思考実験的異世界
ミルティア
第1話 思考的実験 女性冒険者は成立し得るか?
魔法がある異世界で、女性冒険者は成立し得るのだろうか。
冒険者ギルドで働く多くの人は、否定的な見解を述べる。
男性の冒険者でも多くの殉職者が出る。
では、女性の冒険者はいないのだろうか。
実際に冒険者ギルドに立ち寄れば、女性冒険者を見かけるだろう。
今回は、一つの女性冒険者のパーティーを観察しながら考えてみよう。
「なぁ、この食堂寒くないか?」
「古い建物だからな」
「私は、快適ですが」
冒険者ギルドの近くで営業している宿屋と併設されている食堂の席で、話し込む三人組の女性がいた。
一人は、凛々しい姿。
一人は、可愛らしい姿。
一人は、可憐な姿。
むさくるしい冒険者の集団が集まる食堂で、浮いていた。
「相変わらずじろじろ見てきやがる」
「美人の宿命ってやつだ」
「私は、あきらめました」
三人とも、その容姿はとても美しかった。
「それで、今日はどうする?」
「ダンジョンも飽きたね」
「それなら、何か討伐でしょうか?」
何時もの日常。
何時もの時間。
何時もの会話。
多くの冒険者が集う食堂でのルーチンワークの一つ。
「何を討伐する?」
「安い討伐は避けたいね」
「街から遠い討伐も避けたいですね」
それから、三人組の女性冒険者の中で凛々しい女性が辺りを見渡す。
「近くの草原で薬草を探すっていうのはどうだ?」
その提案に、三人組の女性冒険者の中で可愛らしい姿の女性が豪快に笑いだした。
「それは初心者の仕事を邪魔しちゃうでしょう」
可愛らしい姿に似合わない豪快な笑い声に、三人組の女性冒険者の中で可憐な姿の女性が咎めた。
「下品な笑い方をしないでください。無駄に注目されるではないですか!」
可憐な姿の女性が咎めたのには訳がある。
冒険者の命がパン一切れより安い世界。
注目を集めるということは、仕事の指名が増えると同じく敵が増えることを意味していた。
彼女たち三人は、パン一切れより安い命と引き換えにして、冒険者として生きてきた。
仲間以外は、全て敵か利用できる駒として。
「食い終わったんだ。ここを出よう」
凛々しい女性が促すと、二人は黙って席を立つ。
それから、いつものように凛々しい女性は、宿屋の主人に冒険者ギルドが発行した身分証明書として使われるギルドカードを提示して三日分の宿泊と食事代を冒険者ギルドに請求するように告げる。
多くの冒険者は、盗難防止のために報酬を冒険者ギルドに預けて、支払いは冒険者ギルドに預けた報酬から支払う。
高度に資本主義が発達した時代なら銀行が提供したサービスを、冒険者ギルドが一部代行していた。
その様子を数人のみすぼらしい冒険者がギラギラした目つきで見つめていた。
「薬草を集めるより化け物を倒すより悪党になった冒険者を狩った方が儲かるのは皮肉なものだ」
凛々しい女性は冒険者ギルドに向かう道すがら小さく呟く。
「女だからとなめているからな」
可愛らしい姿の女性も小さい声で話を続けた。
「今頃、私たちの売値を計算しているでしょうね」
可憐な姿の女性は囁くように吐き捨てた。
「問題は、悪党になった冒険者を狩るのは稀にしかできないことだ」
凛々しい女性が会話の締めくくりと、会話を打ち切った。
冒険者ギルドに立ち寄った三人組の女性冒険者は、薬草を探すクエストを受付に受諾することを告げた。
受付の女性は、慣れた様子で事務的に処理していく。
「久しぶりですね。薬草を探すクエストを受けたのは」
受付の女性の言葉に、可愛らしい姿の女性は容姿に相応しい答えを返した。
「今の季節なら、薬草の花が満開で美しいからです」
この会話を盗み聞きされているのは、冒険者ギルドの受付の女性も三人組の女性冒険者も気が付いていた。
薬草を探すクエストは人気があるクエストではないが、極めて安全にお小遣い稼ぎになるので初心者の冒険者や引退寸前の冒険者には必要なクエストだった。
三人組の女性冒険者は、すでにほかの冒険者に薬草が収穫されてしまった草原にたどり着くと大げさに喧嘩を始めた。
「ぐずぐずしていたから、ほかの冒険者に薬草を全部取られてしまったぞ!」
凛々しい女性の苛立つ声に可愛らしい姿の女性が下品に反論した。
「てめえの要領が悪いからだろ」
可憐な姿の女性は、ただ大きくため息を吐いた。
「不愉快だ!」
可愛らしい姿の女性が吐き捨てると、踵を返す。
慌てて可憐な姿の女性は止めようとするが凛々しい女性が叱責した。
「あんな女、売られてしまえばいいんだ」
可愛らしい姿の女性が悪態をつきながら草原から鬱蒼とした森を進んだ。
「虫唾が走るほど不愉快だ!」
大きくはないが小さくも無い音量で感情的に独り言を話す可愛らしい姿の女性の前に二人のみすぼらしい男が立ちはだかった。
「へへ。俺たちと一緒に来いよ」
「兄貴。この女なら金貨二枚で売れそうだ」
可愛らしい姿の女性は、険しい表情で睨みつける。
「そんな顔で睨みつけても無駄さ」
立ちはだかる二人のみすぼらしい男の一人が自信満々に可愛らしい姿の女性に話す。
その話にタイミングを合わせたように、もう一人のみすぼらしい男が森から飛び出して可愛らしい姿の女性の後ろに回り込んだ。
「今日は三人か」
可愛らしい姿の女性はとても小さく呟いた。
その呟きが森に溶け込むより前にみすぼらしい男三人が昏倒する。
みすぼらしい男三人に強力な眠りの魔法がかけられた証だった。
「こんな簡単な演技に引っかかるものだな」
凛々しい女性のあきれた声に可憐な姿の女性は苦笑した。
「こいつらを売ったら、銀貨二枚か?」
可愛らしい姿の女性は話しながら、みすぼらしい男三人に服従の魔法がかけられている首輪を手際よく装着していく。
「自分で買った服従の魔法がかけられている首輪を装着されるのは、どんな気分なのでしょうね?」
可憐な姿の女性は凛々しい女性に疑問に思うことを話しかける。
「わからんよ。私だったら絶望するけどね」
凛々しい女性はジェスチャーでもわからないと示した。
「日が暮れる前に帰ろう。森の獣たちは、こいつらよりは賢いからな」
その言葉に、凛々しい女性と可憐な姿の女性は頷いて同意した。
私が考える思考的実験での結論は、女性冒険者は成立する。
魔法がある異世界でも、女性冒険者は活躍するであろう。
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