にちようび

(あの封筒が── 自力で俺の前に来られる訳じゃない。)


 薄暗い廊下を、俺は自室に戻る。


 うちのマンションは22時を過ぎると、節電で通路の照明の半数が自動で消されるのだ。


(じゃあ…郵便受けを見なければ、済む話じゃないのか?)


 気がつくと、見慣れた玄関の前に立っていた。


 ズボンのポケットから、鍵を取り出し鍵穴に突っ込んで回す。


(そもそも、月曜の出勤時間までは この部屋から出ないし)


 室内に入った俺は、内側から玄関を施錠した。


 いつもの習慣が、暇人のいたずらに怯えておこなった行動の様に感じられ失笑する。


(とりあえず風呂に入って…それから晩酌しながら夕食にしよう……)


----------


(─ え?!)


 日曜日。


 溜まっていた録画の消化で夜更かした俺が、目覚めたのは昼だった。


 まずはトイレに。


 その後、足りない睡眠を解消すべく、もう少し寝ようとベッドに戻る途中のテーブルに、それはあった。


(── 青い封筒!?)


 あれから俺は、この部屋の外には出ていない。


 当然、 郵便受けの中身の回収なんか してる筈もないのだ。


(なんで、こんなものがここに?)


 中身など見ずに捨てるべきだ。


 だが、その俺の意思は 体に無視される。


 小物入れに伸びた手が 引き出しを開けてペーパーナイフを取り出したのだ。


(開封するんじゃない!)


 手が勝手に、封筒を開ける。


 例によって中には、封筒とは不釣り合いに小さい ピンクの便箋が入っていた。


(中身なんか見るなー)


 取り出されて開かれた便箋には、例によって丸文字のひらがな。


 頭が文字を認識するのと同じ速度で、俺の背後の声が それを読み上げた。


「ついにとうじつだね。いいところにつれていってあげる♡」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あと、みっかだよ? 紀之介 @otnknsk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ