あなたのフラグ、回収します!

佐藤夜空

序章 プロローグという出会い系フラグ?

運命なんて変えられない。

 これが俺の口癖だった。現れる事象は必ず終わりと始まり、因果関係が成り立つから起こる出来事なわけで、現在という時間軸に置かれた人間が運命に影響を及ぼす可能性はゼロに近しい。

定められたモノを後からひっくり返す事は凡人ロードをなぞり歩く俺にとって、尚更難しい問題、神の御業だと実感できる。俺は今、強くソレを実感していた。

 なんせ――

「んぐぐ! んぐ、んんん!」

 ――俺こと真神海人は何者かの手によって、今この瞬間、囚われているのだから。

 椅子に胴体を紐でグルグル巻きにされ両手は後ろに固定、両眼と口元は布を被されて五感を封じられている状況。意識を取り戻す頃にはこの有様だった。

 ……誘拐された理由は明確、俺が異世界転生者ゆえだろうな、きっと。

 日本という前世の記憶を持つ異世界人、どっぷりアニメ文化に染まった男子高校生ならば言われなくても雰囲気で察しが付く場面だ。今更囚われたこと自体に新鮮味と戸惑いは感じないけれど、山賊や魔族――死亡フラグは勘弁してほしいところだ。

 ……可能でしたら神様、どうか優しいお姉さん系出会い系フラグで頼みます!

 この世界へ異世界転生してから何度も何度も、誘拐フラグのアプローチを受けてきた俺にとって、果たしてこれが何度目の正直となるのか。三度目の正直とはよく言ったものだが、今まで俺がどれだけその言葉に裏切られてきたのだろう。

 ……いい加減、鬱になりそうだ。

 あと何回、このシーンを繰り返さなければならないのか。

前世だと事件や課題に直面する主人公やそんな異世界に憧れを持つ自分が居たが、今は鬱陶しくて嫌な思いが込み上げてくる、ただの害でしかない。

 ……誰かが、この理不尽な体質、いいや根本的なフラグを解決してくれるのなら少しは生き易い世界になっていただろうし、異世界も楽しめていたはずだ。

「その願望、我々フラグ回収屋が手助けしよう」

 俺の口元に貼り付いたガムテープと目隠しを外しながら、視界に入るボブカットの少女は素っ頓狂な表情を見せる俺に告げると、言葉を更に並べた。

「運命は変えられない? 死亡フラグは防げない? バカを言わないで欲しいな、我々の目的は君に訪れる負のフラグを回収する事。これが我々の仕事――否、宿命なのさ」

 ピンク髪が目の前で揺れている。

「な、何がどうなって……」

 視覚と味覚は許されたが、まだ両手は椅子に縛られているのでリアクションは言葉で表現するしかない。それより聞き違いだろうか、少女が発した言葉の中に漫画、アニメでしか聞き慣れない単語があったような。

気のせい―― 

「理解が追いつかないようだから、もう一度――君に課された魔王復活や誘拐等の負のフラグを私が綺麗サッパリ白紙にする手伝いをしようと言っている。少しは理解してくれたかな、真神海人くん?」

――ではないみたいだ。

 耳元で囁かれるように説明され思わず顔が熱くなる。同時に疑問が頭を駆け抜けて、思わず口に出てしまう。

「近い……それに、なぜ俺の名前を知っている」

「知っているも何も、君がこの世界、物語の主人公だからね。忘れるはずが無いだろ?」

 焦げ茶色のエプロンを身に纏う少女が敵対心皆無の笑みを浮かべた。

「多分、お前は俺を殺さない」

 と思う。核心は持てないけれど、ライトノベルを腐るほど読んできた俺の勘が、そう告げている。

「正解だとも……君が主人公だから我々が来たのさ」

アニメやら漫画にどっぷり侵された脳ミソなら、嫌でも次の展開は予想が付く。

だってそうだろ? 

漫画やアニメでは大抵、主人公やヒロインが悩みやら困難にぶち当たる時ほどシナリオは盛り上がるし、否応なくストーリーは主人公達へ手を差し伸べる。それが物語をハッピーエンドへ繋げる方法だからだ。

故にきっと、この運命的な出会いも……。


「おっと自己紹介がまだだったね忘れるところだった、危ない危ない。私の名前はリーナ・プロメ、フラグ回収屋でありお君の味方でもある……あなたのフラグ、回収しに来ました」


 少し左へ首を傾け、誘拐犯の格好に不釣り合いなエプロン姿のまま、目の前のリーナは純粋な笑顔で決めセリフであろう言葉を口にした。



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