第13話:愚者の逆位置




「ねぇ、スティーグ~。私、新しい宝石欲しいなぁ」

 昼休み。中庭のベンチでスティーグに膝枕をしながら、カーラは甘い声で強請ねだる。

 あの騒動から1週間が経過していた。


 カーラから「フェデリーカも浮気している」と聞いたスティーグは、それを鵜呑みにしていた。

 お互い様だと、所構わずカーラを隣にはべらせ、恋人として周知している。

 このまま結婚して、フェデリーカを身代わりのお飾り婚約者から、身代わりの仕事をするだけの妻にするつもり満々だった。


 勿論、フェデリーカに結婚後の浮気は許さない。

 結婚したら今の相手とは別れさせるつもりだった。

 そこまで考えていたのなら普通は相手の男を調べるものだが、フェデリーカの浮気相手は友人ロザリアの兄である伯爵令息だと思い込んでいた。


 業務提携で繋がった家同士の結婚である。

 自分の意見が全て優先されると信じて疑わなかった。

 まして自分は侯爵家で、フェデリーカは伯爵家なのだから。




「スティーグ様、はしたない行動はおやめください。婚約者として恥ずかしいです」

 周りに他の生徒が居るにも関わらず、フェデリーカがスティーグに注意をしてきた。

 フェデリーカの横には浮気相手の、その後ろには女が二人と、自分と同じ学年の公爵家の男が一人。

 スティーグは体を起こしもせずに、フェデリーカを睨みつける。


「お前に言われる筋合いは無い。お飾りはお飾りらしく、大人しくしていろ」

 スティーグは膝枕の体勢のまま、カーラの腰に手を回した。

 それはどう見ても貴族が公の場でする行動では無い。


「婚約者としてだけでなく、貴族として軽蔑いたします」

 キッパリと言い切るフェデリーカに、あの儚げな雰囲気はもう無い。

 婚約者をたしなめる立派な淑女だ。


 1週間での変わり身に、周りは「あの婚約者じゃしょうがない」と、勝手に理解を示してくれた。




 カーラとスティーグは、常に一緒に行動していた。

 せめてどちらかが、周りの生徒と交流を持っていれば、結果は違っていたかもしれない。

 そうすれば、フェデリーカと仲良く過ごす男子生徒は、フェデリーカの兄であると知る事が出来たのだから。


 スティーグとイレーニアの兄ジェネジオは同じ学年だったので、まだ辛うじて面識があったようだ。

 しかしオズヴァルドはスティーグの1個下、フェデリーカ達の2つ上の学年だった。



 他の生徒はフェデリーカとオズヴァルドが兄妹だと知っていたし、知らなかった生徒も、知っていた生徒から聞いて「仲の良い兄妹だな」と微笑ましく思っていた。


 その周りの雰囲気をスティーグ達は自分に都合良く誤解した。


「アイツらの不貞が許されてるなら、自分達の関係も認められている」と。

 自分達に向けられている嫌悪の視線を、愛を貫く恋人同士に対する羨望、または嫉妬の視線だと、そう思っていた。




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題名の「愚者の逆位置」は、タロットカードから。

「無計画で無責任な行動が周りの人たちに悪影響を与え、自分自身も貶めることになる」や「この瞬間のみに生きていることを示し、未来を計画していないことを示している」など、負の意味のカードです。

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