16
同年 5月22日 06:00 千葉エリア
わかっていたことではあるが、エリスとダエルを欠いた4人では不便が大きい。
索敵も、今はまだだが戦闘も。
慎重に慎重に進んでいるからまだ20キロも進めていない。
「済まないね、大したもの出せなくて」
「あいえ、全然お気遣いなく」
現在俺たちは、道中で見つけたシェルターで日中を過ごさせてもらっている。
そしてここは3つまで見るうちの1つ目。
ジャンヌは居なかった。
「あの、すみません。少しお尋ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、構わないよ」
このシェルターのリーダーと思しき人物は、優しそうといった第一印象のお爺さんだ。
俺たちがここに来た時、老い先短いこの人生で外の人と関われる日が来るとは、と笑っていた。
「ある女性を探しているのですが、銀色の髪をしていて、こう肩口で揃えた感じ。背は俺より10センチと少し低いくらいなんですが、見覚えありませんか?」
老人はしばらく考えるような仕草をした後、ふと語り出す。
「何度か……物資を分けてもらったことがある。うちは仮に出れる若いものが少ないから、偶に何も採れずに帰ってくることがあるんだ。その時助けてくれた人たちの中に、そんな人がいたような気がする」
「本当に!?それで最近の、そう10日前の動向とかは分かりますか?」
「いやぁそこまでは。済まない、力になれなくて」
「いえ、そんな」
1番知りたい事こそ分からなかったが、ジャンヌたちのパーティーの、若しくは率いていたリーダーの人柄はよく分かった。
誰もが今を生きるのに必死なこの世界で、見ず知らずの人間に物資を分け与えていたのだ。
そう誰しもができることでは無い。
「優しい人たちだったんだね。生きて話とかしてみたかったなあ」
「そうだな。住んでいた場所もそこまで離れすぎている訳でもない。もしかしたら、色々と協力できたのかも」
本当に残念でならない。
どんな善人であれ、虫どもにとっては捕食対象でしかないのだ。
それがいつ自分の番になるかも分からない。
一層気を引きしめなければ。
「でもさ、1つ嫌な可能性が消えたと思わない?」
「嫌な?何がだ?」
先程の老人の話から、一体何が消えたというのか。
さっぱりなのはどうやら俺だけらしい。
他の3人は顔を見合せて笑っている。
「オレらは一応最悪を考えてたんだよ」
「じゃあ、その最悪が消えたということか?」
「完全にじゃないけどね。でも可能性は限りなく低くなったと思う」
それでもなんのことか一向に分からない俺を見て、ハルが小声で話す。
「見捨てたってこと」
「っ!?そんな馬鹿な!家族なんだぞ!普通――」
少し大声が過ぎた。
今はもう朝。他人のシェルターで、寝ている人だっているのだから、気を使わなければならない。
「すまん。つい」
「うん。でも怒るのも無理ないよね。ヴァルだったらさ、平野で蜘蛛とか百足と会敵したら、どうせ自分が囮になるつもりでしょ?」
「当たり前だろ。それが俺の、リーダーとしての役目だ」
「ほんとお前らしいな。でもな、それがどこでもそうとは限らない。オレとエリスは別のシェルターにいたことがあるから分かるが、はっきり言ってうちは快適がすぎる」
「そうか?上手いものも、娯楽を求める時間もないぞ」
俺たち狩り組は毎日訓練やトレーニング。
待機組だって、武器の整備や次代の戦士を育てる仕事がある。
とても快適と表現するには値しないと思うが。
「違うな。そういうことじゃないんだよ。オレの言ってる快適は、心の在り方の方だ。
ほら、考えてもみろ。四六時中命令しか出さない王様気取りなやつと、皆で助け合う家族。一緒に暮らすならどっちがいい?」
「そりゃ、考えるでもなく後者だろ」
「な?それが快適って意味だよ」
シェルターの形は様々。
ヴァルたちのように家族として手を取り合うところもあれば、誰かを王として、その他は使われる存在というところだってある。
ルイスとエリスは、そんなところから逃げてきた、ということなのだろうか。
「ジャンヌたちの話に戻るけど、他のシェルターに物資を分けるような人が仲間を見捨てるわけが無いよねってこと。
「そうか。本当に、生きているといいが」
帰還までに見られるシェルターは残り2つ。
未だジャンヌの痕跡1つ見つかってはいないが、一体どうなるだろうか。
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