召喚魔術学院、無能な召喚術師に転生した主人公、上位貴族に公開処刑をされかけるが、魔導書がライトノベルだった、無数のヒロインを召喚して強くなる、異世界ファンタジー

三流木青二斎無一門

退学コールから始まる転生者

思い出した。

俺の名前はくれ今里いまり

日本で生まれた俺は、地震によって倒れた本棚に挟まれて死んだんだ。


生まれた時からアニメや漫画が好きだった。

だから俺は大人になってからは、原作の収集をする事が生き甲斐で、本を収納する為に態々趣味専用の大部屋を借りて、其処で休日を過ごすのが日課だったのだ。


だが、日本特有の地震の多さ。

本棚の固定をしていても、それが無意味な程に大きな揺れによって本棚が倒れて、俺は本の重みによって絶命したのだった。


本好きの最期が本によって殺される。

人からすれば悲劇だが、まあ俺からすればそれは満足な死に方でもあっただろう。


そんな事を思い出したと共に、俺は顔を見上げる。

其処には、憎たらしい顔があった。

赤い髪をした黒いローブに身を包んだ少年が俺を見下げている。


「「「たーいがく!たーいがく!たーいがく!!」」」


なんだこの声の大きさ、俺は周囲を見回す。

俺が居る建物の中は、多くの書物が本棚に押し込められている。

図書館、と思ったが、その本棚は宙を浮かんでいた。

現実ではありえない事で、俺はその声よりも、本棚の方に夢中になっていた。


「(凄い、魔法?…あ、もしかして俺、転生したのか?それとも憑依?前の人格ってどうなってるんだ?)」


そんな事を考えながら沢山の魔導書に目を向けた時。

赤髪の少年が声を張り上げた。


「ほら、さっさと選べよ!!魔導書をよォ!まあ、選んだ所で召喚なんて出来やしないだろうがなぁあ!!」


そう言われて、俺は再び思い出す。

そうだ、この男の名前は、エリックだ。

上位貴族のエリック。クラスの中心であり、カースト上位の召喚術師。

そして俺は、カースト最下位にあるクレイ・マリーと言う少年だ。


召喚魔術学院に入学したが、魔導書の解読力が無くて、召喚する事すら出来ない落ちこぼれ。

対してエリックは貴族相伝の解読済み魔導書を使ってモンスターを召喚しているのだ。


確か…俺は、エリックに難癖をつけられたんだ。

理由は、召喚すら出来ない奴が、召喚術師を名乗って良いわけがない、だったか。

そして、三度目の魔導書継承の儀で、俺が選ぶ前にエリックが教室の生徒全員に聞いたのだ。


『この学院に落ちこぼれは要らないと思わないか?其処で俺は考えた!今、クレイに決闘を申し込む、クレイ、お前にとっては最後のチャンスだ、召喚出来なきゃ、お前は退学、この学院を去れ!勿論、望むよなぁ!?』


この肉体は、エリックに裏で暴力を受けていたらしく、恐怖で支配されていた。

だから、エリックは俺が逆らえない事を知っている、そしてこんな回りくどい方法で俺を退学させようとしているのは、俺とエリックの戦いをある一つのショーとして認識している為だろう。


弱者とは悪である。

即ち、悪を懲らしめる正義の味方、と言う物語の主役として、エリックは酔い痴れているのだ。


自分の自尊心を満たす為の行為、何よりも大衆の面前で敗北すれば一族の恥。

俺のメンタルを極限までへし折ろうとしているのだ。


「(中々に酷い事をするじゃないか…)」


ここから逃げ出す事は出来ない。

エリックの取り巻きたちが、出口付近を固めている。

例え逃げる事が出来ても、決闘に恐れて逃げ出したチキン、として噂されるだろう。


「(やるしかないのか…)」


俺は体を起こす。

エリックに視線を向けて、そして一度切ると、本棚の方に向かいだす。

魔導書…記憶の中では、異世界から漂流したものであり、異世界の神話や歴史が描かれている、らしい。

その文語が独特であり、この世界のどれにも当て嵌まらぬ為、基本的には、本に描かれた『挿絵』からどういった内容であるのかを判別している、らしい。


本来ならば、賢者ですら解読する事が難しい書物を、俺が解読出来る筈が無いのだが。


この図書館に飾られる魔導書を確認する。

それは、重厚なカバーは動物の皮を鞣したものが使われているが、背表紙のタイトルは日本に居た俺にとっては見慣れた言語だった。


「(『日本戦士記録』、『世界偉人の美学大全』…これら全て日本語で書かれてあるって事は…)」


内容を確かめる為に魔導書を開く。

俺がページをめくると共に、周囲から笑い声が響いた。


「もしかして読んでるの?」「無理無理、内容が分かるわけないじゃんか」「異世界の文語は賢者ですら解読が難しい」「あの無能が理解する事も出来ない筈だ」


と、その様な生徒たちの声が聞こえてくるが、その言葉に対して俺は腹を立てる事もしなかった。

むしろ、彼女たちの声は俺にとっては心地良いものだった。


「(読める…読めるぞ、…当たり前だ、俺の前世はこの文語が読めた世界なんだからッ!)」


俺は周囲を見回す。

どれもこれも、背表紙の文字が読めてしまう。

魔導書と呼ばれる書物は、日本語で書かれた書物であった。

料理本や歴史資料、図鑑と言ったものがあったが、俺はその中でも、別の魔導書を発見した。


「(これは…この内容、まさか)」


俺は目に入った魔導書を手に取って内容を確認した。

パラパラと開いていって、それが俺のよく知るものであると理解した。


「(こんなものがあるなんてな…)」


パタン、と魔導書を閉ざして、俺は振り返る。

本当は、このあらゆる魔導書の中から他の一冊を選びたかった。

だが、相手はそれを待ってはくれないらしい。


「さあ、どうした、さっさと召喚して見せろ!出来なければどうなるか…分かってるよなぁあ!」


エリックが叫んでいる。

既に、勝利を確信しているらしい。

俺はその一冊の魔導書を手に取ると、それを使用する事にした。


「(この魔導書…もとい、ライトノベルがあれば…っ!)」


俺は勝利を確信していた。

それと同時に、このライトノベルに出会える事に、奇跡と言うものを感じていた。

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