聞く絵本

丸 子

聞く絵本

絵も

性別も

年齢もない

文字だけの絵本。

ここでは

あなたが絵を思い描いてください。

モノクロでもカラーでも

ちぎり絵でも浮世絵でも

好きなように読みながら描いてください。

ときにはひとりで

ときにはいっしょに。

さあ、はじまり。


寒い寒い季節がやってきました。

街行く人たちは肩をすぼめて足早に歩いて行きます。

冷たい空気に丸い月がするどく輝いています。

誰もが無言で、眉間に皺を寄せて、とげとげしています。

誰かと歩いている人も不機嫌そうです。


「さむいのっていやだね」

「ほんとだね」

「しゃべると めのまえが しろいよ」

「ハー。ほんとだ」

「しゃべるだけでつかれちゃうや」

「たのしくないね」

「はやくかえろう」


「そんなに速く歩かないでよ」

「うるさいな」

「ちょっと待って。置いてかないで」

「嫌なら走れ」


「だっこー」

「両手に荷物を持ってるんだから無理」

「それなら てを つないでよ」

「だから無理だってば!」

「うわーん」

「うるさい泣くな!」


ガミガミした声が街のあちらこちらから聞こえてきます。

寒いのは人を怒らせてしまうのでしょうか。

おや、ひと組目の2人が何か楽しいことを始めたみたいです。


「ねーねー。ゲームしよう」

「なに? たのしそうだね。いいよ」

「あのね、ほめあいっこするの」

「ほめあいっこ?」

「そう、すきなところとか、すごいところを いいあいっこするの」

「わかった」

「じゃあ、いくよ。

 やさしいところ!」

「うれしいな、ありがとう。

 たのしいところ!」

「ありがとう。

 おもしろいところ!」

「アハハ、にてるね。

 おはようっていってくれる!」

「そこ? それ、あたりまえじゃない?

 すぐわらうところ!」

「ハハ、たしかに わらっちゃうね。でも、うれしいよ、ありがとう。

 げんきなところ!」

「うん、げんきだよ。

 ありがとうっていってくれる!」

「えー、ありがとう。アハハ。

 だめっていわないところ!」

「あー、そうだね。

 なにかをわるくいわないところ!」


楽しそうですねえ。

褒め合いっこが止まりません。

おやおや、ふしぎなことがおこりましたよ。

2人のゲームが街に広がり始めたようです。

まずは

さっき抱っこをせがんでいたあの子です。


「ねーねー。

 にもつ、もつよ」

「え?」

「てが あかくなってる。

 いっぱいもってて かわいそうね。

 にもつ、いっしょにもつ!」

「ありがとう。じゃあ、小さいのを持ってくれる?」

「うん!」

「そしたら手が空いたから、手をつないで帰ろう」

「やった! つぎも もつね」

「また一緒にお買い物しようね」

「うん!」


今度は、あちらも。


「ねえ」

「うるせえな。ゆっくり歩かないからな」

「うん、いいよ。あのね、だいすき」

「は?」

「大好きだよ」

「馬鹿じゃん」

「ふふふ」

「ふん」


2人の歩幅が同じになってきました。


すごいですね。

先程まで、あんなに喧々としていた街に笑顔が灯りました。

どうしてでしょう。

そうか、今日はクリスマス。

クリスマスって何だか人に優しくしたくなりませんか。

街は賑やか、夜でも煌びやか、寒くたって気持ちが優しければ心は温かです。

わたしも誰かに優しくしたくなりました。

でも隣に誰もいません。

そうか、あなたです。

そこのあなた、最後までお付き合いくださり、どうもありがとうございました。


ほう、雪です。

幸い、わたしの手には何もありません。

プレゼントもケーキもなし。

だから、あなたの肩にかかった雪を払うことができます。

濡れると風邪をひきますから。

ついでに自分の肩も拭けるというわけです。


もっと濡れてしまわないよう、早く帰りましょう。


では、さようなら。

よいクリスマスを。

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