12

 同年 5月19日 04:30

 

「ヴァル、この子たちの傷は洗っといたよー」

「ああ、助かるよ」

 

 数は多いがかすり傷程度。

 これなら放っておけば勝手に治るだろう。

 

「あ、そういえば名前聞いてなかったな。俺はヴァル。20人ほどのシェルターのリーダだ。君たちは?」

「ディア、です」

「エマです」

「そうか。ディアとエマはもしかして姉妹か?」

「はい。そうです」

「双子、です」

「そうかそうか。無事で良かった」

 

 俺は2人の頭を撫でる。

 空色の長髪か。家族にはいなかった色だな。

 そしてそのまま顔を上げ、皆に声をかけた。

 

「さて、もう分かっているとは思うが一旦帰るぞ。行きよりも慎重に、斥候は……俺とハルで行こう。女子3人でこの子たちを――ん?どした?」

 

 これからの行動をついて話し合っていると、ディアに服を引っ張られた。

 

「あ、あの……」

 

 ディアはそれっきり黙ってしまい、それに見兼ねたのかエマが引き継いで話し始める。

 

「実は、ひとりだけ戻ってこなかった人がいるんです。途中ではぐれたってパパが言ってて、もしかしたら……」

 

 はぐれた、か。しかも1人で。

 

「もう少し詳しく教えてくれるか?」

「は、はい!」

 

 俺の言い方が悪かったか、2人の顔が晴れた。

 連携も取れない状況で生き残っている確率など、はっきり言って絶望的だろう。

 

「パパたちはご飯を取りに行って、帰ってきたのが11日の朝早くでした」

「でもなんか失敗しちゃったみたいで、シェルターが襲われちゃって……」

「その時にひとり、ジャンヌお姉ちゃんがいないって気づいたみたいでした」

「……それだけ、か?」

 

 2人は泣きそうな顔になりながらも頷く。

 どう失敗したのか。そういったことも知りたかったが、そのジャンヌという女性は死んでいるだろうな。

 さて、なんと慰めたものか。

 

「おいヴァル、こっち来い」

 

 俺が悩んでいると積んだ荷物の方から声がした。

 

「ルイス?荷物の確認してたんじゃ――」

 

 彼女は俺が近寄ると、あろう事か胸ぐらを掴んでそのまま壁に叩きつけた。

 何もしていないはずだが、突然何を……

 

「お前、何勝手に死んだことにしてんだよ」

「は?それって、ジャンヌの――」

 

 ディアとエマには聞かれたくない話らしい。

 口を鷲掴みにされて、人差し指が立てられた。

 

「そうだよ。あの2人に残されたたった1人の家族だろ?探しに行くべきだ」

「いや、待て待て。もう10日近く音沙汰無しなんだぞ。生きているはずがないだろう」

「他にシェルターを見つけて住まわせてもらってる可能性だってあるだろ」

「1人で出歩いて運良くシェルターを見つけたと?どんな冗談だっての」

「お前……随分薄情になったな。なら1人で帰ってろ。オレだけでも探しに行ってやるよ」

 

 薄情だと?

 俺は家族を危険にさらさないためのこの考えなんだよ。

 見捨てたくて見捨てるんじゃない。

 

 俺は無言で立ち去ろうとする彼女の腕を掴んだ。

 

「行くな。無駄だ」

「いいや、行くぜ。他のやつらにも聞いてみようか。きっと手伝ってくれる」

 

 やめろよ

 

「お前だけだよ。あの子たちの悲しみが分かってないのは」

 

 だから――

 

「このまま帰ったらきっと恨まれんだろうな。あの子たちからずっと」

「やめろっつってんだろ!そうやって調子に乗るから皆死んでくんだよ!無駄なことくらい分かんだろ!」

 

「ヴァル、声大きいよ。ディアとエマが怖がっちゃう」

 

 分かってくれよ。

 どこに行ったかも分からない。生きているかも分からない。

 そんなやつをどうやって探せってんだよ。

 見つからなかったら?終わりがないだろう。

 

「お前こそ分かってねえよ。なんで生きてるかもしれねえ家族を見捨てられる?

 レスティマは?イニアは?チビたちは?

 帰ってみたらシェルターが襲われてて、でも遺体は無い。

 お前はこれを諦めきれんのかよ」

「そんな聞き方、狡いだろ……諦めたくねえよ」

「だったら――」

「でも、そうやって探しに行ったやつまで失うのはもっと嫌だ」

 

 ルイスに腕を振り払われた。

 

「呆れた。うちのリーダー様は随分と弱虫になったもんだな。

 ……今日の夜だ。お前が行かなくてもオレは行く。それまでに心決めろ」

 

 彼女はもう俺を見ることすらせず、ディアとエマに微笑みかけていた。

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