第6話 パパ、明日も来てね♡

それから、また少し遊んでから、愛花ちゃんは寝てしまった。

もう夜の9時だ。

そろそろ帰らないと。


「今日はありがとう。あんなに笑顔の愛花、久しぶりに見た」


玄関で綾香さんと話す。


「よかったよ。愛花ちゃんが楽しんでくれて」

「優しいね。小川くんって……送っていくね」

「いいよ。もう遅いし」

「ちょっと話があるから」


◇◇◇


夏の夜。

蒸し暑い7月の街を綾瀬さんと歩いた。


「もし小川くんが嫌じゃなかったら、また明日も来てくれないかな?」

「いいけど……本当のママはどうしたの?」


聞こうかどうか迷ったけど、やっぱりちゃんと知っておかないといけないと思った。


「本当のママは……今、海外にいるの。社長で忙しいから、しばらく帰ってこない」


綾瀬さんの母さんは、有名な化粧品会社の社長らしい。

世界中を飛び回っていて、めったに家には帰らないそうだ。


「パパは死んじゃったし、ママは帰ってこないから……愛花ずっと寂しい思いをしてたの。今日、小川くんにパパになってもらえて、本当に、嬉しそうで……」


綾瀬さんはうつむいて、ぐっと拳を握りしめていた。

ふるふると身体が震えていた。


「大丈夫。明日も必ず来るから」

「本当に?」

「うん。約束する!」

「ありがとう!」


綾瀬さんは俺に抱きついた。

道の真ん中で。

夜の公園の近くで、周りには誰にもいなかった。


柔らかくて大きな胸がぎゅうと当たる。

ふわりと風が吹いて、綾瀬さんはきれいな髪が、俺の鼻にかかった。

シャンプーのような、甘い匂いがした。


「……もうすぐ夏休みでしょ?いっそのこと、夏休みはウチで過ごなさい?」

「え?いいの?」

「小川くんがOKなら」


俺もどうせ、親父は仕事で帰って来ないからな。

母さんもいないし。

……考えれば、俺と綾瀬さんの境遇は似ていた。

俺は幼い頃に母親を亡くし、父親は商社マンで海外出張中だ。

学校一の美少女と陰キャの俺に、共通点があるなんて、夢にも思わなかった。


「夏休みは……お邪魔しようかな」

「本当?嬉しい!」


きゃあーと、綾瀬さんは飛び上がって喜ぶ。

学校だとどっちかと言えばクールな子なのに、目の前の綾瀬さんは、天真爛漫な子どもみたいだ。

愛花ちゃんとはやっぱり姉妹だなと、俺は心の中でニヤニヤした。

 

「ありがとう。ここまでで大丈夫だよ」

「うん……そうだね」


一瞬だけ、綾瀬さんが寂しそうな顔をした。


「じゃあ、また明日」

「またね!ケータ!」


綾瀬さんが、名前を呼んでくれた。

これからは俺も、名前で読んだほうがいいのかな?


あ、そう言えば、綾瀬さんと帰るところを何人かに見られたな。

明日、変な噂になってなきゃいいけど……

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