ゲームのような能力が欲しいと願ったら目の前に選択肢が浮かぶようになった

わだち

第一章 異世界転生編

第1話 異世界転生

 たぶん、俺は間違えた。


 振り返ればキリが無い。子供の頃にもっと勉強しとけばよかった。

 日頃から身体を鍛えておけばよかった。

 周りをよく見て、コミュニケーションを積極的に取ればよかった。


 いくつもある人生の分岐点で俺は道を間違え続け、そして、今日も過ちを犯した。


 悲鳴混じりの騒々しい人ごみの中、俺の腹に刺さったナイフにはべったりと血がついていた。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん、しっかりして!!」


 普段は散々罵倒してくる妹の顔は涙でくしゃくしゃになっていた。


 俺と違って綺麗な顔に生まれたというのに、勿体ない。

 だが、自慢の妹が刺されなかったのだ。

 出会ったのは偶然とはいえ、最後に妹を通り魔から救う立派な兄になれて本当によかった。


「よかった……」


「バカ! 何も良くないよ!」


 よかったと思っていたのは俺だけだったらしい。どうやら、これも間違いだったようだ。


 今度こそ、正解出来たと思ったんだけどなぁ。

 ぽたりと頬に落ちる水滴の冷たさを感じながら、やっぱり間違えたと静かに瞳を閉じた。





 目を覚ますと、目の前には子供がいた。

 雪のように白い肌、白い髪の不思議な雰囲気を纏った少年だった。


「あなたは死にました!」


「あ、え……?」


「死んだので、ぼくのいる世界に転生してもらいます!」


「は、はい?」


 まずい。

 情報量が多すぎて一つも冷静になれていない。

 だが、目の前の少年は台本らしきものに目を向けながら一生懸命に説明してくれている。

 とてもではないが、途中で遮ることは出来なかった。

 

「転生するにあたって、ひとつだけ転生特典をあげます。あまりにも大それた願いは無理ですが、ぼくにできる限りのことはします!」


「て、転生特典?」


 なんだそれは。

 アニメ映画を観に行ったら限定クリアファイルが貰えるみたいなやつのことか?

 

「はい! 簡単に言うと、新しい世界で新たな人生を歩むあなたへの僕からのプレゼントです。優れた容姿、突出した身体能力、常人離れした特殊能力など、好きなものをプレゼントします! あなたが生きていた世界ではチートと呼ばれていたようなものもありますよ」


 お、おおー!

 それは凄い!

 なんか少しずつ事情が理解出来て来たぞ。

 まだ信じ切れていないが、要はこの状況は最近流行りの異世界転生アニメと同じということだ。


 だがちょっと待て。

 もしそうならこれから俺が転生する世界は人が簡単に死んでしまうような世界の可能性がある。

 

 いや、だからこその転生特典か。


 ここでチート級の能力を手にすることが出来ればどんな世界でも平穏に暮らせるに違いない。

 あわよくばモテモテのハーレムになれる可能性もある。

 何はともあれ、ここの選択は間違えるわけにはいかない。慎重に検討しよう。


「ちょっと考えてもいいですか?」


「はい」


 ショタの神様に感謝しつつ、早速貰うべき特典について考える。


 パッと思いつくのは時間を止める能力などの強力な能力だ。

 転生先が俺の前世のように比較的争いが少ない平和な世界なら、優れた容姿というのもありだ。


 そうだ!

 いっそのことゲームの様にレベルアップの概念やステータスを自分で自由にカスタマイズできるようにした方がいいのではないだろうか。

 これなら自分の成長を楽しめるという利点もあるし、転生先の状況に応じて能力を調整できる。

 おまけに、最近のゲームは自分の容姿さえカスタマイズできるものも多い。


 これぞ正にチート。最強の能力だ!


 よし、これで行こう。


「じゃあ、ゲームみたいに確実に成長出来たり、自分でステータスをいじれるような能力が――「ゲームだね! 分かった!」


「え!? ちょっ、まだ言い終わってない」


「それでは、よいセカンドライフを!」


 若干の不安は残ったものの、どこか焦った様子の神様のおかげで、俺は無事に転生した。

 


 転生した先は男爵家の次男だった。

 田舎の小さな領地を与えられているだけの家だが、平穏を望む俺としては丁度良かった。


 そもそも貴族に生まれた時点でかなり恵まれている。めちゃくちゃラッキーだ。


 気になる点があると言えば、直ぐ近くに強力な魔獣が出るという森があるということくらいだろう。

 魔獣とは名前の通り、魔力という特殊な力を有した獣のことだ。

 その力は前世の猛獣たちを上回り、魔獣による被害はこの世界における大きな課題の一つらしい。


 だが、子供の俺が魔獣と出会うことがあるはずもなく、優しい両親とイケメンの兄と弟、滅茶苦茶可愛い姉と妹に囲まれて俺はすくすくと育った。


 それにしても、俺の家族美形すぎないか? しかも性格もいい。

 あと、皆ブロンドヘアーなのに俺だけ黒髪なんだけどなんで?

 すっごい嫌な予感しかしない。


 おまけに、俺の兄弟たちは皆なにかしらの才能を持っている。

 兄は十にして既に親父と一緒に政治に関わっているし、弟は植物に興味があるのか、執事と共に六歳にして家庭菜園をしている。


 ポロッと品種改良に関する知識を漏らしたら、目をキラキラと輝かせてそれを実践しようとしていた。

 六歳で品種改良を理解出来る奴なんていねーよ……。


 姉は兄弟姉妹の中で一番戦いのセンスに秀でているし、妹は目が飛び出るほど可愛い。

 妹は貴重な癒し枠だと思っていたら、この間固有魔法に目覚めたらしい。


 ちなみに固有魔法とは、先天的に持って生まれる魔法のことを指す。

 どれだけ優れた才能の魔法使いも固有魔法を後天的に使うことは出来ないらしい。

 妹が発現した魔法は洗脳魔法だ。


 普通にヤバイ。

 興味本位で一度だけかけてもらったことがあるが、全ての最優先事項が妹に言われたことになるという感じだった。


 集中しすぎると周りの声が聞こえなくなるというが、あんな感じだ。

 妹の命令を遂行することに没頭してしまうために、それ以外のことが何も頭に入ってこない。


 しかし、これだけ強力な魔法を持っているとなるといずれ妹は何か大きな事件に巻き込まれやしないかと心配になる。

 ま、家族もいるし、将来的にチートを得る(予定)の俺もいる。きっと大丈夫だろう。


 さて、そんな才能あふれる兄弟たちに囲まれた俺はというとここまでは平凡そのものである。

 悪気はないのだろうが、使用人たちが「次男のクナン様は平凡ね。やっぱり血が……」とコソコソ話していた。


 血が!?

 いや、もう分かるよ! 絶対に血が繋がってないって言おうとしてたよなぁ!?


 とはいえ、この程度で取り乱す俺ではない。

 こういう時、重要なのは逆転の発想だ。


 そう、血が繋がっていないということは美人な姉や妹とイチャイチャしてもなんの問題もないのである!


 それに、才能についてはなにも心配する必要はない。

 なんせ、俺は神様からチート能力を約束されているのだ。いつか能力が目覚めるその時まで家族との時間を楽しみつつ原っぱを駆け回っていればいいのである。



 はい、そう思ってました。

 この間までは。


 なんと最近になってから親父が統治する領地が大飢饉に陥った。


 異常気象や森の魔獣が作物を食い荒らすなど、あらゆる不幸が重なり今年の作物の収穫量はここ百年で類を見ないほど少ない量だったらしい。


 近辺の森に潜む魔獣が強いこの領地では狩猟の難易度が高く、農業に力を入れていた。

 おかげでここ数年は安定しており、領民も増えてきていたところにこれだ。


 瞬く間に数年かけて溜めた作物の貯蔵も減ってきており、我が家でも一人一人の食事量は大幅に減っている。

 苦渋の決断で、使用人を解雇するなど必死に親父も対応しているが、日に日にその頬はやせこけ、顔色は悪化していた。


 間違いなく、親父は自分の食事を一番切り詰めている。

 そして、兄貴も姉貴もだろう。

 おかげで俺と弟、妹たちはまだ元気でいられている。

 流石に俺も親父たちを差し置いてしっかり食事を摂るのは気がひけるため、何度も親父たちに「俺の分をあげる」と言っているのだが、毎回「お腹いっぱいなんだ」と嘘をつかれて躱されていた。


 このままでは、親父が真っ先に死んでしまうかもしれない。


 そんな不安が脳裏をよぎった夜のこと、それは不意に俺の目前に現れた。


《1.決断する時が来た。領地を統治する親父を死なせるわけにはいかない。俺が、逝くッ!》


《2.俺の食料を確保するには食い口を減らすしかない。へへっ。このナイフが血を欲してるぜぇ。ヒャッハー!》


 なにこれ?

 いや、まじでなにこれ?


 例えるなら、ゲームの選択肢みたいな感じだ。

 いやいや、どっちにしろ嫌な予感しかしないんだが!?


 ちょ、誰かこの状況説明してー!


《あなたの能力”ゲームシナリオ”が発動しました。好きな選択肢を選んでください。選択肢に応じてルート分岐します。(※どちらかを選択しないと先には進めません)さあ、ゲームのような能力でレッツセカンドライフ!》


 は?


 は???

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