第50話 凛の気持ち(side 未来)

「凛!こっちだよ!」

「未来!遅れてごめーん!」


午後3時の駅前。

あたしと凛は、新しくできたパンケーキの店に来ていた。

レトロな喫茶店みたいな雰囲気の、オシャレなお店。

高校の女子の間で、大人気だ。


「練習お疲れ様!」


凛はバトミントン部の練習に行っていた。

恋多き乙女の凛だけど、部活は真面目にやっている。


「ありがとう!さっそく頼もっか!」


今日のあたしたちのお目当ては、いちごのパンケーキだ。

マカダミアナッツといちごがたくさん。たっぷりの生クリームとふわふわのパンケーキ。

甘いものに目がないあたしと未来は、食べるのをずっと楽しみにしていた。


「で、悠介くんとはどうなったの?」

「え?」


凛は驚いた顔をした。


「なんで……知ってるの?」

「あ、ごめんね。ケータから聞いたの」

「あーそっかー」


はあーと、凛はため息をついた。


「こないだ、告白された……」

「本当に?」


まさかの急展開に、私は驚いて水をこぼしそうになった。


「そう。昨日ね」

「なんて返事したの?」

「うーんと……保留したの」


凛はうつむいた。


「おまたせしました!山盛りいちごのパンケーキ、お二つです!」


頼んでいたパンケーキがきた。

評判通り、いちごがすごくたくさんで、おいしそうだ。


「とりあえず、食べよっか。話はそのあとで」

「うん。そうしよう」


あたしと凛はパンケーキを食べ始めた。


「すっごくおいしいね!」


凛は笑顔になった。

さっきまで少し暗い顔していたから、明るくなってくれて嬉しい。


「うん!おいしい!」


あたしも笑顔になった。

ふわふわの生クリームが口の中でとろける。

いちごはとびっきり甘くて、やみつきになりそうだ。

毎日でも食べたくなっちゃいそう。


最近はケータとおいしいご飯を食べているから、少し太ちゃったかも……やばい。

あたしはお腹をこっそりつまんだ。


「……あたしは悠介くんのことは好きだよ。だけど、その好きが100%じゃないっていうか」

「他に好きな人がいるってこと?」

「ううん。そういうわけじゃないの」


凛は面食いだから、悠介くんはタイプじゃないってことかな……


「こないだ太田くんと付き合ってから、男の子のことが怖くなっちゃって……」

「そうなんだ……」


夏休み前まで、凛は大田くんと付き合っていた。

だけどすぐに別れた。

しかもその別れ際に、「後悔するぞ。ブス」と太田くんに言われた。

そんなひどいことを言われたら、きっとトラウマになってしまう。


「悠介くんは……かっこいいと思うよ。こないだの海で、あたしのこと守ってくれて……男らしいなって」


ケータも悠介くんも、あたしたちを守ってくれた。

殴り合いになったらどうしようって、ハラハラしたけど、すごく嬉しかった。


「うん。悠介くんは、すごく友達思いだよね」

「そう……今まで付き合った人はそんな優しいところなかったから」

「へえ。ついに凛も面食いを卒業ね」

「え?イケメンは大好きだよ。そこはぜえええったい、譲れない!」


はあ……イケメン大好きなのは変わらないのか。


「で、告白の返事、保留してるんでしょ。早く返事しないと、悠介くんがかわいそうだよ」

「わかってる。だけど、どうしたらいいかわからなくて」

「いいなと思ってるなら、とりあえず付きあちゃえば?」

「そんなことできないよ……中途半端な気持ちで付き合うなんて、悠介くんに失礼だからさ」


イケメンなら誰でもいいから!と言っていた頃と比べたら、凛はすごく変わった。


「ところで、未来は圭太くんとどうなの?」

「ふへえ?あたし?」

「そうよ!海でもずっとイチャイチャしてたくせに!」


イチャイチャはしてなかったけど……

いや、してた……かな?


「未来……圭太くんの膝の上に座ってたでしょ?」

「ぶ!」


あたしは紅茶を吹き出しそうになった。


「えーそんなことしてないよ?」

「嘘つき!見てたんだからね!」


凛に圭太の膝の上に座っていたの、見られてたんだ。

恥ずかしすぎて、顔がすっごく熱くなる。今にも火が吹き出しそうだ。


「未来ってさ、むっつりだよね」

「え?むっつり?」

「だって、水着のまま、圭太くんの膝の上に座ったんでしょ。それってさ……」


あたしは圭太の膝の上に座っただけ。

別にえっちなことはないはずなのに……


「えっちだったかな?」

「……まあ、わかんないならいいけど」

「そう?」


よくわからないけど、凛は納得してくれたようだ。


「あと……もうひとつ聞いていい?」


凛が真剣な顔をした。

いったいなんだろう?

あたしは不安になって、ちょっと身体をこわばらせる。


「未来と圭太くんって……一緒に住んでるの?」

「え?」

「今日、バトミントン部で聞いたんだ。朝、圭太くんが未来の家から出てくるのを見た子がいて……噂になってるよ」

「そうなんだ……噂に」


ついにバレてしまった……

いつかはみんなに知られてしまうかもと思っていたけど、まさか今日、凛から言われるとは想像してなかった。


「聞くかどうか迷ったんだけど、誰かから聞かれる前に、あたしが最初に聞きいたほうがいいと思って」


凛なりに、いろいろ考えてくれていたんだ。


「うん……今、圭太はあたしの家に住んでる」

「やっぱり本当だったんだ」

「え?やっぱりって?」

「怪しいと思ってたんだ。期末テストのお疲れさま会の時からね」


期末テストのお疲れさま会の時、凛と悠介くんがあたしの家に来た。

二人は先に帰ったけど、圭太は片付けを手伝ってくれるっていうことで、家に残ることした。

それでどうやら疑われたようだ。


「同棲ってことだよね?すごいじゃん!」

「同棲……なのかな?」

「え?恋人同士で同じ家に住むのは、同棲じゃないの?」


たしかに凛の言うとおり、世間から見ればあたしと圭太がしていることは、いわゆる「同棲」だ。

あたしと圭太の関係は。「同棲」とは違う。

あたしが「ママ」で、ケータが「パパ」で、愛花が「娘」だ。

それは恋人同士の同棲じゃなくて、家族が普通に住んでいるだけだ。


「えーとね……同棲じゃない」

「じゃあ、何なの?」

「……家族なの。ケータは」

「え?どういうこと?」


凛は首をかしげた。


「……ごめん。上手く言えなくて」


親友の凛になら、あたしとケータのしている「オママゴト」のことを、話してもいいかもしれない。

だけど……言えない。

凛のことが信用できないわけじゃないけど、もしすべてを話してしまったら……いったどう思われるんだろう?

まだ怖い。

身体がブルブル震えた。


「わかった。言えないことなんだね」


凛はテーブル越しに、あたしの手をぎゅっと握った。


「友達同士でも、言えないことってあるよね。無理しなくていいよ」

「うん……ごめんね」

「もし未来が話したくなったら話してもいいし、話したくないなら話さなくてもいい。でもこれだけは忘れないで――あたしはいつでも、未来の味方だから」

「ありがとう。凛……」


あたしは本当に、いい友達を持ったと思う。

一生の宝物だ。

ずっとずっと、凛を大切にしよう。









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