第20話 それでも



 あれからもう数日が経過する。


 その間、小鳥遊さんの残した言葉は消えることのないまま俺の胸に住み着いた。


 彼女と話す時にどうしてもその事を思い出してしまい、何だか申し訳ない気持ちに駆られる事もある。


 でも、そんな俺とは違い小鳥遊さんは以前にも増して、話してくれるようになった。

 俺の曲を聴いて感想をくれたり、お弁当を一緒に食べたり、笑みも少しずつ増えていって......


 きっといい方向に進んではいる。


 それでも、過去について思い出さなければいけない──そんな気持ちを抱かずにはいられない。


「本当に俺はダメなやつだな」


 と、まぁ、その事以外にも一つ変化があった。

 それは白井の事だ。


 今まであんなに横暴な態度を取っていた白井だが、あの一件以来すっかりと大人しくなってしまった。

 小鳥遊さんに話しかける事は勿論、俺や他の生徒に対しても絡んではこず、ある意味不気味なくらいだった。


 多分、クラス内で『白井が小鳥遊さんに無理やり迫った』『白井が小鳥遊さんに告白してフラれた』などの噂が広まっているのが原因だろう。

 だから、白井としては静かにせざるを得ないのかもしれない。


 このままずっと大人しくしててくれればいいのだが......

 そうなる事を祈るばかりだ。


 それと、俺は小鳥遊さんには内緒で一つ進めていたことがあった。

 それは新しい曲の制作だ。


 元々制作自体は進めていたが、ここ最近は更に本腰を入れて進めている。

 その甲斐もあってか遂に完成の目処が立った。

 きっと今日中に仕上げて、明日には配信する事が出来そうなのだ。


 この曲を聴いてどんな反応をしてくれるのだろうと考えると、やはりわくわくするものがある。

 そんなサプライズも兼ねて俺は誰にも言わず隠していたんだ。



 すっかり茜色に染まった空の下、色々な事を考えていた所為か、自分がいつもと違う帰り道を歩いていることに気づく。


 勿論、この道も家からそんなに離れた場所ではない。寧ろ近所なのだ。

 なので、家に帰るという意味では何の問題もない。


 ただ、下校に使わない──この時間に通ることはないというだけだ。


 少しだけ遠回りになるが、たまにはこの道を通るのも良いかと思い、俺は歩を進め始める。


 夕暮れに染まるこの通りはいつもとは違って見え、何となくノスタルジーを感じる。


 それにしても古くなったよなぁ。


 旧市街とまではいかないがやっぱりここは古めかしい。

 取り壊された家屋や放置された空き地何かがぽつぽつと目立つ。


 まぁ、きっとこの場所もすぐに手が入るだろうし、そう考えると少し寂しいような気もするな。


 そう思いながら歩いていた時だった。

 ふと、視界の先にある空き地に見覚えのある制服が目に入る。

 あれは俺が通う学校の女子生徒の制服だ。


 こんな所で見かけるのも珍しいと思い、歩きながらその人物を観察する。


 少し近づいてきたことでその人物の顔が段々と確認出きるようになる。


 確認出きるようになって──俺はその人物に驚く。


「小鳥遊さん......?」


 まだ少し距離があるが、あれは自分が最近関わるようになった少女だと分かった。


 分かった上で新たに謎が浮かび上がる。


「こんな所で何しているんだ?」


 というのもこんな何もない空き地に彼女の用があるとは思えなかったからだ。

 小鳥遊さんの他に人の姿は確認できず、只々一人で佇んでいるように見える。


「それに......」


 俺は小鳥遊さんが帰ってから時間を空けて学校を出たのだ。

 それはすぐに後を追うと途中で小鳥遊さんと会って変な空気に──寝たふりがバレてしまう事を怖れたからだ。

 それなのに小鳥遊さんに追いつくというのは変な話なのだ。


 どこかで寄り道をしていたのなら説明がつくが、それでもこんな場所通るかな? という疑問の方が大きい。


 せっかくだし話しかけてみようか。


 でもこんな誰もいない場所で話しかけるのもストーカーをしていたみたいでキモいよなぁ。

 やっぱりやめるべきか?


 とそんな事を考えているうちに小鳥遊さんが動き出した。

 そのまま俺がいる反対の通りに出ていき、彼女は姿を消してしまった。


 追いかけようかとも考えたが、明日もきっと会えるだろうし、まぁ、良いかと結論付けてやめる。


 小鳥遊さんはもしかしたら家がこっちの方なのかな?


 今までそういう話はしてこなかったので分からないが、可能性としてはありそうだ。


 明日聞いてみるのも良いかもしれない。

 何となく過去の事にも繋がりそうだしな。


 そう思いながら俺は再び歩き始めた。




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