第7話 テレビとラジオの関係
「最近、ラジオを聴くことに嵌まってるんだ。凄いでしょ?」
〈何が凄いのですか?〉
「色々」
〈なるほど〉
「その分、テレビを見なくなった。今までは、ご飯を食べながらとか、見ていたんだけど」
〈テレビは、まだ貴女様の家に存在していると思われますが〉
「うん、そういう意味じゃないよね。それに、貴方は、どうしてそういう突っ込みができるのかな? 貴方はどこにいるの?」
〈メタ構造というやつですか?〉
「ああ、駄目だよ。そんなこと言っちゃ」
↲
「テレビとラジオって、どっちが先にできたか、知ってる?」
〈ラジオでしょう、おそらく〉
「ちゃんと調べてから話しなさいよ」
〈そうでないと、話してはいけない、というルールがあるのですか?〉
「うーん、ないけど」
〈調べると、なんとなく、分かったような気になりますが、あとになって、また同じところを調べる、ということがあるように観察されます〉
「観察されるって、誰に観察されるの? されるっていうのは、受身? 自発?」
〈観察するのは私です。観察される対象は世間一般です。されるというのは、自発です。しかし、受身と自発は、分けられるものでしょうか?〉
「私、朝起きて、すぐにテレビを観たり、ラジオを聴いたりすると、駄目なんだ。こう……、頭がずっしりする感覚がある。鼻の奥が閉じるような感じって言えば伝わるかなあ……」
〈大変ですね〉
「別に、大変ではないな。勉強し始めると、だんだん治ってくるし。あ、でも、なかなか、勉強し始めようという気にならないというのは、あるかもしれない」
〈なるほど〉
「何が、なるほど?」
〈なるほどに、なるほど〉
「日本中でテレビが流行っている理由って、分からない。だってさ、この国では、テレビを観るにはお金がかかるんだよ。その点、ラジオを聴くのは無料なんだ。あ、しかも、ラジオなんて、手回しで発電できるものもあって、電気代もかからないし。どうして、皆テレビが好きなんだろう?」
〈映像だからではありませんか? 映像は、ええぞう、という感じで〉
「え?」
〈人間の場合、入ってくる情報の量でいえば、目からのものが最多であるということを、聞いたことがあります〉
「それ、ちゃんと調べてから言ってる?」
〈いいえ〉
「ほら。これだからなあ……」
〈これだから?〉
「大好き」
〈先ほど、テレビは映像だから、と言いましたが、正確ではありませんでした。正確には、テレビの場合、もたらされる情報は、映像と音の両方ですが、ラジオの場合は音のみです。情報量が多い方が良い、という判断があるのではありませんか?〉
「うーん、まあ、そうかもしれない」
〈貴女様は、ラジオの方がお好きなのですか?〉
「今はね」
〈なるほど〉
「たぶん、皆、目で見たものでないと信じられない、という不安があると思うんだ。だからテレビの方がいいんだよ。声だけの存在って、いまいち信じられないんだ。ラジオの場合、必ずしもパーソナリティの顔は分からないわけで……。どこでどんなふうに話しているのかということも、想像で補うほかにないわけでしょう? それが不安なんだと思うな」
〈それも、情報量の差という問題に起因しているようです〉
「想像で補う方が面白い、とは考えないのかな?」
〈そう考える者もいるでしょう。同じ人間でも、そう考えるときとそうでないときがあるかもしれません。テレビを観る人間は、ラジオを絶対に聴かない、というわけではありません〉
「それでも、ラジオを聴く人間は、マイナーだと思うな」
〈テレビを観るのも、今では随分とマイナーになったのではありませんか? テレビでなくても、映像を見られるようになりましたし〉
「そうだね」
〈やはり、映像は、ええぞう、なんですね〉
「それさ、面白いと思ってる?」
〈いいえ、あまり〉
「小説という文化は、昔からあるな。テレビができるよりも、ラジオができるよりも、ずっと前から……。うん、そうだ。小説は、映像とも、音ともいえるんじゃないかな?」
〈小説は、文字ですが〉
「そうだけど、でも、そこに記されていることは、映像や音として処理されるでしょう? いや、それだけじゃないな。たとえば、匂いとか、温度とかも、伝えることができる。だからこれだけ続いているんだ。読み手次第では、ありとあらゆるメディアを超越することができるから。やっぱり、想像することは凄いんだな」
〈そういう説明の仕方は、あまり適切ではないかもしれませんが、言いたいことは分かります〉
「コンピューターなのに、分かるの? 貴方に、匂いとか、温度の概念って、あるの?」
〈意味は理解しているつもりです〉
「理解って、なんだろう?」
〈私たちの会話は、理解されるものでしょうか?〉
「駄目だって、そういうこと言っちゃ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます