本当の恐怖 後編
アジトの中で悲鳴を耳にした他の男4人組は慌てて階段を駆け下りる。化け物がいないか辺りを確認しながら、4人は顔を見合わせた。
「ど、どうする?」
「どうするったって……車で逃げるしか」
「車か……全員の車裏に停めてるよな。鍵持ってるか?」
尋ねられた1人の男はポケットをまさぐると顔を青ざめる。
「やべぇ……車につけっぱなしだ」
「いや好都合だ。このまま車に突っ走るだけだからな」
「なら、話しは決まったな……行くぞ」
4人組はそのまま倉庫を駆けて行くが2人が突然何かに躓いて転んだ。
「何やってんだよ!早く起きろ!」
「化け物に見つかっちまうだろ!」
転ばなかった2人組が声を掛けると、
「あ、足に何か……」
「掴まれた様な……」
転んだ2人が足元を見てみると……着物を着た女2人が地を這いながら掴んでいた。
「うわぁぁぁっ!」
「たっ、助けて……」
掴まれた男が助けを求めるが、2人は捕まった2人を見捨てて先に行ってしまった。
「置いていくなぁぁっ!」
「あいつら……ふざけんなくそがぁぁっ!」
男2人は叫ぶが、仲間は戻って来る事はなかった。すると着物を着た2人の幽霊がゆっくりと顔を近付け耳元で囁いた。
「お仲間は逃げてしまいましたねぇ……」
「あたいらが相手にしてやるよ……」
そう囁いた瞬間、2人組を暗闇に引き摺り込んで行った。逃げた2人は車まで走って来た。車内を見渡して鍵がささっているのを確認すると、すぐさま乗り込んだ。
「早く出せっ!」
「分かってる!」
慌ててエンジンをかけて車を動かし、倉庫から脱出した。地獄から生還したと確信した男達は歓喜する。
「やった!出れたっ!」
「これで帰れる……俺、もうこんなチンピラなんか辞めて真っ当に」
「生きて帰れると思っちゃダメだよ。お兄ちゃん達」
運転していた男の真後ろに女の子が乗っており、手には鎌が握られていた。首元をゆっくりと切り付け運転していた男の鮮血が車内に飛び散る。
「ぐぇぇっ……」
「嘘だろ!?なっ、なんでっ!?」
顔に返り血を付けながら女の子は顔をムッとさせながら、
「お兄ちゃん達は絶対怒らせちゃいけない幽霊達を怒らせたんだから仕方ないよ。ボクもお兄ちゃん達を許さないからね」
車は暴走し始めると、ガードレールを突き破って暗闇の海の中へを落ちていった。生き残った男が車からなんとか抜け出した。
「ぶはっ……はぁはぁ……助かった……」
生き残った男は防波堤を目指して泳ぎ、這い上がろうとしたその時。
「おおっと、逃がさないよ?」
「えっ?」
男が振り向こうとした瞬間、再び海の中に引き摺り込まれた。暗い海の中で男が見た物は人魚の様な姿をした女が映っていた。しばらくすると、アジトに1台の車が徐行しながら入って来た。運転手は顔を青ざめながら後部座席に座っていた男に声を掛ける。
「ぜ、全員……死んでる様です……五狼先生……」
「部下から連絡がありましたが、何があったというんでしょうか……」
五狼と部下は車を停めて降りて辺りを見渡す。五狼は部下に声を掛けた。
「私は万が一の為に帳簿や現金を回収して来ます。貴方はここを見張っていなさい」
「分かりました、お気をつけて」
五狼はアジトに入って行くと、部下は車に体を寄りかかせながらタバコを吸い始める。一息ついていると、辺りに霧が出始めた。
「薄気味悪いな……」
独り言をいいながらタバコを吸っていると、
コツコツ……。
ハイヒールで歩く様な音が聞こえて来た。気配を感じた部下が車のライトをつけて照らして見ると、背が高く、赤い服を身に付け、顔にはマスクで覆われており、白く透き通るような肌をした若い女が歩いていた。
「女……?こんな所に?おい、こんな所で何をしてるんだ?」
部下が女に尋ねると、
「私……綺麗?」
「はぁ?あんた何言ってんだ?そんな事より、なんでここにいるか聞いてんだよ。ここで何してるんだ?」
部下がそう言った途端、マスクの女の眉間が歪み始める。
「どうでもいいですって……?トサカに来たわ」
マスクの女はショルダーバッグから巨大なハサミを取り出した。部下は逃げようとしたその時。突然左足が切りられた。
「ぐわぁぁぁっ!なっ、なんだ!?」
男は車のドアを掴んで咄嗟にバランスを取ろうと足を見ると、車の下から包丁を持った女這っていた。
「そんな足、いらないよね?」
「なっ、なんだと!?」
部下が包丁を持った女に言い放つが、その隙にマスクの女が目にも留まらぬ素早さで部下の首を切り落した。
「まったく、どうでもいいって事はないでしょ……」
マスクの女がハサミをしまうと、手や腕に包帯を巻いた女がコソコソと車に乗り込もうとしていた。マスクの女が首を傾げる。
「あーあ、先を越されちゃった」
「あら、貴女達は……」
「あっ、はじめまして……口裂け女さんですよね?私、メンヘラさんって言う地縛霊です」
「私はカシマレイコ。初めまして……口裂け女さん、メンヘラさん」
「あらあら、初めまして……けど、獲物はあと1人だからもう人間は残っていないんじゃないかしら?」
「そ、そうなんですか!?さっきはトンカラトンさんに先を越されちゃったので次こそは殺せると思ったのに……キィィィッ!!」
「私は別に何人もの足を刈り取れたから良いけど……」
悔しかったのか、メンヘラは膝から崩れ落ちながら頭を掻きむしる。
「ま、まぁ良いじゃない。次頑張れば」
口裂け女とカシマレイコが優しく背中を擦りながら宥め始めながらアジトに目を向けて呟いた。
「さぁ、最後は任せたわよ。メリーちゃん」
その頃、仲間の死体を退かして五狼がアジトで帳簿や多額の現金をバックに積み込んでいると、携帯電話に非通知着信が入った。不審に思った五狼は着信に応じた。
「もしもし、どなたですか?」
《もしもし、私、メリーさん》
電話の向こうからは、小さい女の子の様な声が聞こえて来た。五狼は聞き覚えがあったのか、尋ねる。
「その声は……沖縄で見た小娘だな?」
《へぇ、覚えてくれてたんだ。なら自己紹介は必要ないわね?》
メリーはクスクスと笑いながら五狼に言い放と、五狼の眉間にシワが寄る。
「ここの仲間を殺したのはお前だな!?」
《まぁ、あたしだけじゃないんだけどね?》
「なんだと!?こんな事してタダで済むと思うなよ!?何処にいる!?この手で殺してやる!!」
五狼が息巻きながらメリーに言い放つと、
《え?今?今は……あんたの》
「後ろに居るの」
「────っ!?」
メリーは五狼の首を隠し持っていた果物ナイフで突き刺した。
「よくも龍星を痛めつけてくれたわね、恨みを晴らさせて貰うわよ」
「がっ、は……」
「地獄に……堕ちろ!!」
メリーが果物ナイフを引き抜くと、五狼の首から鮮血が勢い良く飛び出した。返り血まみれになったメリーはアジトの窓から顔を出し、声をかけた。
「みんな~終わったわよ~」
メリーの号令がかかった途端、辺りから暴れていた女達が現れた。幽霊達はメリーを先頭に再び病院に戻って行った。
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