百鬼夜行

 病院を出るとテレビ局の車が何台も病院に向かって行った。恐らく龍星の一件が報道される事になったらしい。メリー達はお構い無しに街を歩き始める。報道番組の車からアナウンサーが降りて来て、直ぐに中継が始まった。

 

《私は今、昨夜傷害事件で被害者が運ばれた○○病院にやって参りました。被害者の名前は警備員に勤めてる福島龍星さん20歳が意識不明の重体との事です。警察関係の情報によりますと、福島さんは空港の帰り道に何者かによって拉致されたとの事です……》

 

 龍星の報道が全国に広まり、沖縄のザンや研修先で出会ったテケテケ達の耳にも入り、仕舞いにはたまたま観光客が観ていたYou○ube配信されてるのを目の当たりにしたブラッディ・メアリーとラ・ヨローナにも知れ渡った。怨霊達は手分けして今まで出会った怨霊達に声を掛け合い1箇所に集まる形となった。1つの方向からは普段龍星と共に暮らしていたメリー達。もう1つの方向からは口裂け女を筆頭にアクロバティックサラサラやお岩さんやメンヘラさん、トンカラトン。更に別の方向からは研修先で出会ったテケテケや首なしライダー、濡れ女や7人ミサキ達がやって来た。

 

「龍星こんなに怨霊達をたらし込んで居たの?」

「そうみたいじゃなぁアイツめ、起きたらタダじゃおかん」

「ねぇねぇ、あんたらも龍星の知り合い?」

 

 十字路に差し掛かり、テケテケがメリーに声を掛けた。

 

「そうだけど、あんたらはどっから来たの?」

 

 メリーがテケテケに返すと、

 

「○○っていうとこよ。龍星が研修で来たのよ」

「やっぱりね。テケテケでしょ?なんで足ついてんの?」

 

 メリーが首を傾げるとテケテケは頬を赤らめながら、

 

「しょ、諸事情があんのよ!で、相手のアジトってどこよ」

「え、知らないの?」

「え、あんた達知ってるんじゃないの?あたしらよそ者だし。そっちのマスクのお姉さんしらないの?」

 

 首なしライダーが口裂け女に尋ねる。

 

「さ、さぁ?お姉さんも分からないわ……」

「うむ、導かれるがまま歩いてたから」

「怨霊が揃いも揃って誰も分かんないの!?なんの為に歩いてんの!?」

 

 メリーは頭を抱え込む。すると、十字路のカーブミラーが波紋の様に広がり始めると、金髪の白人の女と褐色肌で黒いドレスを着た花嫁が現れた。

 

「ここがジャパンね?アメリカと大違いね」

「ソリャソーヨ。コウツウリョウガチガウカラネ」

「わっ!またなんか出て来た!」

 

 隙間女が思わず声を出してしまった。2人は隙間女に顔を向ける。

 

「あたし日本語分かんないんだけど、どうしよヨローナ」

「ドウシヨーネ。ネェメアリー、ニタヨウナカンジスルケドナカマカナ?」

「かもね。アジトはあたしが掴んでるから勝手に着いてくるんじゃない?」

「ソウダネ。オーイ、コッチダヨー」

 

 ヨローナは隙間女に手招きをして道を教えると、

 

「なんか外人が知ってるっぽいよ」

「そんな感じに見えるわね、付いていくわよ」

 

 隙間女が感じ取ると、メリーの合図で動き始めた。移動する様を見た花子が笑い出す。

 

「ははっ、怨霊が大勢で同じ方向に歩くとまるで百鬼夜行じゃな」

「ふふっ、そうですねぇ」

「みんないい?相手は人間だけど容赦しないくていいわよ」

「もちのロンよ!」

「龍星より怖いものなんてこの世にないからね」

「ひっひひひひひっ、なななななんか、おももも面白いね」

「ちょっとあんた、マフラーなんか付けて暑くないの?」

 

 怨霊達がゾロゾロと歩くと街頭が何故か通り過ぎる度に破裂して行く。真っ暗闇を歩いていると怨霊達はそれぞれ不気味に目を光らせている。しばらく歩き着いた先は、人気のない港の倉庫だった。メアリーが振り向いてアジトに指を差す。

 

「アイツらのアジトはここよ。あたしは鏡の怨霊だから探すのは簡単だったわ」

 

 メアリーが発音の良い英語で言う。だが、日本育ちの怨霊達は全員首を傾げる。

 

「え、何言ってんの?え?ここなの?」

「そ、そうなんじゃない?電気ついてるし」

「誰か英語喋れないの?」

「発音めっちゃいいんだけど」

「早口で何言ってるかわかんない」

「それな!あたしも思った!」

「ちょっとそこのバイク乗ってる人、止めてくれる?うるさいんだけど」

「ブンブンうるさーい」

「あっ、わりわり」

 

 7人ミサキがヒソヒソと言い合う。それを見ていたヨローナは、

 

「ネェメアリー、ツウジテナイミタイダヨ?」

「こ、こいつら……ぶっ殺してやりてぇ……」

 

 メアリーが今にも爆発寸前しそうになっていると、

 

「お姉ちゃーーーーーん!」

 

 反対側から声が聞こえて来た。メリーには聞き覚えがあるのか耳をピクピクさせる。

 

「この声は……まさかっ!?」

 

 ショートカットで黒いパーカーを着た女の子が全力で走って来た。

 

「ゼーゼー、お待たせ!」

「あんたまで来たの!?」

 

 若大将が肩で息をさせていると、

 

「ボクだけじゃないよ……あー疲れた」

「え……まさか……」

 

 メリーが青ざめていると、くねくねが抱いていたおくまが何かに気付いて髪を伸ばし、くねくねをちょんちょんと突っつく。

 

「ん?おくま、どーしたの?」

 

 おくまが海の方に髪を伸ばすと、海面から顔が浮かんで来た。

 

「ぷはっ!私もいるよ!」

「ザン!?あんたも!?」

「な、なんなんじゃコイツらは……」

「また変なのが増えたわね。こいつらも怨霊なのか?」

 

 首なしライダーが言うと、メリーが手をパンパンと叩きながら答えた。

 

「はいはい。みんなー、この子らは沖縄の人魚のザンと、カマ女っていうオカマの幽霊だからね」

「えっ!?人魚!?」

「マジ!?見たい見たい!」

 

 アジトを前に人魚の前に集まる。そこで遂に、

 

「てめぇらいい加減にしろっ!」

 

 メアリーがキレた。メアリーの怒号でシーンと静まる。そんなのお構い無しにメアリーは英語で喋り続ける。

 

「遊びに来たのか!?あぁん!?調子乗るのもいい加減にしろこのジャップ共が!!」

「マァマァメアリーオチツイテ」

 

 ヨローナが宥めると、

 

「そうね、さて。ここからは各自自由に殺りましょ?フリーよフリー」

「そうじゃな、向こうも大勢いるだろうし、1人は確実に殺せるじゃろ」

「それじゃ行こっか」

 

 怨霊達はそれぞれ別れてアジトに突入して行った。

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