第42話 エイラの処分

カールside


数週間が経過した。


 レベル30のボスゴブリンの件による被害はなく、オルビス魔法学園側での生活は順調だ。


 ティアナは俺の世話をする傍ら、家事魔法の研究に勤しんでおり、大した差別は受けてない。


 最近はレイナ王女陛下とも仲良くなったっぽくて、一安心だ。


 スカロンはというと、ルビにアタックされまくりである。

 

 だけど、スカロンは決して堕ちないから朴念仁なのか芯のある男なのか判別がつかなくなっている。


 SSクラスにはエリートたちが集うため、その分熾烈な競争が繰り広げられるが、俺たちはストレスを受けたら互いに話し合ったり、美味しいものを食べたりしながら発散している。


 実に健全な生活だ。


 一つを除けば。


「カール」

「エリカ……」

 

 最近、エリカの距離感がバグっている。


 隙さえ見つければエリカは俺に近づいてきて強烈なスキンシップをしてくる。


 もちろん、人様が見ている前では彼女自体も自重しているが、我慢している時の顔もまたかわいくて正直にいって俺の理性もやばい。


 今日は休みだし、オルビス魔法学園を出て我が家で家デートを楽しむために我が家にやってきた。


 馬車から降りた俺とエリカだが、邸宅の正門にいてもエリカは俺にくっついたままなかなか離れてくれない。


 寮にいる時も、毎晩毎晩スカロンを盾にやってきては一緒に寝ようだの、休日になれば、一緒に昼寝をしたり、スキンシップをしたりと、我慢しているこっちの身にもなってくれよって話だ。

 

 でも、仕方ないもんな。


 この性格こそがボルジア家の特徴でありエリカという女の子の個性だ。


 と、俺がやれやれとばかりにため息をついて、すでにエリカの巨乳によって挟まれた俺の腕に伝わる気持ちよさを満喫して我が家の中に入った。


 今日は家でデートしながら、メイドたちと卓球でもしよう。


 そう思っていると、お腹が膨らんだメイド服の女性が不安そうにあっちこっち歩いている姿が見えてきた。


 メイド長のサーラさんである。


 そういえば結構膨らんどるな。


 俺が不思議そうに見つめていると、エリカがサーラさんのお腹を見てから俺を上目遣いして頬をピンク色に染めて俺の腕をもっとギュッと自分の胸に寄せる。


 やめろ。


 その反応……


 可愛すぎるだろ……


 なんで空いてる方の手でお腹さすってんだよ。


 それにしてもちょっと気になる。


 身重だから動くことも一苦労のはずなのに、あんなに忙しなく動くのは妊婦にとってよろしくない。


 なので、俺はエリカから離れてメイド長であるサーラさんのところへ行き、話をかけてみることにした。


「サーラさん」

「カール様!?エリカ様も……おかえりなさいませ」

「どうしたんですか?」

「……」


 俺に問われたサーラさんだが、困った表情を浮かべるだけで、何も言ってこない。

 

 俺は只事ではないことに気がつき、サーラさんに真面目は視線を向けてくる。


「言ってください」

「……実はですね」


 サーラさんは父上とエイラさんの間で何があったのかをつまびらかに話てくれた。


 年間報告書の問題、納税の問題。


 今日は父とエイラさんとも国王陛下に呼ばれて、エイラさんをどうするか決めるということまで。


 デートどころじゃなかった。


 俺とエリカは家デートは今後すると決め、早速王宮に向かった。


X X X


アーロンside


王宮にある国王の執務室にて


「捜査結果は以上でございます」

「ふむ。ご苦労様。さて、そろそろエイラの処分について考えねばならないが……」


 国王は窓のフレームに手を置いて、空を見ながら言った。


 アーロンは国王の後ろ姿を見て固唾を飲んだ。


 すると、国王は後ろを振り向き、アーロンを見つめた。


 国王の目と口は


 大いに


「ん?」


 予想と違う反応の国王の顔を見て、アーロンはキョトンと小首を傾げた。


「アーロン。これは好都合だぞ。君の活躍のおかげで商人たちが着服したお金のほとんどを押収できて、すでに我が国の国庫は非常に潤っておる。新たに獲得した魔境の地の開発のために資金が必要だったが、これでなんとできそうだ。忘れたへそくりを見つけたような感覚かな」

「国王陛下……国の財政をへそくりと同列で語るのはおやめください。資金回収のために泊まり込みで二週間も激務に苛まれた税務局の職員が聞いたら泣きます」


 アーロンはジト目を国王に向けてくる。


 だが、国王は反省するそぶりを見せることなく、また話す。


「貴族派も絡んでいることが明らかになったわけだ。これまで幅を利かせすぎていた奴らの勢力を弱めるきっかけをエイラは作ってくれたようなもんだ」

「まあ、それはそうですね。鑑定を間違えたオルビル魔法学園のダンジョン鑑定士の件も不正な形で資格を得たことが捜査で明らかになりましたから。勢力を弱めても、奴らに抵抗できる名分はありません。とても悔しいですが、あのバカ女がしでかしたおかげで、国王陛下にとって有利な流れになったのは事実です。俺は……」

 

 ドス黒いオーラを出しつつ握り拳を作るアーロン。


 国王は満足げな表情でアーロンのいるところに行き、彼の肩に自分の手を置く。


「お前が取り仕切ってくれたおかげでスムーズに進んだ。前の宰相がやったら、とんでもないことになったんだろう」

「褒めても何も出ません」

「で、お前の考えは?」

「は?」

「お前だったらエイラをどうする?」

「俺の意見なんか聞いてもどうしようもございません」

「部下の意見をちゃんと聞くのが目上の人の役割だ」


 国王は図々しい面持ちでアーロンに問うた。

 

 一瞬、アーロンのコメカミに血管が浮いたが、彼は気分を落ち着かせて口を開いた。


「……番犬に厳罰を課してもなんの意味もありません。番犬らしく吠えさせるのがイラス王国のためになるんでしょう」

「おいおい、血の戦姫とも戦争の女神とも言われるほどの女を番犬呼ばわりするのは世界でお前一人だぞ」


 国王はドン引きした。


 だが、内心嬉しいようで国王であるカルロスの口角は微かに吊り上がっている。


 国王は彼から離れて考え込む仕草を見せる。


「ふむ……1ヶ月の謹慎処分でいいだろ。エイラがいるという事実だけで、他の国々に与えるプレッシャーは絶大だ。それはお前も否定できないはず」

「……」


 アーロンは悔しそうに口を噛み締める。


「だが、やはり足りない」

「足りない?」

「そうだ。ボルジア家の領内にいた商人たちには厳罰が待ち受けている。つまり、あの膨大な土地を管理できる主体がなくなったんだ。エイラと執事たちにできるとは到底思えない。このままだと間違いなくボルジア家の領内はカオスと化す」

「それは激しく同意です」

「だからお前がボルジア家の領地の管理も含めてエイラの面倒も見てやってくれたまえ」


 こともなげに言ってくる国王の言葉にアーロンは目をカッと見開いて


「は、はあ!?なんで俺が!?」


 予想を遥かに超える国王の言葉にあの賢いアーロンも大驚きである。


「いや……今更与えた領地を取り上げるのもなんだし、あの膨大な領地を治めるとなると人材もたくさん必要でね。最近はお前も知っているように人手不足問題が深刻だから、王宮側が人を遣わすのはほぼ不可能に近いんだ」

「だったら、他の中立派の連中に任せれば済む話では!?」

「あのプライドの高いエイラが、他の貴族たちの話をまともに聞くと思うのかね?きっとマウント取られて貴族の連中が泣いて逃げ出す羽目になるぞ」

「……」


 アーロンは反論ができなかった。


 あの恐ろしい男まさりな女をコントロールできる人が果たしてこの世に存在するのだろうか。


「エイラも今回の件についてはかなり反省している。だから、お前がエイラに優しくしたら、いうこと自体は聞いてくれと思うがな」

「ふっ、優しくしたらいうこと聞くって、子供より聞き分けが悪いですね」

「はあ……」


 国王は頭を抱える。


 やがて国王は真面目な表情をして、


「ボルジア家の執事長から話は聞いた。お前、エイラに命を助けられたよな?」

「っ!あの執事……余計なことを」

「いくらお前が賢くても、多くのことを知っても、死んだら終わりだ。世の中は理屈で出来てないんだ。理不尽なことばかりが起きている。エイラはその理不尽の最前線でずっと活躍してきたんだ」

「……」

「いくら俺がお前の身を案じて、警備が甘いハミルトン家の敷地を特別区域に定めても、お前が殺されかけたあの出来事のように不幸は突然やってきる」

「……」

「前にも言っただろ?エイラを大切にすれば、エイラはお前の欠けているところを補ってくれるって」

「本当に言葉がお上手ですね。カルロス様。言っておきますが、俺はあの女と仲良くなるつもりは毛頭ございません」

「ふっ、確かに二人仲良しな姿を想像したら鳥肌が立つな」

「カルロス様……」

「まあいい。話は終わりだ。エイラは貴賓室にいる。だからお前が伝えてこい。謹慎1ヶ月だ。あとは、わかるよな?」

「いや、話はまだ……」

「ああもう、早く出ていけ!俺は忙しんだ!」


 と、国王は両手でアーロンの肩を抑えて追い出した。


「……」


 納得いかない顔のアーロン。


 彼は重い足を動かして貴賓室に向かう。


 貴賓室に着いたアーロンがドアを開けると、作り込まれたソファーに赤髪の絶世の美女ともいうべき女が軽鎧姿で座っている光景が目に入る。


 彼女は普段より気落ちしている様子のように見える。


 彫刻職人が作ったのではないかというほどの整った顔に、引き締まった長い肢体。


 鍛え抜かれた細い腰回りには贅肉がまったくついてなく、女として恵まれた豊満な胸とボリュームのあるお尻。


 窓からの陽光を浴びるエイラの姿は女神そのもので、アーロンも心の中で納得する。


 エイラはアーロンの存在に気がついて自分の鮮やかなエメラルド色のキレ長の目で彼を捉える。


 すると彼はエイラを見て、口を開いた。


「おい、番犬」


 さっきまで暗い表情だったエイラは眉根を顰めてアーロンを睨め付けてくる。


「はあ?死ね。くそが」



 




追記



wwwww



思いのほか結構な文字数になりましたね。


次回は二人のやりとりが続きます

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