悪役がいっぱい出てくるエロゲのキモデブ悪役貴族に転生した。痩せて、破滅回避し悪役達による犯罪を未然に防いでスローライフを目指す

なるとし

第1話 転生したら200kgほどのキモデブだった

 高校生の俺はトラックに轢かれて死んでしまった。


 思えば短い人生だった。


 アニメやゲームなどが好きで、友達は少なく、いつもクラスでは目立たない立ち位置だった。


 いわゆるオタクってやつだ。


 しかし、俺は運動が大好きで、サッカー部に所属しており、たまにバスケットボールの助っ人として試合に参加したり、バレーボールもやったりと、とにかく日本でよく知られたスポーツには心得がある。


 オタクである故に、陽キャやリア充たちとは連まなかったが、俺の学校生活自体はそんなに悪くはなかった。


 まあ、どの学校で俺みたいなキャラはクラスに一人くらいいるんだろう。


 みんな優しかった。

 

 しかし、俺は死んでしまったのだ。


 このまま俺は一体どこへ行ってしまうのだろうか。


 お父さんとお母さんと妹にありがとうと言いたかったのに……


 親しくはなかったけど、俺に優しく接してくれた学校のみんなにもありがとうと言いたかったのに……


 俺が暗闇の中でしょんぼりしていると、突然ものすごい頭痛が走った。


「ん……」


 頭を抱えてたままなんとか耐えようとしたが、俺は


 気を失った。


 どれくらい経ったんだろう。


 目が覚めた。


「?」

 

 目の前には満漢全席を彷彿とさせる凄まじい数の料理がテーブに置いてあった。


 しかし、

 

「お肉ばかりじゃん……」


 そう。


 メニューのほとんどに脂がたっぷり乗っているお肉が使われている。


 料理一つとっても、日本のラーメンのメンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシを連想される程の迫力があった。


 これを食べるには少なくとも体育会系10人は要る。

 

 しかし、スプーンとフォークとナイフは俺のところにしか存在しない。


 つまり、これは全部俺が食べる分なのか。

 

 そんなのあり得ない。


 この肉料理を全部食べるのはいわば拷問に近い。


 胃袋が破裂しちゃうぞ。


 と、苦笑いをしていたが、俺は違和感を感じてしまった。


 

 

 頬肉の重さで、ろくに笑うこともできなかった。


 なので、座っている俺は俯いて自分の体を確認した。


「な、なに!?」


 妊婦なんなんぞ遥かに凌駕するほどのボテ腹にいかなる巨乳の女の子と比べても簡単に勝てそうな脂肪まみれの胸。腕は成人男性の太ももよりも太く、足に至っては歩くことができるかと疑いたくなるほどでっかい。


 俺が座っている木製の高級椅子は今にも壊れる勢いで音をあげており、俺の脇とお尻あたりには脂肪の熱によって汗がいっぱい出て酸っぱい匂いを漂わせている。


「カール様……どうかされましたか?」


 戸惑っている俺の耳に女の子のか弱い声が聞こえてきた。


 どこかで聞いたことのある声に一瞬安堵したが、この状況自体にまだ追いついてないから、俺はいそいそと周りを見回した。


 それにしても広い部屋だ。

 

 天井には複雑で派手なパターンの模様が描かれて、その真ん中には見るからに高そうなシャンデリアが暖かい光を発している。普通は蝋燭か電球を使うんだが、あのシャンデリアの光はそのどちらでもない。まるで夜光のようにそれ自体が光を放っているように見える。一体何によって光っているんだろう。


 俺が視線を他のとこに移すと、俺を目を引くようなすごいモノたちが目白押しだった。


 まずベッドから。


 天蓋つきのダブルサイズベッドで、飛び込みたくなるほどふわふわな布団が綺麗に敷かれている。複雑なパータンが刺繍されていることを見るにおそらく相当高い布団だろう。


 天蓋は四つの柱によって支えられており、まるでギリシャ神話に出てくる神殿の柱を連想さえるほど作り込まれている。


 マットレスといい、枕といい本当に飛び込みたくなる最上級ベッドだ。


 床のところが少し凹んでいるのが気になるが、俺が家で使っているイチトリの安いベッドとは大違いだ。


 ベッドだけじゃない。本がいっぱい置いてある机も中世時代の一流職人が作ったことがよくわかるほど素晴らしい出来だ。


 そして床には総理大臣や外国の大統領が泊まるような五つ星ホテルに使われそうなペルシャ絨毯みたいなものが敷かれてある。


 それから……


 机の隣に設置された黄金色の縁の鏡が目に入った。


「っ!!!」


 そこには座って驚いているキモデブの姿が写っていた。


 俺は戸惑い、立ち上がる。


 すると、その鏡に写っているキモデブも立ち上がった。

 

 乱れた紺色の髪、長くて目を隠す前髪、そこから覗くキモすぎる肉によって陥没寸前の目。デブにありがちな豚鼻。パンパンになったハムスタの頬に匹敵するほど膨れ上がった頬。


「こ、これが……俺!?」


 俺は顔を歪めて後ずさる。すると、鏡の向こうにいるキモデブも俺から離れた。それと同時に胸とお腹が揺れ動く。


 しかし、このぶっとい足を動かすのに慣れてないのか、俺はステップを踏み間違えてそのまま倒れてしまった。


「あああ!!!」

 

 俺は床に派手に転んだ。普通の体なら衝撃は少ないはずだが、この巨大な猪みたいな体となると話が違ってくるのだ。


「カール様!!ご無事ですか!?」

「いたたた……」

  

 さっきの女の子がまた言ってきた。

 

 俺が自分の尻をさすりながら目を開けると、


 メイド服を着た綺麗な女の子が腰をかがめて俺を心配そうに見つめてきた。


 明るいブラウン色の長い髪は薄いピンク色の可愛い髪留めによって一部が斜めに結われ、宝石のような薄い紫色の瞳は潤んでいる。顔は全体的に小さく、整っているほうだ。しかし、まだ幼い感じが拭えず、頭につけたプリムの存在が彼女の可愛らしさを強調する。


 しかし、不思議なところが二つある。


 耳が長い。

 

 そして、この子は


 俺がずっと見てきた女の子だ。


 俺は無意識のうちに呟く。


「ティアナ!?」

「は、はい!?」


 どうやら俺の予想は的中したようだ。


 この子はティアナという名前の女の子で、いわゆるハーフエルフだ。


 なぜ知っているのかというと、ティアナの顔を見た瞬間、ここが『マジック★トラップ』という過激なエロゲシリーズの世界であることに気がついたからだ。


 この200キロとか軽く肥えそうなキモデブの名前はカール・デ・ハミルトン。 


 ハミルトン公爵家の長男であり、悪役である。


 もちろん悪役だから、主人公のヒロインたちを寝取りまくって最後は主人公によって殺される運命にあるのだが。


 このデブが女の子を貪っていく姿があまりにもハードすぎて賛否両論がはっきり分かれるゲームだが、俺はこのゲームが大好きだった。


 高校生でありながらもコツコツお小遣いを貯めて、シリーズ全作を購入し、数えきれないほどプレーをした。


 俺は基本友達が少ないから、家に帰るなりかわいいキャラがいっぱい登場するこのゲームをやりながら色々お世話になったものだ。


 みたいなことを考えていると、ティアナちゃんが涙を流しながら口を開く。


「カール様!もうこんな栄養バランスが偏った食事はやめてください……このままだとカール様はもっと太って、歩くことさえできなくなってしまします!私はカール様のことが心配で心配で……」


 聞き覚えのあるセリフだ。


 ゲームの開始時点でティアナは既にカールによっていろんなことをされている。


 これは、なぜティアナが処女を失ったのかということをユーザに伝えるための回想シーンだ。


 カールの体を心配したティアナ。

 

 しかし被害妄想が強いカールは、ティアナが自分を見下していると錯覚して、


『お前も他のくそ女と同じで、俺を無視しているんだな!!もういい!!俺が男を教えてやる!!二度と見下せないほど徹底的に教えてやるからな!!!』


 と言って、料理がいっぱい置いてあるテーブルをひっくり返して、ティアナの処女を強引に奪う。


 カールが童貞卒業と黒化したきっかけとなった瞬間である。


 つまり、シナリオ通りなら俺はここでティアナと関係を持つことになるのだ。


 俺が固唾を飲んでいたら、目の前にはティアナがクリスタルのような涙を流し続けていた。


 宝石のような紫色の瞳からはキモデブである俺の姿がよく映っている。


 俺は心が痛くなった。


「……」


 なので俺は立ち上がり、







 机をひっくり返した。


「っ!!」


 ガチャンと陶器やガラス製の皿が割れる音や肉料理が床に落ちて潰れる音と共に机が倒れて耳が痛くなるほどの大きな音が聞こえる。


 めちゃくちゃになった光景を見つめるティアナは目を丸くして、俺と倒れたテーブルを交互に見つめる。



『お前も他のくそ女と同じで、俺を無視しているんだな!!もういい!!俺が男を教えてやる!!二度と見下せないほど徹底的に教えてやるからな!!!』



 心の中でカールの叫び声が数十回もこだまする。


 まるで、シナリオ通りに動けと無言の圧力をかけるように。


 俺は口を開いた。



「ダイエット、手伝ってくれない?」





追記



タベモノヲ・ソマツニシチャ・イケマセン

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