第14話
「それくらい見ればわかる。うちが言いたいのんは、なんて格好してるのかってこと」
「だって手が離せないから。じゃあ、ちょっと蕨乃が替わって」
帯も腰巻も取ったから、肌が丸見えだ。
惣一郎に押し当てていた布を蕨乃に託して、悠耶は帯を拾って腰に巻く。
股下がスースーして落ち着かないのは、致し方ない。
「これ腰巻きやないの! 何ぃ考えとるの、ほんま!」
蕨乃は眉を顰めた。だが、これしかないのだから仕様がない。
蕨乃の嘆きには構わず、悠耶は話を進めた。
「どうやって惣一郎を連れて帰るかなあ。おいらじゃ、背負えないし」
〝それなら手伝うよ〟
手を上げたのは、先ほども銀八たちの足止めをしてくれた蛇たちだった。
まだ帰りきらずに残っていたらしい。
「ありがとう! 助かるよ」
蛇たちは器用に惣一郎の体の下に一匹ずつ潜り込んだ。
お終いには惣一郎は、蛇の板の上に寝そべっているような格好になった。
付き添うように、止血している蕨乃が頭の側へ座る。
悠耶が乗るより蕨乃のほうが軽い。
支度が整った様を見て、悠耶は大きく頷いた。これなら惣一郎の家まで運べそうだ。
「どろ壁も、白龍も、皆んな、ありがとう! 唐傘たちも、ごめん! 遠くへ行っちゃっただろうけど、また江戸に戻って来ておくれよ!」
既に姿を消していた妖怪たちに向けて、悠耶は川の向こうへ大きな声で礼を述べた。
気まぐれにしか会うことはない。でも、困った時にはいつも助けてもらっている気がする。
「日ぃが暮れて、助かったわ」
蕨乃は横たわる惣一郎の左に控えながら、夜の訪れに安堵していた。
闇に紛れれば、町の人たちにこの異様な一行の姿を見られる憂慮はない。
途中で惣一郎が目を覚まして無数の蛇の上に寝そべっていると気づいたら、仰天してまた気を失いかねない気もするが……
惣一郎を乗せた蛇たちの足は早く、早足で駆ける悠耶より先に三河屋へ辿り着いた。
ところが着くが早いか、家から家人が出てきた。
両親は供の者も連れず昼過ぎに出たきりの惣一郎を憂慮していた。
蕨乃や蛇たちは大慌てで姿をくらました。
妖たちが姿を消したため、惣一郎は一人で道端に寝そべる形になった。
「若旦那!? どうなすったんですか、こんなところで!」
提灯の明かりに薄く浮かび上がった惣一郎を見つけて、使用人の寛太が駆け寄った。
「旦那様、女将さん! 大変です、若旦那が……!」
惣一郎が怪我を負っていることはすぐに知れて、あっという間に屋内に運び込まれる。
幸い惣一郎はその後すぐに目を覚ました。
だが、頭に腰巻きを巻き付けられていた仔細を、即座には答えられなかった。
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