教室で寝たふりをしていたら、クラスで一番の美人にキスをされました。気になって夜も眠れません。なのでやっぱり昼寝します。
岡田リメイ
第1話 寝たふりは突然に
夕暮れが差し込む放課後の教室。
人気の少なくなったこの場所で一人の男が言葉を紡ぐ。
「ちょっと、小鳥遊さんに伝えたい事があってさ」
そう言ったのは、このクラスの男子生徒──
彼はスポーツ推薦でこの学校に入学しており、頭は良くないが運動は得意な方だ。
端正な顔立ちから、女子の人気もあり、クラスの中心となるグループメンバーの一人でもある。
そして、それを良いことに女子生徒にチヤホヤされては鼻の下を伸ばしている。
それだけならまだ許せるが、自分の事を天狗か何かと勘違いした彼は、俺のようなインキ──控えめな生徒を除け者のように扱う糞野郎なのだ。
......さすがに糞野郎は言い過ぎた。
ウンコ野郎と訂正しておく。
「伝えたいこと?」
白井の言葉にそう返したのは、このクラスの女子生徒──
彼女は黒髪ロング、抜群のスタイル、整った顔立ちの三拍子揃った容姿でありながら、ミステリアスな雰囲気を醸し出すこのクラスで一番の美人である。
その絶対的な美貌を誇りながら、勉強、運動も好成績を収める超人であり、尊敬の念を抱かざるを得ない。
「スー......スー......」
そして、この完璧な寝息を立てているのが、俺──
数分前まではガチで寝ていたが、今は訳あって寝たふりをしている。
趣味は昼寝。
特技はどんな場所でも寝ることが出来る事。
その絶対的な技術から発せられる寝息は、最早芸術であり、誰であろうと寝たふりだとは気づかないだろう。
気づかないで欲しい。気づかないでくれ。
何故、俺が寝たふりをしているのか。
それは、この状況に原因があった。
「俺、クラスで初めて会った時から、小鳥遊さんの事良いな~と思ってて」
「そう」
「そのなんて言うか、彼氏彼女? みたいなのに憧れとかあってさ」
「そうなんだ」
「何ていうか......」
これはどう考えてもあれだ。
「僕と付き合ってください」って言うやつだろう。
流石にこの状況で突然起き上がるほど俺は空気を読めないわけじゃない。
どうして教室で、それも俺がいるのにという疑問は残るが、それはこの場所を選んだウンコ野郎のみぞ知ることだろう。
もしかしたら、俺の寝たふりが完璧すぎるあまり、俺の存在に気づいてないのではないだろうか?
それに恋は盲目と言うし、ウンコ野郎の視野が限りなく狭くなっている可能性がある。
だから、決して俺の『影が薄い』とか『別に居ても居なくても変わらないだろ』とかそういうことではないと思う。
「小鳥遊さんって彼氏とかいないよね?」
「そうだけど、白井君には関係のない事ね」
「いや、それが関係なくはないって言うか......」
話を聞いていて思ったが、小鳥遊さんは白井に心底興味が無さそうだ。
このシチュエーションと雰囲気から、なんとなく告白されそうな感じは伝わるはずだが、一貫して淡々と返事をしている。
白井には悪いが非常に気分が良い。
「スースッスッスッスースースー」
おっと危ない寝息が乱れてしまったようだ。
「それで用件って?」
「 実はさ、小鳥遊さんの事が──」
白井がここで声量を上げる。
今にも小鳥遊さんに告白をしてしまいそうな──そんな勢いで。
お? 来るか?
言っちゃうのか?
話の流れからすると、全く脈が無さそうな気がするけど告白しちゃうのか?
俺は組んだ腕の中で二人にバレないように中指を立てる。
相手はもちろんウンコ野郎に対して。
「結構タイプなんだよね。俺たち付き合わな──」
「ごめんなさい」
即答。
しかも食いぎみで。
小鳥遊さんからの返事はノーだった。
ウンコ野郎ざまぁぁぁ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます