせていただいても構わないでしょうか…………?

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