モノクロ・ガールミーツガール⑤
「あなた達、遅いわよ。」
先生は、少し怒りながら私達に言った。
「すみません。迷ってしまって。」
「迷う距離でもないと思うけど。まぁしょうがないわね。そこが空いてるから早く座りなさい。もう始まるわよ。」
「はーい。」
講堂は、映画館のように前方のステージから段々と高くなっている。2学年分くらい収容できそうな広さで、1年生がまばらに座っている。私と明音は、後ろの方の真ん中の席に座った。先生の言った通り、講堂が少しずつ暗くなり、デモンストレーションが始まった。
剣道部、卓球部、テニス・・・と運動部が続いた。最後にバスケ部が始まった。明音は、ただじっと先輩たちを真剣な目で見ていた。その後、文化部と委員会の勧誘が始まった。「あんまり、惹かれるのないなー。」なんて考えていた。脳裏には、ギターの少女の音が流れている。あの時ほどの衝動がないのだ。
「最後に軽音部の演奏です。」
司会の生徒の声に合わせて、さっきの赤の先輩たちがステージに上がり用意をする。
「あの人たち、軽音部だったんだ。」
ボソッと私がつぶやく。
「気になる?」
「ちょっとね。」
明音は、意外そうに私に尋ねた。私は素っ気なく返した。
「こんにちは、軽音部です。普段は、部室棟で活動しています。今日は1曲だけ演奏します。演奏で気になってくれた子は是非遊びに来てください。」
赤の先輩が一礼をしたあと、他のメンバーたちと目を合わせる。マイクを通して呼吸が聞こえる。息を大きく吐き出し、短く吸った後、彼女の目つきがかわった。その雰囲気は講堂全体に広がっていき、辺り一面が静寂に包まれる。私もその無色透明な波に飲まれる。ただ心臓の音だけが時を刻んでいる。その静けさを待っていたように赤の先輩は短く言う。
「聞いてください。」
ドラムの乾いた打音が静寂を破りリズムを刻む。少し遅れて、ギターがメロディーを奏でる。そのメロディーは激しくはないが、それでも確かな力強さがあった。気づいたらすべての楽器が音楽を奏で始めていた。そして、赤の先輩が声をだす。歌は低く包み込むような優しい声から始まった。その歌声は真っ暗な講堂を照らすろうそくの灯火のように温かった。
徐々にギターなどの楽器が激しくなり始める。それに伴い灯火は大きく大きくなっていき、いつの間にか灯台のようにあたりを照らす。あのか弱かった火は炎になり、あたりを照らす太陽になる。いつの間にか、講堂の屋根はなくなったようだった。圧倒的な存在感の小さな太陽は気高く歌う。声には芯が通っており、誰かではなく自分に叫びかける。
ビリビリした。
そして、ゆっくりとしかし後味は残さず沈んでゆく。
「いろは。私、軽音やってみたい。」
少しの静寂の後、明音は目をキラキラとさせながら呟いた。
「うん。私も。」
私が、そう答えるのに時間はかからなかった。
講堂がざわめきを取り戻し、デモンストレーションは終了した。そして、色々あった入学式の日は終わった。
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