第2話 生徒と私
授業が終わって、放課後になる。
職員室に籠もって仕事をすすめることが多いけど、また校長室に呼ばれたり、変な男連中から何か言われたりするかもしれないから、適当なところで切り上げて、受け持っているクラスの教室へと足を運んでみた。
「あ、瑠衣先生」
「瑠衣ちゃーん」
「またサボりー?」
「バーカ、サボってねぇよ。オメーらが悪さしてないか巡回に来たんだよ」
「えー、悪いことなんてするわけないじゃーん」
「この間ホテルがうんたらかんたらって言ってたのはどこのといつだよ」
「あー!だ、だめだめそれ言っちゃ!!」
放課後になり、教室には部活の準備をしていたり、友達とおしゃべりしてたりと、色んな生徒がいる。
私は、こうして教室に来ては、残ってる生徒たちと話をするのが好きだった。
男女問わず色んな生徒と話をするけど、やっぱり女子の方が気が合う気がしてる。
男子は男子で、ゲームの話とかで割と意気投合するから楽しいんだけどね。
「瑠衣ちゃん、今日のピアスめっちゃ可愛い」
「お、気づいてくれた?昨日一目惚れして買っちゃった」
「ほんとに自分で買ったの?」
「どういう意味だよ」
「だって瑠衣ちゃんモテモテだろうし、誰かにプレゼントされたんだろうなって」
「モテモテじゃねぇし……でも鋭いな。ほんとは買ってもらった」
「え!ほんとにデートしたの!?誰と!?」
「教えなーい」
「えー、ケチ!」
こんな感じで、いつも騒がしいけど私はこの雰囲気が好きだ。
――私が中高生だったころはこんなことなかったもんな――
きっと、昔できなかったことだから、余計にそう思うんだろう。
仲がいい友達と過ごすっていうのはこういう感じなのかもしれない。
でも、最近の高校生はませてるな、と思う。
私と話してるからかもしれないけど、性に関して、結構あけすけな話題になったりすることもしばしば。
現に、私のデート相手やら、私が抱く方と抱かれる方、どっちなのかとか、そんなことばかり聞いてくる。
まぁ私がバイセクシャルだってことと、性別違和があることは、秘密にしてるわけでもないから、訊かれたらそうだと答えるようにしているし、それが今の時代の高校生くらいの子どもたちには大切なことだとも思ってる。
私も、高校生くらいの頃に、こういうことをもっと知りたかったよ。
「ねぇねぇ相手は男?女?両方?」
「なんで両方なんていう選択肢があるんだよ。私のことなんだと思ってやがる」
「だって瑠衣ちゃんだし」
「ねー」
「ねー、じゃねぇ。一度に何人もデートできるか」
「だってだって。瑠衣ちゃんのこと本気のコ、男女問わず山のようにいるんだよ?」
「またまた……それって話を盛ってないか?『男女問わず』なんてさすがに嘘だろ」
「嘘じゃないよ。抱きたい人ぶっちぎりナンバーワンだもん」
「誰に取ったアンケートだよそれ」
「え、生徒会が全校生徒にとったアンケート」
「私の知らないところで……ったく」
私が生徒に人気がある?
疑わしいもんだ。
だいたい、私みたいな奴に好意を寄せるのは、ほとんどが下心がある奴らばかりだからな。
昨夜のあいつにしてもそう。
この子たちは、そうじゃないのは分かっている。
でもだからこそ、私がこの子たちに慕われてるらしいという事実を受け止めづらい。単純に、信じられない。
だって、私の性指向や性自認のことを知ってもなお、まっすぐに私と接してくれてるんだから。
それが、どれだけすごいことなのか、この子たちはいまいちピンと来ていないかもしれない。
私の両親も、同僚も、かつての同級生たちも。
みんな、そんな反応はしてくれなかった。
急に黙り込んだ私を怪訝に思ったのか、女子生徒の一人が声をかけてきた。
「瑠衣先生?大丈夫?」
「う、うん、平気。なんでもねーよ」
そう言った私を、じっと見つめた彼女は、私の手をとってこう続けた。
「……泣きたくなったらいつでも言ってね」
「ば、ばか。そんなんじゃないって」
「私たちバカだけど、瑠衣先生のこと大好きだから」
「そうそう。力になってあげたいもん」
「――!」
こんな友達が欲しかったよ。
涙を隠すのが、こんなに難しいとは思わなかった。
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