第九話 僕と先輩とパンチラ(黒)

 玉石さんが設立した宇宙探求部の一員となって数日が経過したが、僕は悩んでいた。


「うーん」


 部員を集めろとは言われたものの、どうすればいいのだろうか。


 あの後、玉石さんから出された条件は二つだ。


 一つ目は、勧誘の際に玉石さんの名前を出さないでほしいということ。彼女は自分が人気者だという自覚はあるようで、玉石さんが部活を始めたという噂が流れてしまうと自分目当ての男子たちが集まってしまい、部活動に支障をきたすことを懸念しているらしい。彼女本人が部員勧誘を行わないのも、このためだ。


 なので、表向きは僕が部長ということらしい。


 二つ目は、出来るだけ面白そうなことを知ってそうな人を選んでほしいとのこと。これがなかなか難しく、ただの一般人である僕にはそういう人との繋がりがない。


「ねぇ、茉莉まつりにも部員集め手伝って欲しいんだけど」


 放課後、帰り支度をしている隣の席の幼馴染にダメ元で声をかけてみる。


「嫌」


 茉莉はこちらを見向きもせずに、鞄に教科書を入れながら答えた。


「そう……まあ、そう言うのはわかってたけどさ……」


 人見知りの激しい茉莉が部員集めなんてものをやりたがるはずがないのはわかっていたが、たったの一文字で断られるのは少し悲しかった。


「じゃあさ、玉石さんが言ってたような面白そうな人の心当たりってある?」


 僕がそう言うと、茉莉は無言でこちらを指差してきた。


「いやいや、僕は普通の人だし!」


「……うわ、自覚ないんだ。思ったより重症だね」


 なんてことを言うんだ、茉莉は。それじゃまるで僕が変人みたいじゃないか。


「……僕以外では?」


 反論したい気持ちをぐっと堪えて聞いてみる。


「わたしの交友関係が狭いことは知ってるでしょ。……わたしのじゃなくて、悠介の知り合いになら心当たりはあるけど」


「え? 誰さ?」


 全く心当たりがない。僕にそんな面白い知り合いがいただろうか。


「ハーフの先輩がいたでしょ。去年の文化祭の実行委員で一緒になったっていう」


「ああ、くすのき先輩?」


 フルネームをくすのきレイチェルという。

 金髪で緑色の目をしているため、見た目はほとんど純正の外国人みたいな人だ。本人に言ったら怒るかもしれないが小柄で可愛らしく、先輩というよりは後輩といった方がしっくりくる。


 たしかに実行委員で一緒に仕事はしていたけど、業務以外の会話をしたことがなく、知り合いと呼んでいいのかも微妙なところだ。


「でもあの人って面白い人なの? 僕はあまりよく知らないんだけど」


「ハーフだし、たぶん面白いんじゃない」


 ……茉莉、それは関西人が全員面白いこと言えるっていうのと同じくらいの物凄い偏見だぞ。


「うーん、でも何も宛てがないまま探すよりはいいか……ありがとうね、茉莉。じゃあ行ってくるよ」


「ん」


 きっと茉莉なりに考えてくれたんだろうと思ったので、素直にお礼を言って僕は教室を後にした。




◇◆◇




 かくして僕は楠先輩の教室へとやってきた。

 まだ帰ってなければいいんだけど。


「あ、いた」


 教室をそっと覗き込むと、一際目立つ金髪の女生徒を発見した。間違いない、楠先輩ターゲットだ。


 楠先輩は机の上に腰をかけて、友達二人と談笑していた。

 どうやって声を掛けようかと悩みながら見ていると、楠先輩は組んでいた脚を組み替えた。その時、スカートの中身がチラッと見えてしまった。


「なるほど黒か……流石は上級生だな……」


 思わず素直な感想が口からこぼれてしまう。

 って、いやいや! 僕は何を言っているんだ! これじゃまるで覗きをしている変態みたいじゃないか!


 僕は先程の黒色を脳内のパンチラフォルダに保存しつつも、何をにきっかけに話しかけるかを考えてみた。


 プランA

 話があるんですけどって呼び出してみるか? いやいや、それじゃまるで告白するみたいじゃないか……。


 プランB

 久しぶりに会った旧友のようにさり気なく会話に混ざってみるのはどうだろう? ……却下だ、僕にそんなコミュ力ない。


 プランC

 脅迫してみる。……いやいやいや、倫理的にまずいし、そもそも脅迫するようなネタを僕は持っていないぞ……持っててもやらないけどさ。


「あんたさっきから何やってんのよ」


「うわぁ!?」


 気がつくと目の前に楠先輩が立っていた。思考に没頭しすぎていて気がつかなったようだ。

 小柄な彼女は僕をジト目で見上げてくる。

 ど、どうしよう、もしかして覗いてたことを怒ってるのかな。


「や、やあ久しぶりだね先輩。ところで話があったんだけど、パンツの色をバラされたくなかったら何も言わずに僕についてこい」


 焦って混乱した僕は、プランABC全てを同時に実行してしまっていた!


「はぁ!?」


 先輩が素っ頓狂な声をあげる。

 これはまずいと思い、僕は慌ててその場から走って逃げた。顔を覚えられたらアウトだ! あんなことを口走ったと誰かに知られたら僕は社会的に死んでしまう!


 しかし先輩も僕を逃すまいと追いかけてきた!


 こうして僕の社会的な命をかけた鬼ごっこが始まった。

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