第5話 先輩! いつも通りキスをしましょう。キス!
「やぁ、伊賀くん。……どうやらお疲れのようで」
「そう見えるか?
時刻は朝の8時25分。机で眠るようにしていた俺にクラスメイトである桐谷
「あぁ、まるで事態を抑えようとしたら更に大きくなりそうで頭が痛い、みたいな顔をしてるよ?」
「また、ほぼ正解だし。本当に見てないよな?」
ちなみにこの
「というか、今日は翼と話していないんだね」
「あー、今日なんか休みみたいでな」
「へぇ、翼が? 珍しいね。アイツ学校大好き人間なのに」
そう、今日は翼は休みである。テストのたびに逃げ出そうとする奴ではあるがその実、学校は大好きで今まで小中高通して休みは0回。まぁ、今日ので1になっちまったが。
「体調不良なんだとさ」
「アイツがそんなので休むタマかな?」
「……なにが言いたい?」
「いや……?」
黄泉の俺への疑わしげな視線に俺は思わずそう返すが内心では驚いていた。……実際、体調不良だが行きたがっていた翼を止めたのは俺だからな。
無理をして倒れられてはたまったものじゃない。
「まぁ、こんなメッセージも寄越されたけどな」
俺は話題を変えるべくスマホの翼からのメッセージを黄泉に見せる。
内容としては……。
『翼:
だから多くは望まない。でも、お見舞いの際にはキャビア、ズワイガニ、伊勢エビ、メロン辺りを頼んだ……よ。
伊賀:分かった。リンゴとスポドリ辺りでいいな?
翼:
「……相変わらず仲いいな」
「そうか?」
黄泉がそう言いながら何か言いたげな顔を覗かせる。完全に翼がふざけて俺は慣れているのでそれをスルーしているだけなのだが……まぁいいや。
そんなわけで翼はおらず昨日の件もあって俺の心配な1日がスタートした。
*
「案外なにもなかったな……」
心配した1日であったが終わってみれば特に目立ったことはなかった印象だ。噂はいつも通りであるが大きくなっているわけでもないし、なにより新井が押しかけてくるなんてこともなかった。
昨日の様子だと、昼休みに来る可能性もあるなと怯えていたがそんなこともなく俺は平穏な1日を過ごしていた。
やっぱり新井と言えど2年の教室に顔を出して俺に話しかけに来るのはハードル高いしやめたんだろう。
「まぁ、あとはこのままいつも通り家に帰れば通常運___」
「伊賀先輩っー! 会いに来ましたよ」
「フラグ回収早すぎるだろっ!」
声の方へと顔を向けるとそこには俺の教室のドアの前で手を振っている新井の姿があった。当然、クラスメイトの視線は俺と新井に向いており、廊下の奴らでさえ足を止めてこちらを見ているほどだ。
新井の姿を初めて見た奴もいるのか「すっげぇ、可愛い子」「1年の後輩にこんな子が……」と新井の美貌に目を囚われている奴も少なくない。
くっそ、分かっちゃいたが新井は目立つな。
「ほら、先輩……そんなところで変な顔してないで手を繋いで帰りましょうか」
「ぐっ」
まるでいつもそうしているかのような新井の言いぶり周囲からざわめきが起こる。噂を知る者も少なくないだろう。恐らくそいつらの中ではほぼ噂は真実だと今ので思われてしまった。
俺に少し可愛らしく舌を出す新井。……こいつ、妙に
しかし、新井のことだ俺が拒否しても俺が帰るまで待ち続けるだろう。
そうなればむしろ噂は更に広まるし、俺としても昨日は結婚やらのなにやらの話ばかりで友達……いや、親友として久しぶりの雑談とか出来てないからな。そこら辺もしたくはある。
「分かった……」
「なんか嫌そうですね」
俺が少し苦い顔でそう答えると新井が少し悲しげな顔でそんなことを言う。
いや、お前と帰るのが嫌なんじゃなくて目立つし噂が広まるから嫌なんだが!? と言いたいがこの発言はむしろ周囲に更に誤解を生みかねないのでやめておいた。
「こうなったら……」
しかし、俺のそんな態度に傷ついたのか新井は更なる爆弾を落として来た。
「せ、せ、先輩! いつも通りキスをしましょう。キス!」
新井は顔を耳まで朱色に染めて手を震わせながらそんなことを言う。本人的にもかなり勇気がいる行動だったのだろう。しかし、それ故に効果は抜群だ。
「結婚の話、本当だったんだ」「伊賀の奴羨ましいなぁ。……俺も努力すっか」「お前は努力してもどうにもなんねぇだろ」「ヤム◯ャレベルならなれるっ!」「それ一般人じゃん」
周りは更に噂の信憑性が高く感じたようでざわめきが大きくなっている。
……本当にどこを成長させてんだか。この辺り一帯の視線を集めている俺は最早諦めの境地の中天を仰ぐのだった。
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次回「えっ!? それ本当ですか? ど、どうしようっっっ」
次回は新井ちゃんが大慌て、良かったら星や応援お願いします。更新が早くなるかもです。
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