龍街(リュウマチ)

堀川士朗

第1話


 「龍街(リュウマチ)第一話」



          堀川士朗



西暦2042年。

人類の厄年。

人口650万人都市の東京(アズマケイ)都。


渋谷(ジュータニ)区、宇田川(アザナデンセン)町。

俺たちの住む街は何の変哲もない街だ。

だが、数年前から時折龍が出てきて人が食べられる。それが当たり前になっている。

誰も、もうその事について疑問を抱かなくなってしまった。

慣れたんだ、龍に。

これは日本だけじゃなく世界中で同時多発的に起きていた。

ヨーロッパやアジアでは龍の被害が大きくて既に十数ヵ国が滅んでいた。

龍の勢いは止まらなかった。

だけど俺たちは臆する事なく日常をやめなかった。


思ったより人類は、元気だった。



俺は近田千太郎。

通称チカセン。

2015年生まれの27歳だ。

会社を持っている。

廃品回収を専門にやる会社だ。

社名は『斡旋ブル』。

社保有の電動軽トラ『五六八号』で依頼人の家に乗り付け、不要品の電化製品などを解体して半導体やICチップを取り出して再生企業に売るボロい商売。残りのガラは契約してある群馬(ムレバ)県の山の中に棄ててくる。

ここは龍の住みかが近いので搬送廃棄には注意が必要だ。

群馬県内は龍にやられて人が一人も住んでいない。

東京を襲う龍と、軍との主戦場のひとつとなっている。

俺がここをガラの廃棄先に選んだのもそれが理由で、超格安で契約出来て、しかも棄て放題だったからだ。

危険は承知だ。



俺は大学を卒業してしばらく地元でブラブラし、行き場がなかったから自衛隊に入ったけど、映像耐性教練と称して戦争映画の「マイプライベートラミヤン」の冒頭30分のオマハビーチ上陸戦のグロ注意なとこばっか延々と観させられるのに気分が悪くなって腹が立って、銃の撃ち方だけ覚えて自衛隊を辞めて廃品回収の有限会社『斡旋ブル』を作った。

一応社長だ。

社員はウンバボひとりしかいないけど。



ウンバボとは去年の春に上野御徒町(ジョーヤ・ギョトチョウ)のホルモン焼き居酒屋『鐵ちゃん』で出会った。ジョーヤではよく飲むんだ俺は。

俺がカウンターで飲んでいたら、やけに図体のデカい若い黒人の男が愛想よく俺を手招きしているので少し警戒したが二献三献飲るうちに打ち解けあって終電がなくなってウンバボのアパートに泊まったら部屋中アニメのヲヴァンヨガリヲル(俺が生まれるかなり前のアニメだが根強いファンも多く、こないだも新作が劇場公開されたばかりだ)の風波レイナのポスターばっかりのジャパニメーション大好き外人でねえ何これと突っ込んだら風波レイナは男のふるさとだヨってウンバボが言ってああとりあえずこいつはホモじゃないんだな安心安心つってこたつで眠って便所はでも共同で古くて朝ウンバボのふるさとのアフリカ料理を作ってくれてそれが豆料理ですごい美味かったのを今でも覚えている。


そんで試しに腕相撲したら俺も力自慢だったけど全然敵わなかったので、こりゃ戦力になるわと思ってスカウトした。

ウンバボはバイトしていた牛丼屋を辞めて『斡旋ブル』に来てくれた。

大感謝だ。

ウンバボは23歳。若い。

日本に来てまだ1年だけど日本語はかなり上手かった。

巨漢でかなり肌が黒い方のタイプの黒人。

アメリカ系じゃなくてアフリカ系だからだ。

目や歯の白さが目立つ。



俺は斡旋ブルの倉庫を兼ねた二階建てのガレージハウスに住んでいる。

一階には軽トラの五六八号と調整やICチップ回収を待つ家電の類い、加工機器などがひしめき合っている。

40畳ほどの広さで天井も高い。

階段で二階に登るとそこは庭と居住スペース。

8畳の部屋が二間ある。もちろんシャワーやトイレも完備。

屋上に面しているので陽当たりも良い。ヒマワリを植えている。野菜も育てている。

休日は業務用スーパーのカステコで塊の肉を買い、心地好い太陽の光を浴びながら二階のテラスでバーベキューする事もある。そんな時はビールがグイグイ進む。

辺りは肉を焼いた煙で満ちる。

龍が出そうな日はバーベキューはやらない。

肉の煙でおびき寄せてしまうからだ。

自由闊達。

縛られない世界。

たとえこんな世界であっても。

俺のモットーだ。



今日は龍は飛んで来なかった。

明日も来ないかもしれない。



            続く


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