妹は可愛い


夏に差し掛かる頃――


日が昇って村の少年―フレイが目を覚ます。

窓から太陽の光を浴びて思った。


あれ、これ寝坊した?

いつも通りの場所に太陽が見える気がする。

まあ、太陽の位置なんて目で見て

細かく分かるものでもないし、多分気のせいでしょ。


俺は寝坊していない。そう言い聞かせて

フレイは階段を降りていくと、

妹―マリーがいたので声をかける。


「おはよう、マリー」


「兄さん、おはようございます。

 ……今起きたんですか?

 もう2時間ぐらいで昼になるのだけど……」


「いや、まあ、うん、……ごめん」


マリーがジト目で俺のことを見てくるので、

謝った。しかし、

皆はどうして寝坊しないんだ?

この村で俺以外に寝坊をする奴は

いないらしい。

え?俺も早起きするように心がけろって?

もちろん努力はしたさ。

でも駄目だったんだよな。

自分でもなんでか分からないんだけど、

俺は自分から起きるときだけ起きて、

それ以外で起きたことはないらしい。


今ジト目をしているマリーも昔は

俺を起こそうと

頑張ってくれていたらしいが、

半年ぐらい前から起こそうとしなくなったと

母さんからは聞いている。


その時の俺は自分のせいなのに

とうとう妹にも諦められてしまったのかと

精神的に参ってしまいそうだったが、

マリーは今起きたのか聞いてくるあたり

まだ俺のことを少しは

期待してくれているはずだ。

だから呆れられているような気がするのは

気のせい。

絶対にそうだ。

そんなことを考えていると、

マリーに言われた。


「兄さん、早く朝ご飯食べて下さいよ。

 私はこれから

 セラさんのとこに行きたいので」  


早く食べろと言われて

邪険にされているのかと

一瞬心配したが、そういうことか。


「分かった。すぐ食べるから待っててくれ」


「大丈夫ですよ。

 私は1人で行けるので

 心配しなくていいです」


「でも、あいつがマリーのことを

 諦めたわけじゃないだろ?」


「それはそうですが

 兄さんが気にする必要はありません」


そう言ってマリーが家を

出て行こうとするので、

朝ご飯を急いで食べて俺も続いた。

帰ったらマリーから皿ぐらい自分で

片付けろと怒られるだろうが

その時は謝ろう。


―――――――――――――――――――――――


「……何でついてきてるんですか?」


「母さんも父さんも滅多に

 帰ってこないんだから

 自分が変わりにならないとだろ?」


「……それを兄さんが言います?」


マリーから躊躇いのない正論をぶつけられて

少し弱ってしまうが、ふと目を横に向けると

1人の村人がこっちに歩いてきている。

弱っている場合ではない。


「マリー?だから言っただろ?」


「ええ、また来るとは思ってませんでした。

 とりあえず、兄さん頑張ってください」


「オーケーオーケー。俺に任せなさい」


そう言って俺達は足を止めた。

自慢話をしよう。マリーは可愛い。

この村の中で1番の美人は

誰か聞いたとしよう。

愛、金、権力。大体この3つが干渉しない限り

マリーが負けるなんてことはあり得ない。

高い身長、引き締まった体、

礼儀作法も優れている。

マリーと答えないであろう1部の奴らは

胸の大きい方が正義とか言ってるが、

マリーの名誉の為に言っておこう。

マリーの胸は小さくないからな!

これは真面目な話だ。

村で2番目に人気なザラさんの

胸が大きすぎるだけでマリーの胸も多分

世界で胸を比べてみたら普通に

上位に入るぐらい

体とのバランスも良いいし、

形も整っているはずだ。


話が長くなったから一旦置いておこう。

要するにマリーはモテる。家族だからって

恋愛にまで関わるなとか言われるが

マリーを狙ってそうなのは村の中でかなり

性格が悪いって言われてる奴だ。

ちなみに名前はヤンクというらしい。

その証拠にほら、


「おい、マリー。俺の女になれよ」


隣に人がいる状態でこんなこと言うか?

しかも命令口調。

こんな奴に妹を嫁にいかせられないだろ?


「嫌です」


「……そうか、かわいそうだなあ。

 こんな兄貴がいるから

 置いていけないんだろ?

 もう気にしなくても

 いいようにしてやるよ!」


そう言うと、ヤンクは俺に向かって

殴りかかってきた。


……追加。こいつ頭も駄目だわ。

俺が何もできないってのは

村でも割と有名だが、

すぐ殴りにくるか?

しかも気にしなくてもいいって

多分俺が死ぬからとかそういうことだろ?

なんとなく会話も成立してない。

この村は魔物も

滅多に出ないから皆温厚だけど、

どうしたらこんな奴が出てくんのかね?


俺は自分を狙ってくる

右手を掴んで笑顔を向ける。

ついでに一言。


「お前、覚悟決めろよ?」


「は?」


―――――――――――――――――――――――


「す、すみません、でした……」


ヤンクが土下座をして謝罪をしていた。

さっき俺は何もできないといったな?

あれは嘘だ。話し合い(物理)は得意だ。

まぁ、相手が人かつ未成年だったらだが。

それに家事もそこそこできる。

そんな俺が何で

何もできない思われているのか。

理由はひとつだけだ。

マリーが優秀すぎるから。

俺が寝ている間に家事は全部終わっている。

この村の人は家事をしている妹と

その間寝ている兄、

この2人を見れば兄は

何もできないと思うだろ?


村の人に認められているのは、

妹にいつも着いていくシスコンだけ。

俺が殴り合えるって知ってる人は

割と少なかったりする。


「もういいから、早くかえれ」


「はい……」


そう言うと、

ヤンクは足をふらつかせながら帰っていく。

これでもう終わって欲しいもんだ。

さっき俺とヤンクは初対面みたいだったが、

それは違う。あいつは都合が悪いことを

無かった事にしたいのか、忘れたのか、

何事もなかったかのようにまた来る。

不思議なことだ。まあいい。


「じゃあマリー、早く行こう」


「そうですね」


こうして俺達はセラさんのもとへ

向かって行った。




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