第6話 同じ身の上

「「「 大変申し訳ございませんでしたぁ! 」」」


 シオに絡んで、僕に襲いかかってきた三人の軍人たちが、声をハモらせながら同時に頭を下げた。

 今、三人は例の「政庁」の中にある小さな石造りの暖炉の前で縛り上げられている。

 すっかり酔いは覚めたみたいだけど……さて、どうしたものか。


「とりあえず、三人とも官と姓名を」


 僕も前線で指揮を執っていた頃は兵同士のトラブルを何度か収めたことはある。

 なんとなくその時のノリで、まず問題を起こした当事者の名前を確認してしまう。


「ガストン上等兵」

「ジャン二等兵です」

「タジマ二等兵であります!」


 三人とも、素直に答えた。


「どうして三人ともシオ……少尉にあんな態度を?」


 僕は、隣でまだあわあわしているシオをちらりと見やってから三人に尋ねた。

 少尉……少尉!

 ロガ自治区に到着してから驚いたことベスト3を挙げよと言われたら、


 第3位 「首都」が村以下!

 第2位 書物でしか見たことがない竜が飛んでいる!


 ときて、


 栄光の第1位 シオ、実は少尉だった!


 なのは、間違いない。

 このウサギ耳が愛らしいニト族の女の子が、士官! それも帝国本土に留学……つまり士官学校を卒業したエリートだとは、失礼ながらまったく想像していなかった。

 少尉といえば、今の僕の階級である上等兵から見ると七階級も上。雲の上の存在だ。


「大変失礼いたしました少尉殿! これまでのご無礼、平にご容赦を!」


 伸びている三人を縛った後で僕が敬礼して言うと、


「や、やめてください〜! おたわむれが過ぎますよぉ〜!」


 と、シオは涙目になっていた。うん、やっぱり少尉には見えない。

 ……それはともかく、


「はぁ……実は……」


 僕に問われたガストン以下三人は、あのような狼藉ろうぜきに至った理由を口々に話し始めた。


「実は俺たち、カバシマって中佐の部隊に配属されてこの間までナロジアと戦ってたんだけどよ……」

「これがまた無能を絵に描いたようなヤツのくせに、とにかく偉そうで……」

「立てる作戦は全部ガバガバ。そんで、ついたあだ名が……」

「ガバガバの<ガバジマ>……か?」


 三人に続いて僕が言うと、三人とも目を丸くした。


「どうしてそれを……」


 カバシマ中佐の名前と評判は僕も聞いたことがあった。

 なぜなら彼は……アマガの腰ぎんちゃくその一だからだ。

 とにかく僕が中佐の存在を知っており、かつ快く思っていないと理解してから、三人の口は滑らかだった。

 まぁこ出るわ出るわ愚痴に悪口、恨み節。何度も脱線しそうになるのを修正しながら聞き取ると、


「……つまり君たちはカバシマ中佐の不興を買って……左遷されたと?」

「兄貴……上等兵殿は元々現場の叩き上げで軍曹にまで昇進した自慢の上官だったんです!」

「ガバジマの野郎、てめぇでろくすっぽ進軍ルートも考えてねぇくせに、そのことを進言した兄貴や……兄貴をかばった俺たちをその場で降格しやがったんです」

「いくら戦時特権があるからって……ああいうのを職権濫用っつーんですよ。……いや、あん時はまだ戦闘でもなかったんだ。そんな権利すら無かったかもしれねぇ」


 なんという……。

 要は彼らは僕とまったく同じような境遇でこの地へ「流され」、それで自暴自棄になって昼間から飲んだくれてしまっていたと……。


「風の噂じゃガバジマ、その後でナロジアの捕虜になったとか……そりゃざまぁねえんだが、そしたらよ、今度は誰も俺たちに帰還命令を出してくれねぇときた」

「何ヶ月もここに放りっぱなしにされて……そしたら、何日か前にそこのシオ少尉がいきなりやって来て、大事なお客様を迎えるからあれしろこれしろ言い出して……」

「オレたち、もう何もかも嫌になっちまって……すいません……」


 三人は、がっくりと肩を落とした。

 しばらくして、ガストンがのろのろと顔を上げた。


「客ってのは、あんただったんだな」


 じっと僕の顔を見る。ややあって、その目が急に熱を帯びてきた。


「ん? 待てよ? あんたの顔……どこかで……」


 ……あ、マズい。


「そうだ! 軍の広報新聞の写真!!」


 僕は慌てて顔を背ける。

 が、


「気付くのが遅すぎます! そうです! この方こそ我が帝国軍の至宝! 解放の英雄! ソウガ=タツミヤ中将閣下であらせられます!」


 なぜかやたらと嬉しそうなシオの「ご紹介」で、何もかもが無駄になった。

 うーん、面倒なことになるなぁ……これは……。

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