奇跡の軌跡
凛佳
プロローグ
海と空が反転して私はあの世界へと墜ちていく。
そう、果てしなく青が広がる静寂のしじまに。
人間が住むことのできない、あの沈黙の底へ。
何度となく味わってきたこの感覚。海に潜るたびに、私はこの静かで懐かしい気持ちでいっぱいになる。
ダイバーの気持ちを切なく描いた映画『グラン・ブルー』の主人公・ジャック・マイヨールはこの青の果に何を見たのか。
私には到底計り知れないけど、私を惹きつけてやまない何かは、彼の何かとそんなに遠くないのではないかと感じる。彼が見たものは、きっと私の見ているものとつながっているはずだ。
首筋から胸元、背筋へ。すぅっと入り込んでくる海水。なめらかでひやりとしたその感覚に私の鼓動は高まる。
日々の忙しさの中で張り付いてまった仮面で覆った自分。日常の私がまとった衣がするすると消え去る。不安、焦り、孤独・・・私を支配するあらゆるものが液状に溶け、私は帰るべきところへと帰っていく。
戻ってきた。私はようやくここに戻ってきた。
映画の主人公・マイヨールはイルカに魅せられた。私もまたいま、自分の前世が悠々と海にたゆたう生物であったことに気づく。私はきっと憎しみも疑惑もない、安らかな時間を過ごしていたに違いない。そう母の胎内で遊ぶ無邪気な子どものように・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます