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 同年 5月20日 00:00 千葉エリア


 ディアとエマの話によると、今回捜索する人物はジャンヌという女性。

 10日ほど前に、普段通り食料や燃料の調達に行ったが失敗。

 更に命からがら逃げてきたと思ったら、何故かシェルターが襲撃されていたという事らしい。

 

 大人たちが怒鳴り声を上げていたのを影から見ていただけだから、全部が正しいかどうかは分からない、と俯きながら話していたが、不運が重なっただけなのだろうか?

 特にシェルターが襲われていたことなんて、何かがあったとしか思えないが。

 

「ルートはどうするか決まった?」

「一応な。左回りで進んで、当面は本来の目標地点、房総半島の最南端を目指す」

 

 現在俺たちは東京湾を丁度半分ほど進んだ位置。

 大昔に存在していたマスコット、チーバくんで表すなら胸から腹にかけて、と言ったところだ。

 

「ん?全員止まれ。なんだ、あれ?」

 

 月が真上を過ぎた頃、双眼鏡を覗いた先にトーテムを見つけた。

 石造りの広場のような場所の中心。

 ごちゃごちゃと何がモチーフなんだか分からない、変なトーテムだ。

 

「初めて見るね、こんなの」

「ああ。周りにシェルターが見当たらないし、生存確認のものでは無いだろう」

「げ、これ血じゃん!塗料なんて珍しと思ったら、最悪!」

 

 俺も近寄って、匂いを嗅いでみれば鉄臭い。

 この赤黒い色は確かに血。動物か人間か、そこまでの判別はつかないがびっしり塗りたくられている。

 

「なんかの宗教なんじゃねえの?こんな世界だ。何かに縋りたくなる気持ちは分かる」

「宗教ねえ……神様がいるんだとして、この星はもうとっくに見限られていると思うけどな」

 

 シミュレーションゲームで考えてみれば分かりやすい。

 平和に栄えていた地が、ある日突然敵に占拠されて滅んだ。

 現状取り返す手段も無く、築き上げた建物なんかもほぼ全て崩壊し、周囲は砂漠化。

 もはや完全にゲームオーバー。

 さっさとリセット見限ってして次の場所に移るだろう。

 

「ルイスがそんなこと言うのも珍しいじゃん。何?エリスがいなくて寂しくなっちゃったとか?」

「バカ、そんなんじゃねえよ。ただあれだ。その……なんとなくだ」

「強がる必要が無くなった、でしょ?」

「お前ら……クソ、夕飯のとき覚えとけよ」

 

 頼りがいのある姉である必要が無い。

 エリスを残してきたことで本心が見えたというわけか。

 男勝りな見かけに反して、意外と中身は繊細だったりするのかも。

 

 そんな雑談を挟みながらも、俺たちはトーテムとその周囲をある程度は調べ尽くした。

 結果分かった情報は特に無し。

 ルイスの想像通り、神に供物を捧げる場所とでも考えれば良さそうだ。

 まあ、その供物を食べているのは十中八九虫なんだけどな。

 

「わざわざ虫に餌やるためにあんな場所まで作るとか、変な人たちもいるもんだね」

「まだ確定したわけじゃないし、他人の信仰をとやかく言うのはよそう」

 

 こうして、俺たちはその広場を後にした。

 貴重な時間を使った甲斐は無かったが、何も無いなら無いでそれで良し。平和なのが1番だ。

 

 俺たちは先に進む。

 まだジャンヌの髪の毛1本見つかる気配は無い。

 待っている幼子のためにも生きていて欲しいが、一体どうなるか。

 行く末はまだまだ闇の中だ。

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