第2話 選択肢
俺の名前はクナン・ジョート!
ある日突然異世界転生してしまった普通じゃない元日本人だ!
異世界に転生して、チート能力でウハウハハーレム生活を夢見ていた俺を襲った領地の大飢饉!
領民たちの辿る未来は大貧民?
正に絶体絶命の危機? そんな時に俺のチート能力が遂に解禁!
YEAH!!
ふう。思わず韻を踏んでしまった。
心を落ち着かせ、もう一度新しく目の前に浮かび上がった文章を読む。
《好きな選択肢を選んでください。選択肢に応じてルート分岐します。(※どちらかの苦難を選択しないと先には進めません)さあ、ゲームのような能力でレッツセカンドライフ!》
へー、ふーん。
ゲームシナリオ、ね。
まあね、ゲームには大抵シナリオがあるよね。
選択肢って言うのもゲームの定番だよね。選択肢のないゲームは殆ど存在しないもんね。
違う、そうじゃない。
確かにゲームみたいな能力って言ったよ?
でもさ、そこじゃないんだよ。
俺はステータスとか、レベルアップの概念が欲しかっただけ!
え? まさかと思うけど、俺のチート能力って、選択肢を強制的に選ばされるだけ?
弱すぎィ!
せめて、セーブ&ロードとかも付け加えてくれませんかね!
《無いです》
弱すぎィ!!
しかも先に進めないって、選ばなかったら一生ここでこうするってこと?
よく見たら自分の身体が動かないだけじゃなくて、周りの時間も止まってるじゃん。
おいおい……まじか。
《① 決断する時が来た。領地を統治する親父を死なせるわけにはいかない。俺が、逝くッ!》
《② 俺の食料を確保するには食い口を減らすしかない。へへっ、このナイフが血を欲してるぜぇ。ヒャッハー!》
改めて、用意されている二つの選択肢に目を向ける。
流石に一生このままは精神がぶっ壊れる。
嫌な予感しかしないが、選択するしかない。
ぶっちゃけ、選ぶなら1番だ。
殺しをほのめかせている2番はちょっと選べない。
前世では選択を間違えまくった俺でも、流石にこの選択は間違えられない。
①は①で、死ぬかもしれないというワードが出ているが死ぬと確定しているわけじゃない。
多分、生死を彷徨うレベルの苦難が待っているくらいだろう。
冷静に考えたら①も嫌だな。
いや、もうやけくそだ!
②を選んで真っ先に家族を殺しに行くとかなったら最悪だし、①だ①!
苦難上等、かかって来い!
気合を入れて①を選択すると、身体が勝手に動き出す。
あ、この辺はオートなんですね。
自分の部屋の中で丈夫なバッグを取り出し、そこに短剣を詰めこむ。
そして、持っている服の中で一番丈夫なものに着替えてから、屋敷の武器庫へ向かう。
武器庫の前には兵士がいたが、疲れているのか今日は眠っていた。
重い扉を押して、武器庫に入ってから俺でも触れる剣と胸当てや手袋など身軽ながら頑丈な装備を整える。
そして、親父の執務室に飛び込んだ。
「ク、クナンか。どうしたんだ、その格好は?」
親父は俺の格好を見て、目を見開いていた。
母さんはいないらしく、部屋には親父と共に親父が信頼している執事のバトラーがいた。
そこで、ようやく俺の身体は自由に動けるようになった。
あ、こっから先は自分でやれってこと?
じゃあ、大人しく部屋に戻って……は身体が動かないね。そうですか。ダメってことですか。
ええい、やってやるよ!
見とけよ! 俺の一世一代の大演技を!!(やけくそ)
「親父、俺は家を出る」
先ずは先制パンチだ。
こういう時は前振り無しで勝負するのが一番。
案の定、親父もバトラーも動揺の余り動けなくなっている。
この隙に正論パンチを食らわせる!
「ガキだと侮られちゃ困る。俺にだって、親父が自分の食事を俺たちに回していることは分かる。それくらい、今が切迫した状況だってこともな」
やはり図星だったのか、親父が苦虫を噛み潰したような表情へと変わる。
それから俺に何か言おうとするが、そうはさせない。
俺のバトルフェイズはまだ終わっちゃいないぜ!
「親父が倒れれば、領地はどうなる? 領民は? 俺たちは? 苦しい状況でこそ、優秀な指導者が必要だ。親父が元気でいることが領民を、家族を救う一番の近道なんだ。このまま食事を摂らずに親父が、家族の誰かが倒れる姿を俺は見たくない。なら、俺の食い物を全部くれてやる」
完璧なデュエルだ。
よし、後は家を出ていくだけだな! あんまり長居すると折角決めた覚悟が揺らぎそうだからもう行こう!
「ダ、ダメだ!!」
部屋を出ようとドアノブに手をかけたところで親父に呼び止められる。
無視しようとしたが、バトラーに肩を掴まれた。
は、早い! これが執事か……すげえ。
「クナン様、ちゃんと話をしましょう」
険しい顔つきでバトラーはそう言うと、俺と親父を向き合わせる。
あーやめて! 俺だってバカなことを言ってるって分かってる分、良心が痛むわぁ。
「クナン、お前の気持ちは嬉しい。お前の言う通り、私も最低限食事は摂る。だから家を出るのはやめてくれ。必ず家族も領民も守ってみせる。この通りだ」
そう言うと親父は頭を下げる。
俺の格好や言葉から俺が本気ということを感じ取ったのだろう、その表情からは確かな焦りが感じ取られた。
ふむ。確かに、親父の言うことにも一理ある。
どうですか? ゲームシナリオさん、親父もこう言ってるし、今からでももっと穏便な解決方法を一緒に模索しませんか?
試しに頭の中でいるかも分からぬ”ゲームシナリオ”に問いかけてみる。
すると、世界が停止し、再び俺の目の前に選択肢が現れる。
《① 短剣の刃を自分の首筋に当てながら「なら、ここで死ぬ」と言う》
《② 短剣の刃を親父の首筋に当てながら「なら、ここで死ね」と言う》
滅茶苦茶じゃねえか!
特に②! お前だよ!
なんで、俺が家を出るって話から親父を殺すに発展するんだよ!
確かに、食い口を減らすって目的は果たせるけど、親父が死んだら本末転倒だろうが!
ちくしょう! ①だよ①!
やけくそ交じりに短剣の刃を自らも首筋に当てる。
自分でやっていることだが、普通にぞわっとした。
「俺が家を出ることに了承しないなら、ここで死ぬ。どっちにしろ食い口を減らせるなら俺は満足だ」
「やめろっ! バカなことはよせっ!!」
親父が血相を変えると同時にバトラーが俺から短剣を奪おうとする。
「動くな!! 少しでも動けばこのまま首を掻っ切る」
即座に叫んで牽制する。
叫んだ勢いで刃が少し首に食いこみ、血が流れ始めた。
え、痛い。思ったより遥かに痛いんだけど。
「クナン様……なぜそこまで……」
ポツリとバトラーが呟く。
理由かぁ。
本当、なんでこうなったんだろうか。
やっぱり、あれか? 身に余る能力を求めたせいだろうか。
とはいえ、それをそのまま言っても理解してもらえないだろう。
親父もバトラーも納得するいい感じの理由が……あ、あるじゃん。
「家族の中で唯一俺だけ血が繋がっていない」
「なぜ、それを……!?」
親父の反応を見る限り、俺の予想は当たっていたようだ。
「俺は感謝しているんだ。血の繋がっていない俺をここまで育ててくれた親父と母さんに。俺に家族の温もりを教えてくれた兄弟たちに。そして、血が繋がっていないからと言って俺だけ差別しなかった使用人たちにも」
親父もバトラーも言葉が出てこない。そんな感じだった。
「俺が家を出るだけで大好きな家族が救えるなら本望だ。それに、死ぬわけじゃない」
「バカなことを言うな! 子供が一人で生きていけるか! ただでさえ、飢饉でこの領地を含め近くの領地では生きていけない。森に行っても魔獣がいる! そんな状況で家を出ても死ぬだけだ!」
「その時はその時だ」
親父の目を真っすぐ見つめてハッキリと告げる。
俺の覚悟が親父にも伝わったのか、親父は力無く背もたれに寄りかかった。
「本気、なんだな」
「ああ」
決着はついた。
最後まで、「家を出てもいい」と言えなかった辺り、やはり親なのだなと思う。
バトラーももう俺を止めようとはしなかった。
静かに、ドアノブに手をかける。
「すまない」
背中から親父の悔いるような声が聞こえて来た。
その声に目頭が熱くなる。ぶっちゃけ、怖いし今すぐ部屋に戻って布団にくるまりたい。
だが、それはしない。
「親父、ありがとう。皆にもそう伝えてくれ」
やり切ると決めたら最後の最後までかっこつける。
それがバカなガキに出来る唯一のことだ。
そして、俺は執務室を出て、そのまま家を後にした。
「さて、どこ行くかなー」
森は論外だ。魔獣と戦ったって勝てる気がしない。
そうなると、かなり遠いが南方の方を目指すしかないだろう。比較的魔獣も大人しいと言われている南方で冒険者になる。
うん、それがいい。
薬草集めとか迷子探しとか簡単な依頼をこなしてなんとか食いつなごう!
森だけには絶対に行かないぞ!
《① 家を出るだけではダメだ。飢饉に陥り、魔獣を討伐する役目を負っている領地内の冒険者は日に日に他の領地に移動している。このままでは森の魔獣が溢れ、領地は終わりを迎えるだろう。そうはさせない。俺が、逝くッ!!》
《② ヒャッハー! 森で魔獣狩りだぁ!!》
ああああああ!!
あるけど! どっちを選んでも同じって選択肢はよくあるけど!
もう逝くって言ってんじゃん! 無謀だって分かってんじゃん!!
くっそ……!
「ヒャッハー! 森で魔獣狩りだぁ!!」
やってやるよおおおお!!
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