Find our color③

「いろはちゃん。これは、軽音部の長い長い伝統がある大事な曲ですよ。」

 また渚先輩が変な口調で言う。

 「長い伝統なんてないでしょ。まだ5年目よ。」

 麻衣先輩がつっこむ。渚先輩は「えへへ。」と照れていた。

 「まあ、軽音部にとって大事な曲なのは変わらないよ。」

 紅葉先輩が真剣に言う。それは、さっきの悔しそうな言葉からも伝わる。

 「そうね。いろはさん、千代さん、明音さん。あなたたちには、この曲を3週間でマスターしてもらうわ。」

 麻衣先輩も真剣な目で言う。その表情に、私たちは固唾をのむ。

 「3週間ですか?」

 私たちの沈黙を破るように、明音が質問する。

 「そうよ。私たちともう1人のメンバーの前で披露してもらうわ。」

 麻衣先輩は表情を変えずに答える。

 「ずいぶん、急ですね。」

 千代さんがつぶやく。私たちの中で唯一の経験者の千代さんが、急だ言うのだから難しいのだろう。それは、あんな2つの演奏を聴いてしまえば、私にも容易に想像できた。

 「まぁ、事情があるんだよー。」

 相変わらず、渚先輩はヘラヘラしながら答える。

 「まずは、ちゃんと弾くところからだけど、挑戦してみてね。」

 紅葉先輩が、さっきまでとは違い優しい声で言う。

 「みんな、頑張ってね。あなた達らしい演奏を楽しみにしてるわ。」

 麻衣先輩もさっきより優しい声で言う。

 「「「はい!」」」

 私たちは声を合わせて答える。


 先輩たちから、譜面を渡されて私たちは練習に戻る。私は、やっとベースに指を置く場所が分かったくらいだ。勢いで返事をしたものの、「失敗するんじゃないか」「そもそも出来ないんじゃないか」「2人に迷惑かけるんじゃないか」と今になって心配になる。

 「不安になっちゃった?」

 そんな私に声を掛けたのは千代さんだった。

 「うん、2人に迷惑かけちゃうかもと思うとね。」

 「私をバンドに誘ってくれた勢いはどこ行ったの?大丈夫よ。3人で頑張りましょう。」

 「ありがとう。千代さん。」

 

 この日から、先輩たちはみんなで部活に揃うことはなくなった。部室のカギを開けるために軽音部に来て、30分くらい練習をみると、どこかへ行ってしまうようになった。

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