左遷英雄、竜を飼う(旧名)最強無敗の英雄将軍だったが、一般兵に格下げになってしまったので、左遷先のド辺境で竜牧民としてのんびり暮らすことにした。〜でも、究極チート能力<竜の目>がそうはさせてくれない~
第1話 最強無敗の英雄将軍だった僕が左遷先のド辺境で竜牧民としてスローライフ
左遷英雄、竜を飼う(旧名)最強無敗の英雄将軍だったが、一般兵に格下げになってしまったので、左遷先のド辺境で竜牧民としてのんびり暮らすことにした。〜でも、究極チート能力<竜の目>がそうはさせてくれない~
桜桃キリト
第1話 最強無敗の英雄将軍だった僕が左遷先のド辺境で竜牧民としてスローライフ
「判決。被告、ソウガ=タツミヤより帝国陸軍中将の階級を剥奪し、上等兵へ降格する」
さすがに死刑にはできなかったか……というのが、僕が最初に抱いた感想だった。
裁判長席で判決文を読み上げる男、コレモチ=アマガ陸軍中将の顔をちらと見やる。
(我が世の春が来た……って顔だね)
アマガは、満面の笑みを浮かべていた。僕を中将の位から一気に一般兵にまで引きずり下ろせる喜びを、全然隠そうとしていない。
それにしても、上等兵とは……いったい、何階級の降格なんだ?
長い旭光帝国軍の歴史上、これほどの降格人事を食らった人間は、僕が初めてに違いない。
「最後に何か言いたいことはあるか?」
片方の唇だけをニイッと持ち上げ、アマガが言った。
「……無いね」
「ふははは! さすがのお前も観念したか!」
厳粛な軍事法廷であることも忘れ、アマガが甲高い笑い声をあげた。
とがめる者は誰もいない。
そりゃそうだ。陪審員のほとんどは、アマガの息が掛かった将校なんだから。
「では〜、これにて閉廷……」
それを良く知っているアマガが閉廷を告げようとしたその時だった。
「異議あり! この判決は不当だ!」
陪審員席の一番端から清冽な声が響いた。
「こんな茶番で、帝国軍の至宝たるタツミヤ中将を解任するなど言語道断だ!」
声の主は、僕の同僚……いや、同僚だったユミナ=キシロ中将だった。
燃えるような赤髪と、稲妻にも例えられる神速の用兵から「赤雷」の異名を奉られる帝国軍きっての女傑は、
「先の敗戦の原因は、不正確な情報伝達にある! その情報を握りつぶして前線へ送らなかったのはアマガ、貴様だろう!」
軍内部に非公式のファンクラブが100はあると噂される美貌に怒りをみなぎらせてアマガに迫る。
「なんの証拠も無い流言飛語で神聖な軍事法廷を侮辱するのはやめていただきたいなぁ」
「なんだとっ!?」
「これ以上騒ぎ立てるなら、いかに戦功抜群の貴官でもただでは済みませんぞぉ?」
「アマガっ!」
「先のナロジア王国との一戦で敗れたのは、タツミヤの作戦ミスのせいぃ! そしてぇ、そんな絶体絶命の状況で王国と休戦協定を結び、帝国を救ったのは……このワタシ! それがすべてぇ!」
しかし、僕を蹴落とした喜びで頭がいっぱいのアマガを止めるには至らない。
そして、やはりそんなアマガをユミナ以外は誰もとがめない。
そりゃそうだ二回目。何しろアマガの父親は帝国宰相、父親が引退すればアマガが次期宰相だ。そんな奴に楯突ける者はそうはいない。
「ふざけるなよ……」
問題は、ユミナがその「そうはいない」者のひとりなわけで……マズい。
これ以上はアマガの命……じゃない、彼女の将来に関わる。
ユミナは僕を帝国軍の至宝と称してくれたが、その栄誉は彼女にこそよほど相応しいのだから。彼女さえ健在なら、帝国軍は安泰だ。
だとすれば、僕が取るべき行動はひとつだけ。
「判決は受け入れる。……これでいいだろう? アマガ中将」
ユミナが腰の軍刀に手をかける前に、僕は言った。
同時に、ユミナとアマガ両方の視線が僕に突き刺さる。
「これでよろしいですか? だ、タツミヤ上等兵〜!」
「本気かソウガ……いや、タツミヤ中将!」
中将なのか、上等兵なのか、どっちかにしてくれ……それはともかく、
「もうたくさんだ。これで終わりにしよう」
重ねて僕が言うと、アマガは「ひょっ!」となんとも形容しがたい声を出した。
そして、
「ようし! 言ったな? ではタツミヤ上等兵……貴様には帝国領の辺境も辺境、ロガ自治区の駐在武官を命じるぅ!」
アマガが振り下ろした木槌の音で、軍事法廷は閉廷。
結果、僕は……「帝国軍の至宝」から「ただの一般兵」となって辺境へ赴くことになったのだ。
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