第14話:変わり行くもの

 



「今日からは、もうちょっと凛とした雰囲気でお願いね」

 朝の身支度の為に鏡台の前に座ったフェデリーカは、メイド達にお願いをする。


 儚い健気なお嬢様は、1日で終了した。

 スティーグとカーラが予想より早く絡んで来たからだ。

 それからは、婚約者との関係を改善しようとする健気でも芯の強い令嬢を演じてきた。

 本当はもう少し長く演じる予定だったがスティーグの態度が余りにも酷いので、これ以上は逆にフェデリーカが執着しているように見えるかもしれないと、早々に止める事にした。


 今日からは、婚約者を諌める令嬢になるのだ。

 もっとも、素のフェデリーカに1番近いので、化粧をちょっとキツめにする程度だろう。

 ただし、毎日メイドに磨かれまくったフェデリーカは、入学式の日よりも数段美しく仕上がっていた。



 それから朝は、早朝鍛錬を行うオズヴァルドと一緒に登校した。

 最初はオズヴァルドとジェネジオと数人だった朝の鍛錬が、気付いたら三十人程に膨れ上がっていた。

 更に希望者は居るのだが、鍛錬場に入り切らないので抽選になっているらしい。


 婚約者にびず、凛とした雰囲気のフェデリーカは、男女問わず支持者が増えていた。


 それだけ男子生徒が増えれば、おのずと見学の女子生徒も増える。

 試合では無いので、女子生徒達は噂話に花を咲かしていた。

 やはり話題は最近の事である。


「昨日も食堂でベッラノーヴァ侯爵令息が横暴な行動をされたのでしょう?」

「割り込みした恋人を注意されて、相手が伯爵家だからと逆に怒ったのだとか」

「あの様な方が婚約者だったら、私、恥ずかしくて部屋から出られなくなるかもしれません」

「あの浮気相手の子爵令嬢も、何を考えていらっしゃるのかしら」


 どうやらスティーグ達は、フェデリーカが居ない所で、かなりの愚行を犯しているようだ。

 フェデリーカを権力で従わせたと思い込み、無敵になった気になっているようである。


 そもそもフェデリーカも、スティーグに従ってなどいない。

 常にその行動をいさめているのだが、「それを無視しても婚約破棄されない俺は偉い!」とでも思っているのだろう。




 スティーグは、最近カーラ以外の生徒と全然会話をしていない事に気が付いた。

 まず、朝の挨拶を誰とも交わしていない。

 教室に入ると、誰も自分を見ないのだ。

 去年までは挨拶をしながら近寄って来ていたクラスメートも、スティーグ以外の生徒で集まっている。


 カーラ以外だと、婚約者のフェデリーカがくちうるさく文句を言ってくるぐらいだった。

「いや、あの女が最後に声を掛けて来たのはいつだ?」


 確か入学して1週間は、事ある毎にまとわりついてきていた。

「私という婚約者がいるのです。なぜ子爵令嬢と一緒に昼食を食べているのですか?」

 食堂や中庭で、そう言って声を掛けて来ていた。


 もっと自分との時間を取るように、と図々しい事を訴えていた。

 自分も浮気相手を連れているのに、何を言っているのかと、相手にしなかったのだ。



 それを無視して愛しのカーラと過ごしていたら、フェデリーカの雰囲気が変わった。

「婚約者としてだけでなく、貴族として軽蔑いたします」

 確かこの台詞を言われた翌日から、フェデリーカの口から「婚約者として」と言う言葉が出てこなくなった。


「紳士淑女という言葉の意味を、もう一度よく考えて行動された方が良いのでは?」

「爵位を盾に偉ぶるなど、恥ずかしい」

「周りをよく見て、ご自分の立ち位置をご確認くださいね」

 そんな事ばかりを言うようになった。


 泣きそうになりながら、婚約者は自分だと訴えていたフェデリーカの印象が強かったスティーグ。

 いつの間にか生意気な態度を取るようになっていたのか!と怒りを燃やす。

 そろそろもう一度、身代わりのお飾り婚約者だという立場を解らせなければと、心に決めた。



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