第2章(中立地帯編)8話 ”魔女”と”両翼”ⅡーⅡ
リバーセルは、隊員からの報告に耳を疑った。
確かに”極秘物資”を見つけた。しかし、意外な形で。
…なぜ、彼女が目覚めているんだ
”極秘物資”は、見知らぬ少年に背負われていた。
…自分以外に誰が?
理由は分からない。しかし、彼女がそこにいるのは”棺”が開封された証拠だ。
『―――隊長、民間人のようです。待機を続行しま―――』
隊員の言葉をさえぎり、
「待て、その連中は”極秘物資”に接触した可能性がある…」
感情を抑え、指示を飛ばした
「……確保しろ」
隊員全員が同時に応答する。
『―――hear』
彼女と共にあるべきはこのオレだ。
他者と共にあるのを許すわけにはいかない。
●
エクスの反応は早かった。
「うおッ!?」
ウィルが、驚くと同時に、エクスは敵の電撃棒スタンロッドを一撃を、相手の手首を捉える形で受け止めていた。
物陰から飛び出したすばやい動作に、常人ならば反応できなかっただろう。
「……お前は何者だ」
エクスが問うも相手は、応えない。
敵は、手首を捉えていたエクスの手を弾くと回転を加えた不規則な軌道で電撃棒スタンロッドを操る。
エクスは、弾かれると同時に、ナイフを逆手に構えなおし、回避重視で立ち回る。
スタンロッドは、触れるだけで対象に電気ショックをあたえ、行動不能に陥らせる。
スパークの軌跡を、目で追い、紙一重で確実に避けていく。
敵は手錬れだ。自身の武器を交えた立ち回りを理解している。
こちらの武器であるナイフと敵の電撃棒スタンロッドでは、リーチにも差がある。
重量もあちらに分があるため、まともなぶつかり合いではいずれ無理が出てくる。
なら、
…武器をもらおうか…!
側面から襲う電撃棒スタンロッドの軌道にナイフを割り込ませる。
一瞬動きの止まったのを見切って、エクスは電撃棒スタンロッドを蹴り上げた。
敵の武器が、回転しながら真上に弾き飛ばされる。
それでも敵は冷静に後退し、予備の電撃棒スタンロッドを出そうとしたが、
「させん!」
エクスが叫ぶ同時に、左腕にナイフを持ち替え、右手を振りぬいた。
何もなかったはずの右手から、投げナイフが飛ぶ。
突如現れたそれに、敵の反応が遅れ、膝に突き刺さり、ぐッ、といううめきをあげ、体勢が崩れる。
その一瞬で、勝敗は決した。
エクスは宙にとんだ電撃棒スタンロッドを掴むと同時に、間合いに踏み込み、相手の腹に突きを繰り出す。
敵も、遅れて予備の電撃棒スタンロッドを抜き、横薙ぎにはしらせた。
エクスの一撃は、入っていた。対して相手の一撃は、
「相打ちにつきあう気はない」
ナイフによって止められていた。
「く、そ、が……」
敵は一瞬、表情をゆがませる。
電撃によって、意識が途切れたらしく、勢いよく地面に倒れ、そのまま動かなくなった。
「この人、どうして襲ってきたんスかね」
「さあな。だが―――」
エクスが、電撃棒を1回転させ、構えなおす。
「―――やるべきことは果たしたようだな…」
周囲の物陰から次々と同様の服装の人間が姿を現す。
初手で襲ってきたのは、この布陣を敷くための時間稼ぎか。
見える限り10人。
「武器を捨ててもらおう」
「断ったらどうする?」
敵の集団が、一斉にスタンロッドを構える。さっきの手錬れと一緒で、隙がない。
…包囲は完璧。俺1人なら逃げ切れるが…。
エクスは、後ろのウィルとアウニールを一瞥する。
アウニールはよく分からないが、ウィルはこの状況に理解が追いついていない様子だ。
しかも、人1人背負っている状態では、いくらこの体力バカでも無理だ。
……どうする。
天秤の選択を迫られるエクスだったが、相手はじりじりと間合いをつめてくる。
飛び掛ってくるまで、もう10秒もあるまい。
しかし、その空気が突如変わった。
その状況に、
「―――みなさーん、ストップしてくださーい」
予想外の人物達が介入してきたからだ。
その声は頭上からだった。
敵は同時に、エクスは目線だけで声の主を見据える。
「さもないと、ドカンですよー」
声の主を見て、ウィルが目を丸くした。
そこにいたのは、
「え? リヒルさん…?」
作り物(自称)のロケットランチャーを構えたニコニコ少女―――リヒルだった。
「フリーズで1つよろしくでーす」
リヒルは、武装を構えて間延びした緊迫感のかけらもなく警告した。
すると同時に、エクスの前に別の影が舞い降りた。
ウィルをたたき切ろうとした刃物少女―――シャッテン。
彼女は身の丈ほどもある長刀を両の手にそれぞれ持ち、
「……援護する…」
小声でそう告げた。
●
「どういうことだ! なぜ”魔女”の”両翼”が介入した!?」
現場で対応していた隊員から報告を受けたリバーセルは、予想外の事態の連続に憤りを感じていた。
『隊長、撤退しますか?』
「いや、交戦を許可する。もう少しで到着する。それまで持たせろ!やられるなよ!」
『hear』
●
「あー、やっぱりそうなりますよねー」
リヒルの眼下、敵の集団が同時に動いた。
半数の5人がリヒルのいる周辺の岩場に、仕込んでいたアンカーを撃ち込む。
「白兵戦に持ち込む気ですね。テンちゃん、そっちはよろしく!」
●
半数の5人が、エクス達に襲いかかる。
「…2人任せる」
「…わかった」
言うと同時にエクスとシャッテンが左右に散った。
案の定敵は2、2、1の比率で分かれてきた。
2人組でエクスとシャッテンを手玉にとり、その隙にウィル達を確保しようという作戦のようだ。
「ウィル!時間を稼いでおけ!」
エクスが、敵の初撃をいなし、別方向からの一撃を下がって回避する。
先ほどとは違い、こちらにもスタンロッドがある。
触れれば互いに一撃。
2対1という状況下でも、エクスは動揺しない。
……機械兵30体に囲まれた時に比べれば楽だな。
スタンロッド同士が衝突するたびに、軽く火花が散る。
両側面に回り込んだ敵が同時に横薙ぎに繰り出す。
エクスは片方を蹴りそらし、もう片方は返す勢いで電撃棒スタンロッドで受けた。
普通なら互いに弾き返されるところだが、強引に押し付け、接触を継続させた。それにより、接触部分から大量の火花が噴き出すように発生する。
エクスが、不意に手首の角度をひねった。
火花の角度が変わり、それは敵に向かって襲い掛かる。
「ぬ!?」
一瞬の熱さと細かい火の群れに視界が塞がれ、隙をさらした。
エクスは、それを逃さない。
瞬時に電撃棒スタンロッドを手放すと、
「でぇあっ!」
相手の首筋に蹴りをたたきこんだ。
強烈な蹴撃が的確に延髄を捉える。
くぐもった声をあげ、相手は吹き飛び、数メートル地面を転がった後、そのまま昏倒した。
わずか2~3秒の攻防で1人を戦闘不能にすると、
・・・まず1人。
向き直り、体勢を立て直してきた2人目に相対する。
●
ウィルはアウニールを背から降ろし、戦闘を迂回して、接近してくる敵を見据えた。
その手にはスタンロッドを持ち、まっすぐ突っ込んでくる。
…どうする…!?
自分はエクスのように戦う方法を知らない。だが、自分の背後にはアウニールがいる。
逃げたりはしない。
それにエクスは言った。”時間を稼げ”と。
決して”戦え”とは言わなかった。
分かっているのだ。ウィルが戦えないことを。
それでも示してくれた、この場で唯一自分が可能な行動を。
……ならやれるはずだ!
「うおおおおおおっ!」
ウィルは、真正面から敵に突っ込んだ。
敵はその行動に、冷静に対応してスタンロッドを振り下ろした。
肩に食らう。
しかし、
「な…っ!?」
敵が驚愕する。
「が、あっ…!!」
ウィルは倒れなかった。表情こそ苦悶に満ちていたが、意識を失うことなく、スタンロッドの一撃に耐えて見せ、あまつさえそれを両手で捕まえていた。
普通なら軽く触れただけでも、数時間は足が立たなくなるというほどの電流を受け続けているはずだ。
それでもウィルは、
「い、意外と、我慢できるものッス、ね…!」
そう言って、にやりと笑う。
流さず、あえて受け止める。それが、ウィルの考えた”時間稼ぎ”だった。
しかし、それが続くのも数秒だけ。
敵はウィルのタフさに驚きながらも、その腹に蹴りをいれてきた。
「がっ…!」
なんとか耐えていた程度のウィルはあっさりと蹴り飛ばされ、地面を転がる。
「まだ、だ…!」
それでも、歯を食いしばって立ち上がる。自分が倒れれば、次はアウニールに敵の牙が向く。
……それは、させない…!
敵は容赦しない。
再度、スタンロッドの一撃を叩き込もうと、突っ込んでくる。
だが、両者の間に別の影が割り込んだ。
シャッテンだった。
●
敵が、瞬時に目標を変更、シャッテンに武器を振る。だが、
「…無駄…」
シャッテンが、相手の得物を真っ向から、長刀で受ける。
すると、金属でできたスタンロッドが、いともたやすく断ち切られた。
「く!」
敵はうろたえるも、機能を失った鉄屑を捨て、予備のスタンロッドを、抜き放とうとするが、
「……遅い…」
瞬間移動と見まがう踏み込みで、瞬時にシャッテンが背後に回っていた。
流れる動作で、峰打ちが首筋に打ち込まれた。
手加減したとはいえ、金属の一撃。
「が、あ」
敵はうめき声をあげて、地に倒れ伏した。
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