とある植物学者の卵の日記(炎の平原にて)
ながる
13の月第2週3日目
それほど大きな音ではなかった。
と、現場にいた人々は口をそろえた。破裂音の後に何人かが血を流して倒れた。突然のことで何が起きたのかよくわからなかった、と。
結果を言えば、ある植物の種がはじけてばらまかれた。それだけの話なのだが、どういう訳か、その話が巡り巡って僕のところへやってきたのだ。
ここは生物学や植物学をより専門的に学ぶ学校で、すでに本を何冊も出している
僕が通う『魔力を帯びた植物研究室(
そもそも僕がこのゼミに入ることになったのも、入学して最初の課題で好きな動物か植物についてのレポートを課され、魔力を帯びた植物の代表『
気さくで優しそうな、でも貫禄あるその人には緊張してしまってあまり話せないままだったので、彼が学校に戻ってくる日を心待ちにしていた。
「もう、なんですか。今日はゼミは休みでしたよね? はじける種なんて、いくらでもあるでしょう? 新種だったんですか?」
ちょっとだらしなくて砕けた態度の助教には、少々気の弱い僕も気安くなってしまう。世話焼き気質なのもあって、ついつい口や手を出してしまうのだ。
「いんや。あれはたぶん、アッケンデーレだ」
「アッケンデーレ……」
ちょっとした特徴を持つその植物の名前を復唱しながら、僕は数日前の
バルバ助教は先を続けることもなく、ニヤニヤと楽しそうに僕を見ている。「俺に教えられることはない。一緒に学んでいこうな」とは、最初に握手を交わした時に彼に告げられた言葉だ。本心かどうかは置いておいて、僕が何か質問した時、素直に答えを教えてくれたことがないのは確かだ。
小火の話とはじけた種の話が繋がるまで一瞬の間を開けて、僕は素直に驚いた。
「えっ。それって、アッケンデーレの種がはじけたって話ですか!?」
「まあ、ちゃんと調べてみないとわからんが、十中八九は。アッケンデーレも魔力を帯びてるんだったよな?」
「成熟した実には小さな
「だな。もし、あれがそうだったら、その辺りの観察と実験が叶うかもしれない。種を拾いに行くの、手伝ってくれるよな?」
「行きます!!」
勢いよく立ち上がって同意を示した僕を見て、助教は満足気に目を細めて笑ったのだった。
「ついでだから、君、以前に現地に行った時のことと合わせて纏めてよ。きっとこの先役に立つぞぉ」
ぴっ、と指差された僕は夏休みに行った旅行のことを思い出した。半年も前のこと、細かく思い出せるだろうか? そりゃ、大枠は覚えてるけど……
一気に盛り上がったところに冷や水を浴びせられた気分だったけど、幸い日記をつける習慣がある。読み返せば、なんとかなる……だろう。
一抹の不安を抱えつつ、僕は助教のあとについて、小火のあった温室に向かったのだった。
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