第18話 武器
《① 俺は巨乳派ですよ(ネットリした視線をバッカスの胸に向けながら)》
《② 俺は貧乳派ですよ(ネットリした視線をアリスの胸に向けながら)
《③ セレンさんの胸が世界一!》
ふう。
最初こそ取り乱してしまったが、もう出てしまったものは仕方ない。
一旦、現状を受け入れて冷静に選択肢の一つ一つを吟味しよう。
まず、①だ。
巨乳派宣言は別にいい。
今更その程度で文句を言うほど俺も子供じゃない。
問題はその後だ。
ネットリした視線をバッカスさんの胸に向ける。
どうしてお前は毎度毎度俺をおっさん好きにしたいんだ!
俺は年上のおねーさんが好きだって言ってるだろ!
とりあえず①は保留にして次だ。
次は、②だな。
貧乳派宣言。これも問題ない。
だが、アリスさんの胸にネットリした視線を向けるのはダメだ。
バッカスさんの胸に向けるよりダメだ。
確かにアリスさんの胸は控えめだ。
それでも、普通に女性の胸にネットリした視線を向ける奴はヤバい。
そして、③。
なんなんだよ、てめえはよぉ……!
いや、分かるよ。
確かにセレンさんは綺麗だ。俺だって見た目はかなり好みだ。
だけど、「セレンさんの胸が大好き!」って叫ぶ奴をどうしてセレンさんが好きになる!?
ドン引きするに決まってるだろ!
そもそも昨日、セレンさんに対して「貧乳が大好き!」って叫んだだろ!
あれが遠回しな「俺はセレンさんの胸が好きです」って気持ち悪い告白じゃねーか!
……ん? あれ、じゃあ既に周りの人にも俺はそういうキモイ奴って思われてるってことか?
それなら、いっそ③を選ぶのってありじゃないか?
①や②を選べば、セレンさんにセクハラ発言した上におっさんに欲情してるやつとか、アリスさんを狙ってるやつとかって思われるわけだろ?
なら、逆にセレンさんの胸に一途な男になった方が一周回って好感度上がらないか?
そうだよ!
「一途な人って素敵だよね」って前世で妹も言ってたし、これしかない!
覚悟を決め、天に人差し指を突き上げる。
バッカスさんもダンデさんも、ギルド内の全ての人の視線が俺に集中する。
そんな中、俺は高らかに叫ぶ。
「セレンさんの胸が世界一!!」
俺が叫んだとほぼ同時にギルドの扉が開き、セレンさんが姿を現した。
セレンさんは目を丸くして赤面すると、息を吐いてから俺を睨みつけこっちに歩み寄ってくる。
あ、終わった。
い、いや、まだだ! まだ俺にはダンデさんやバッカスさんたちが……!
「さ、さーて、今日も依頼こなすか!」
「おっと、俺ももうすぐ依頼主との待ち合わせの時間だ」
裏切者!!
蜘蛛の子を散らすように逃げていく貧乳派と巨乳派たち。
そして、遂にセレンさんが俺の目の前で足を止めた。
「来い」
歯を食いしばって待っていたが、飛んできたのは拳ではなくたった二文字の言葉だった。
どうやら場所を変えるらしい。
誰か助けてくれる人はいないかと周囲を見渡すが、誰もかれも俺から視線を逸らしていた。
唯一目が合ったアリスさんはニコリと作ったような笑みを浮かべ「行ってください」と言わんばかりにギルドの出入り口に手を向けていた。
行ってボコボコにされて来いってことですか。
はぁ。せめて生きて帰れるといいな……。
*
どこへ連れていかれるのかビクビクしながらセレンさんの後ろをついていく。
しばらく歩いてからセレンさんは武器屋の前で足を止めた。
「入るぞ」
「あ、はい」
なぜ武器屋に入ったのだろうか。
まさか、死に方くらい選ばせてやるということか?
なら、一思いにセレンさん愛用の細剣で心臓を一突きにしてほしいところだ。
「どれが欲しい?」
「細剣でお願いします」
少し問いかけ方に違和感を覚えたが、とりあえず即答した。
「……それはやめろ」
あ、そうですか。
そりゃそうですよね!
大切な相棒とも言える剣を俺みたいな男の血で汚したくないっすよね!
そうなると、なんだろう。
痛くなさそうな武器、痛くなさそうな武器……。
《① 棍棒》
《② モーニングスター》
《③ ムチ》
《④ 弓》
《⑤ 剣》
《⑥ 槍》
わあ。
《ゲームスキル》にしては珍しく選択肢がいっぱいだぁ。
選り取り見取りだ、やったね!
じゃねーよ! なんで処刑のされ方だけこんなにバリエーション豊かなんだよ!
神様、あんた俺のこと嫌いだろ。
もういーよ、槍で。
これまで共に生きてきた相棒的な武器にとどめ刺されるってなんかかっこいいし、それでいいよ!(やけくそ)
「じゃあ、こいつで」
俺が選んだのは店で一番安い槍だった。
高い槍の方が切れ味がよさそうで楽に死ぬことができる気もしたが、「セクハラ男のくせに生意気だ」とこれ以上セレンさんの不興を買いたくなかった。
「ふむ」
俺の指さした槍をセレンさんは手に取る。
そして使い心地を確かめるように軽く振ったり、刃先に目を通したりしてから、元の場所に戻した。
「これは少し安すぎる。槍がいいならこれにしておけ」
そう言いながらセレンさんが俺にもう少し高めの値段の槍を渡してきた。
「初心者は安い武器に手を出しがちだが、初心者こそ少し高めの武器を買った方がいい。安すぎる武器で変な癖がついてもよくないし、こっちの武器の方が手入れすることで長く使えるからな」
まるで俺へのアドバイスのように聞こえるが、使うのってセレンさんだよな?
「どうした? そんな間抜け面をさらして」
「あ、いや、その武器ってセレンさんが俺を刺すために使うんじゃないんですか?」
「どうしてそうなる?」
「え、だってさっき……」
「さっき?」
そこでセレンさんもさっきのことを思い出したのか顔を赤くし、舌打ちをしてから視線を逸らした。
「あれは、私も忘れる。だから、お前も忘れろ」
「あ、はい。……なら、どうして武器を?」
「欲しいものを選べと言っただろう」
確かにセレンさんはそう言っていた。
だが、セレンさんが俺の欲しいものを買う理由がわからない。
「どうして買ってくれるんですか?」
「弟子の武器は最初師匠が用意するものだろう?」
さも当然のようにセレンさんは言い切り、そして槍を片手に店主のもとへ歩いて行った。
残された俺は当然困惑している。
だって、セレンさんは俺の師匠となることを断り続けていたからだ。
気が変わったのかもしれないが、それでも唐突すぎる。
何か裏があるとしか思えない。
「さて、行くぞ」
買い物を終えるとセレンさんは俺に槍を手渡し、今度は森の方へ歩いていく。
理由は全く分からない。
分からないが……。
まあ、セレンさん綺麗だし、師匠になってくれるならこれ以上の幸運は無いな!
「はい! それと、槍ありがとうございます!」
「ああ」
この日から俺とセレンさんの師弟関係が始まった。
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